「しけ」が1番似合う男

三味線屋勇次
「新・必殺仕事人」仕事人

時代劇、というと、やっぱり「水戸黄門」とか「名奉行遠山の金さん」といったシリーズの印象が強いと思う。前者ならば、諸国漫遊の旅(といってもシリーズ毎に目的、ないし目的地はあったりもする)を続ける黄門様御一行が訪れた町で、例えば代官であったり藩の重役であったりが悪徳商人とかヤクザと手を組んで罪もない人々を苦しめているのを、ひょんな事から関わって万事めでたく解決…というものだ。大体45分位から立ち回りに続けて「このお方を何方と心得る!!」が始まるのも、1時間の間に大抵由美かおるさん演じるくノ一
が入浴シーンを見せたりするのも、言わば鉄板のお約束であろう。もっとも昨今のシリーズになってからは色々と今までに無い軸が導入されているので、世間一般で言われている程「水戸黄門」もマンネリを続けている訳ではないと思うのだが。

ただ、マンネリ、ワンパターンと揶揄されようともそこに安心を見出す人もいる。そもそもある程度のパターンが確立されている、というのはより我々に近い存在とも言える(?)ヒーローモノドラマ等でも同じ事が言える訳だし、マンネリ的ワンパターンと悪口を言われようと、案外廃れていないのも事実だろうし、そういう意味では「戦隊ヒーロー」とか「ウルトラマン」といったものと時代劇はかなり近しい存在と言えるだろう。実際、私はクラスメイトが「全員集合」か「ひょうきん族」かで割れている時も、「全員集合」と「暴れん坊将軍」どちらを見ようか迷っていた。しかも「全員集合」はPTAから非常に嫌われていて「見るな」と言われる事も多いバラエティだったので、ほぼ五分より高い確率で「暴れん坊将軍」を見るハメになった。

見るハメになった、とはいえ、私自身「全員集合」を見られない悔しさはあったものの、「暴れん坊将軍」が始まったら始まったで夢中になって見ていたのも事実であるし、時代背景とかは分からずとも、「悪人を退治する」というスタイルは比較的単純で視聴しやすかった、というのもあるだろう。

しかし、そんな折に出会ったのがかの「必殺」である。このシリーズは普段はいたってフツーの町人…例えば飾り職人であったり、坊さんであったり、同心だったりする人が、夜になると許せぬ悪に立ち向かう…というモノ…ココまでは「三匹が斬る」とか「桃太郎侍」といった時代劇ヒーローと変わらないのだが、彼らは正義感とか使命とかそういったモノによっては動かず、金を貰って人を殺める…正に「殺し屋」だった。この背徳的な部分に強烈に惹かれたのだ。

と、いっても実はライブで見たのは年齢的なものがあって後期の作品ばかり。シリーズ初期の作品に触れたのは再放送やビデオなどの恩恵だった。後期「必殺」というのは初期「必殺」と比較してヌルい、とか、殺しの奇抜さばかり優先されていて…という評はあったりする。コアなファンほど初期の「必殺」…それこそ「仕置人」とか「必殺必中仕事屋稼業」といった作品を支持する傾向にある気がするが、私にしてみればやっぱり子供だったので、まずは分かり易い奇抜な殺しシーンに惹かれて「必殺」を見る様になったのだ。

そんな中でもお気に入りだったのが今回のタイトルにあるとおり「三味線屋勇次」である。中条きよし氏演じるこのキャラクターの人気は高く、「必殺!三味線屋勇次」という彼が主役の映画が作られたり、確か「京都マル秘仕事人」なるタイトルだったと思ったのだが、中条きよし演じる主人公が現代の京都で悪を裁く…というドラマがあり、このクライマックスの悪党退治はナゼか主人公が三味線屋勇次に(舞台も江戸時代、悪党も着物を着てカツラを被る)なって吊り殺す…というモノがあった。ただこのシリーズでは吊り殺した相手は実は殺されておらず、ちゃんと街中などに晒されて警察の手に渡るのだが。

ともあれ歴代の「必殺」殺し屋の中でもファンが非常に多いキャラクターな訳だが、その理由はやっぱり華麗の一言に尽きる殺しのシーンであろう。聞いた所によると、勇次の殺しシーンは非常に長時間に渡って撮影されるらしく、その為か殺しシーンのカッコ良さというのは勇次の動きのみならずアングルにまで拘ったものに仕上がっている。勇次というキャラクターは「新仕事人」において初登場したのだが当初は主水とは別グループ…母親のおりくとのコンビで登場したが、結局は主水チームのメンバーとなった男だ。しかし主水の信頼は深いようで付き合いも長く、映画「主水死す」においてもやはり主水と長年チームを組んでいた飾り職人の秀と共に、主水の最後の戦いに付き合っている。そう考えると主水と秀、それに勇次というトリオは「必殺」ではゴールデントリオと言えるんじゃないだろうか。

そういえば殺しのシーンに関しても、このトリオはキャラクター性がはっきりしている。おいしい所を持っていく(笑)主水はともかく、秀と勇次は実に対照的なのだ。
秀の殺しといえば、手製のかんざしを標的の急所に突き刺すもの…勇次とは違いリーチがないのでその分は躍動感というか、動きの激しさでカバーする。トリオでも彼の運動量は非常に多く、ある時は池の中を泳ぎ、ある時は堀の中を水しぶきを上げながら走る…。正に飛び、走り、殺す、といった具合だ。役割としては「仕置人」の棺桶の錠あたりのポジションなので、アクション性が非常に高い訳だ。そういえば劇場作品「必殺3 表か裏か」においては必殺武器たるかんざしが敵にへし折られても尚、キックと敵から奪った刀で奮戦し、凄まじい強さを見せてくれた。まぁ、そうなるとなんで普段はかんざしなんて貧相な得物を武器に…と思ってしまうのも事実だが。

対して勇次の方であるが、彼は動かない。秀の様にびしょ濡れになったり泥にまみれる事はまず無く、飽くまでクールに決める。殺しの前でもあわてず、騒がず…敵に奇襲を受けたりといった事がない限り、あまりせかせかと走ったりしないのだ。殺しのシーンにしても、躍動感というより緊張感が漲るもので、勇次が手に布を巻きつけ、袖から三味線の糸をスッと出しただけで空気がピリピリと張り詰める。そして彼が三味線の糸の先端を口に咥え、ビィィィィィィィィッ!!と伸ばすと、見ているこっちは思わず唾を飲み込んでしまったりもする。そして糸をビュッと投げるないなや、糸は標的の首に巻きつき吊り殺す。この決めの殺しのシーンに関しては、基本的に勇次の動きが大きく変わったりはしない…まぁ、勇次が標的を吊り上げ、悪党の頭が天井を突き破った所に秀がかんざしを突き立てる、といったコンビネーション技もあったりはするが、結構なワンパターンではある。しかしそれを感じさせないのはその殺しの様式美ゆえ、といった所か。もっとも勇次の殺し、当初は糸で輪を予め作っておいて、それを使って吊り殺す、というものだったらしいが、これでは待ちの戦術ばかりで映像的な面白味に欠ける、と判断した為なのか現行の糸を投げ飛ばすスタイルになったのだとか。ただ「必殺」の殺しの代名詞とまではいかないが、勇次の糸は、秀のかんざしと並んで非常に有名な殺し技…それこそ「バカ殿様」で志村けんにパロディにされる位なので、より魅力的になったと言えるんじゃなかろうか。

勿論、勇次という男は何も殺しの華麗さだけが魅力のキャラクターではない。「かたゆで語録」にも乗せているのだが、彼のセリフにこんなのがある。

「こいつは金じゃねぇ。恨みを残して死んでいった頼み人の叫び声だ。聞いてやらなきゃ俺達はただの人殺しになっちまう…。」

勇次というキャラクターのポジションといえば、どちらかと言うと突き放すタイプというか…血気に逸る、例えば秀であったり順之助であったりに「冷静になれ」と釘を刺すタイプである。この部分…情にほだされないで冷静に状況を見ているの同時に、「仕事人」としての誇り…というのとは違うか、筋を通しているのであろう。この部分は、勇次の実の父を殺した後、彼を引き取り育てた義母・おりくに依る所が大きいのだろう。勇次の設定年齢は恐らく30代後半辺り…秀よりは年上、主水よりは下だと思うのだが、その歳にして、裏稼業…いや人生全般と言ってしまってもいいかも良いかもしれない…そういうモノに対し酸いも甘いも知り、尚且つ清濁併せ呑む、という…正義一辺倒、義理人情一辺倒ではなく、ほのかな悪徳の匂いも漂わせるキャラクターなのだ。

棺桶の錠から、シリーズには若手殺し屋が多数出てくる。熱血漢で、正義感が強く、無鉄砲で…時として悪の暴挙に耐えかねて「金なんかいらねぇ!!」となりがちなキャラクターだ。そんなキャラクターを押えるポジションであるからして、勇次にはこのようなニヒルというか、そういうイメージが付加されたのだろう。思えば彼が組んだ熱血タイプのキャラクターである秀は中々にロマンチストだった。怒りに燃える事も多かったし、恋に溺れたり、自分が旅先で殺めた悪人の娘を引き取って育てたり(これはおりくが勇次に対しした事と同じである!!)するし、裏の仕事に手を染めたのも、理想主義が祟って…という部分がある。それに対して勇次はリアリストなのだろう。主水はどちらかと言うとエゴイストな所がある訳で、それぞれがキャラクター分けされている、という事だ。だからこそ、性格描写がメインとなる日常の会話シーンにも、それぞれの個性が物語に丁度良い塩加減を加味しているのだろう。

勇次はリアリスト、というのは上のセリフでも分かってもらえると思うのだが、その”情にほだされず、裏稼業の筋を通す”というキャラクター性は主水の死後に作られた勇次主役の映画「必殺!三味線屋勇次」に詳しい。この映画、一発ネタに思われるかもしれないが正当な「必殺」として遜色ない作りで、映像も実に良い。最近は「TRICK」「ドラゴン桜」といった濃いキャラクターを演じる事が多い阿部寛さんと、物語の鍵でもある天海祐希さんの悲恋や、主水ではない仕事人を演じる藤田まことさんなど、見所も多く、根本となる回春丸…今で言うバイアグラといった要素が実に勇次らしいアダルトな雰囲気を出している。ファンならずとも試しに一度見て欲しい映画だ。

最後に、余談と言う形で書いておくが、「必殺」というシリーズは元々時代劇の持つ様式美を排した事こそ魅力、と評される事が多い。実際、「仕事人」以降は初期シリーズに見られたハードな描写というのはなりを潜め、バラエティ的な要素が増えている。殺しの派手さも凄いもので、初期「必殺」のファンには嫌われている「必殺仕切人」などそのバラエティ化の最たる例であろう。そのバラエティ化の一端を、勇次は担ってしまっているのかも知れない。しけをたらし、「南無阿弥陀仏」の刺繍が入った紫の着物の勇次の殺しは確かに華麗でカッコよい。そこに関して否定の言を挟む余地などないのだが、勇次の後継として登場した竜は、薄化粧をして派手派手な着物を着て裏の仕事をする、という、勇次のキャラクターを更に濃くアレンジしたものになっている。時代劇の持つ「お約束」を覆した事により支持を受けた「必殺」も、この時点である意味でヒーロー化…言ってみれば新たなマンネリが生じてしまったとも言えるんじゃないだろうか。

そして結局「必殺剣劇人」では最終回に中村主水を登場させ、「必殺」のお約束を悉く崩した事に悪態をつかせる事になる。ただ、やはりここでお七が切り返したように、

「今も昔も面白いのが一番」

なのだろう。ホンに…シリーズモノってのは「線引き」が難しい…。



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