理想の上司?

八神和彦
「課長バカ一代」課長


劇画調のタッチで不良高校の何気ない日常に起きる妙な出来事を描いた「魁!!クロマティ高校」が少年マガジンに連載された事で、一躍人気(?)漫画家の仲間入りを果たした漫画家「野中英次」氏の2番目の作品が現在絶賛休刊中のミスターマガジンに連載されていた「課長バカ一代」である。この漫画、全編を通してやる気のなさ、気だるさが感じられてしまうのだが、その脱力ぶりが妙に面白いのである。その脱力ぶりは徹底しており、コミックス最終巻のカバーの折込に「私はこの作品に、ホントにぜ〜んぜん思い入れがない」等と書いているくらいなのである。

作家、特に小説家に多い「自分の作品の後書きでもう自分の作品に対してウンチクを垂れて反省する」ような良く言えば真摯、悪く言えばナルシストな感覚とは正反対の「この作品は完結したんだから、もう俺は関係ないね」という姿勢がなんだか潔くて良いのだ。またコミックスのカバーの注意書き「※本品はギャグ漫画です。誤って読まないよう劇画ファンの手の届かない所に保管して下さい」というのもなんとも人を食っていて面白い。

さて、今回紹介する「課長バカ一代」の主人公「八神和彦」は「松芝電気開発部第二企画課課長補佐代理心得」というやたら長い肩書きを持つ。ここで注目すべき点は彼が正式な課長で無い点である。周囲は彼を「課長」と呼ぶが、実際は課長ではない。後に「心得」が取れて若干の出世を果たすも最後まで正式な課長になることは無かった。その原因は彼は無能ではないが「バカ」な点に尽きる。彼は仕事に一生懸命ではない。むしろ仕事に向けるべき情熱は遊びや仕事をサボる方へ向いてしまっている。何せ作中でマトモな仕事をしている姿が全く見られないのだ。(このことも作中でネタにされている)そのクセ課長(補佐代理)の特権を利用してか、妙な新商品ばかり開発する。例えば

完全無音(と勘違いしてしまう)洗濯機「駆動静か一号」
洗濯機兼用風呂釜「洗えん坊将軍」
「携帯型炊飯器もてるんジャー」
「焼肉ロボ一号(後のボブ)」
「耳掻きロボのホリー君」
「寝ながらテレビが見られる縦長ワイドテレビ」
分かり易さを追及した「長編マンガ説明書全38巻」

等、はっきり言ってどうでも良いようなモノばかり作ってしまうのだ。こういったアホらしい製品の開発だけに留まらず、彼は

会社の派閥に入るのに年会費が必要と勘違いする。
産業スパイに対抗して自らスパイになる。
会社をサボるために犬を調教する。
仕事より部署対抗の野球大会の方が大切と言い切る。
キャッチャーはデブだとこだわる。
打合せ場所にカラオケボックスを利用して歌いまくる。
10年間パチンコで負け続け、「丸ノ内の貧乏神」の異名を譲られる。
鏡に映った目をつぶった自分を見ようと色々工夫してみる。
会議を相撲で決める。

と奇特な行動、こだわりで周囲を混乱に落とし入れるのだ。
しかし八神課長は決して無能という訳ではない。例えば学校の授業参観を会社に取り入れ緊張感を出したり、「漢字部長」「パソコン部長」と言った長所に添った肩書きを部下に与え、その分野においての責任を持たせ職場に活気を持たせたりとユニークなアイデアを積極的に提案しているのだ。そもそも曲がりなりにも「課長」1歩手前まで来ているのだから、それなりに会社からも評価を受けている筈(自信、根拠ナシ)である。

更にこの八神という男コレだけで終わらない。彼のその奇特な行動で混乱したのは彼と共に働いている松芝の社員だけではないのだ。ライバル会社が松芝に送り込んだ産業スパイ達は彼の奇特な言動に翻弄され、次々とパニックに陥る。それどころか地球を侵略しに来た宇宙人まで彼の言動に惑わされて撤退を余儀なくされるのだ。自らの会社どころか地球まで救って見せた課長は彼しかおるまい。「サラリーマンだって平和を守れるんだ!!」と言った所であろうか。しかもそれが暴力に頼ったものではなく、単なる偶然と誤解によるものと言うのがスゴイところである。

このように色々と彼を擁護する意見を述べてみたものの、やはり八神課長は「バカ」なのである。しかしその「バカ」であることが八神課長の最大の武器であり、長所なのだろう。そのことを証明するような会話が作中行われているので最後に紹介しておく。

前田「八神課長って、バカだったけど悪い人じゃなかったよな…。」
部下「ええ。でも逆に言えば悪い人じゃなかったけどバカでしたね。」
前田「そうだよな…。」


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