「名」であり「迷」である凸凹コンビ

山田奈緒子&上田次郎
「TRICK」凸凹コンビ


世の創作書物、ドラマ、アニメ、マンガ等には、「名コンビ」と称される2人組が活躍するものが多い。例えば十津川警部と亀井刑事、シャーロック・ホームズとワトソン、明智小五郎と小林少年、片平なぎさと船越英一郎(笑)、天龍源一郎と阿修羅原(爆)…例を挙げ出せばキリがない。
そんな中最近特に注目株なのが、映画にもなったドラマ「TRICK」の名(迷?)コンビ、山田奈緒子と上田次郎である。

一応知らない人の為に解説をしておこう。
山田奈緒子は顔は良いが愛想が無い為に泣かず飛ばずの奇術師で、住んでいるボロアパートの家賃すら滞納する程の極貧生活を送っている。勤め先の契約を切られた彼女はとある週刊誌を見て日本科学技術大学を訪れる。そこで出会うのが上田次郎だ。
上田は日本科学技術大学の若き物理学者で、大学では助教授(「TRICK2」では教授)の立場にいる。彼は「自分が本物と認めた霊能力に賞金を出す」と週刊誌の記事で全国の「自称」霊能力者に挑戦状を叩きつけたのだ。

勤め先をクビになって明日の食い扶持すら危うい奈緒子は、上田に自慢のマジックで挑戦する。まんまとタネを見抜けない上田は彼女を本物の霊能力者と簡単に信じ、自分と一緒に新興宗教団体「母の泉」の教祖・ビッグマザーがインチキ霊能力者である事を証明して欲しいと頼む。
コレがドラマ「TRICK」第1話の冒頭エピソードであり、インチキ霊能力を暴く世紀の迷コンビの誕生となる訳だ。

さて、本作における2人の凸凹コンビぶりは是非ドラマの方で体感して頂くこととして、今回はこの2人のコンビとしての特異性について考えていこう。

世のコンビ、それも推理やミステリーモノのコンビは、どちらか一方が謎解き担当で、どちらかがその狂言回し的なポジションにいる事が多い。そして大抵の場合、謎解き役は狂言回し役から尊敬、または絶対の信頼を置かれている。このパターンが一番分かり易いのは「火曜サスペンス劇場」といったニ時間ドラマの主人公とその相棒の設定であろう。

このニ時間枠ドラマの場合…特に女性が主人公の場合は、
なんでも首を突っ込みたがる主人公に対し、その相棒の男は彼女が危険に晒されるのをドキドキしながらも、惚れた弱みで結局散々振りまわされてしまう…こんなパターンが殆どである。つまり、コンビとはいってもそこには明確な上下関係が存在し、決して対等ではないのだ。だから船越英一郎は片平なぎさのムチャな行動をハラハラしながらも、惚れた弱みで彼女の言う事には全然逆らえないのである。

しかしこの「TRICK」のコンビは少し違う。山田は売れないマジシャン、それに対する上田は若き物理学者…かなりその立場に開きがある。しかし、この2人はいつでも対等なのだ。
年齢的に言えば奈緒子よりも上田の方が年上であり、その辺を考慮したのか、奈緒子は平時は上田の事を「上田さん」と呼ぶ。それに対し上田は奈緒子の事を「YOU」と呼ぶ。ここに一見明確な上下関係が存在しているかのように思いきや、実はこれでもこの2人の間は対等なのだ。

上田の方は単純だ。奈緒子の事を「ただの貧乏な貧乳イカサマ手品師」程度にしか捉えていない。若き(自称)天才物理学者である自分とは立場も格も雲泥の差があると思っている。
富や名声においても高給取りでオートロックのマンションに住み、本を出版した印税で更に裕福になっている上田に対し、奈緒子はボロアパートの家賃すらまともに支払えない貧乏人だ。この差は歴然である。
しかし、それでもいざとなれば上田はクソ生意気な奈緒子に頼るしかないのだ。

そして奈緒子の方も、デカイ図体をしているクセにいざとなるとすぐに気絶してしまう情けない上田をバカにしている。第1話で自分の使った単純極まりないマジックすらも見抜けない、そのクセ傲慢…「ただデカいだけが取柄の巨根物理学者」でしかないと思っている。
しかし、それでもいざとなれば奈緒子は傲慢でデカイだけの上田に頼るしかないのだ。

名ドラマ「3年B組金八先生」の一節で、「人」という字は互いに支えあって出来ている、というのがある。お互いに内心バカにし合っている2人も、実は何処かで頼りあい、支えあっている…こここそがこの2人の名コンビたる部分なのではないだろうか?

この「支えあっている」という部分が分かり易く見られるのは「TRICK2」の最終回、奈緒子の母・里見が2人に渡した封筒である。里見は、この封筒には2人の未来に関して重要な事が書いてあるが、決して開けてはいけない…開けたら2人は決して2度と会う事が出来なくなるという…。

ドラマを見ている限り、別に北海道と沖縄に離れて住んでいる訳でも無く2人とも都内在住のようだし、2人ともお互いが住んでいる場所を知っており、上田に至っては奈緒子の留守中に勝手に部屋に上がり込んでいる描写がある。そして奈緒子はともかく上田は勤め先も固定されている状況…つまり、会おうと思えばいつでも会える筈の2人に、なぜ里見はこんな封筒を預けたのだろうか?

上田には封筒を開けると強がって見せた奈緒子だったが、彼女は封筒を開けられなかった。対する上田は、奈緒子の「封筒を開ける」という言葉を真に受けて封筒を開けてしまう…。

この行動に、2人の「らしさ」は凝縮されている。
物理学者として真っ向から霊能力を否定しているのに、いざとなったら簡単に騙され、信じてしまう上田…そんな彼になんだかんだ言いながらも協力してしまう奈緒子…。
一見上田よりも霊能力の存在に対し、シビアで冷静であるように見える奈緒子であるが、彼女の脳裏には父・剛三の最後の言葉が心の奥底に突き刺さったままなのだ。

「俺が間違っていた。本当にいたんだ、霊能力者は…。」

尊敬する父、彼の口癖「霊能力者なんていない」という言葉を頑なに信じている奈緒子は、実は上田以上に霊能力に束縛されているのだ。更に、母親の出身地「黒門島」の一件で知った父の死と自分の因果関係が奈緒子の心の奥底でくすぶり続けている。

霊能力者なんていない…でも心の奥底ではまだそれを信じきれない…。

だからこそ彼女は、里見が「開けたら上田には2度と会えなくなる」と言われた封筒を開ける事が出来なかったのだ。

そして、霊能力の存在という呪縛に捕らわれた奈緒子を支え続けたのは、誰あろう上田だったのだ。「母の泉」「黒門島」、そして「白木の森」…いつも奈緒子の傍には上田がいて、常に彼女を励まし続けてきたのだ。
つまり、霊能力者のトリックを暴くのはいつも奈緒子の役目であったが、そんな彼女を精神的に支えていたのは、彼女がただのデクノボウとしか思っていなかった上田であったのだ。このコンビはどちらが欠けても成立しない。ナゼなら、この2人は対等の存在であり、お互い支え会っているからだ。

「TRICK2」の最終回、奈緒子を追い駆けた上田は、奈緒子を捕まえる事が出来たのだろうか?
出来たとしたら、どんな言葉を交したんだろうか?

きっと、いつも通りお互い軽口を飛ばしあうんだろうなぁ…。


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