最強のムコ殿

中村主水
「必殺!」シリーズ顔役

昼間はうだつの上がらない落ちこぼれ同心、しかし夜となれば闇から闇へ悪党共を地獄へ葬り去る凄腕の殺し屋…それが今回紹介する「中村主水」である。
彼は必殺シリーズの2作目「必殺仕置人」にて初登場以降、

「暗闇仕留人」
「必殺仕置屋稼業」
「必殺仕業人」
「新必殺仕置人」
「必殺商売人」
「必殺仕事人」
「新必殺仕事人」
「必殺仕事人V」
「必殺仕事人W」
「必殺仕事人X」
「必殺仕事人X激闘編」
「必殺仕事人X旋風編」
「必殺仕事人X風雲竜虎編」
「必殺剣劇人(ゲスト出演)」
「必殺仕事人 激突!」

と、テレビシリーズだけでもこれだけ多くの作品に出演している正に「必殺シリーズの顔役」であるのだ。
これだけ多くの作品に登場しているだけあって、ムコ養子としてせんとりつに小突き回される自身のツラ〜い生活や、奉行所にて田中様にイヤミを言われる日常の描写も数多く見られるのであるが、実は彼の素性についての詳しい部分というのはあまり語られてはいない。今回は彼の知られざるウラ設定についても語っておこう。

中村主水は旧姓を北大路主水といい、実家は現在の千葉県のあたりであると言う。佐渡金山奉行所同心から縁あって中村家の「りつ」を娶りムコ養子となり、以後は中村主水を名乗り、江戸北町奉行所定町廻り同心となる。この頃に佐渡からの悪友「念仏の鉄」、そして「棺桶の錠」と出会い、彼等仲間と非合法に悪党を裁く「仕置人」なる裏稼業を始める。(「必殺仕置人」)

やがて主水意外の仕置人の素性が割れた為に「仕置人」は解散。江戸を去る仲間を1人江戸で見送る事となる。以降主水は南町奉行所に転勤し、八丁堀にある家に隠居部屋を増築する。その一方で「仕留人」「仕置屋」と裏の稼業を続ける。

その後、罪人を逃がした罪で伝馬町牢屋敷見廻役に降格処分を受ける。(「必殺仕業人」)しかし牢破りを防いだ功績から、異例の人事で定町廻りに復帰する。この頃、親友念仏の鉄と再会、再び裏稼業に手を染める。しかし江戸暗黒街を揺るがす抗争の果てに仕置人は崩壊。自身も一時的に八王子に左遷され、新しい仲間と「商売人」なる裏稼業を始めたりもするが、結局それも長くは続かなかった。

八王子から南町奉行所へ復帰して以降は町廻り同心を長く務め、平同心の中では最古参の1人になる。一方引退していた裏稼業も八王子から復帰後に元締め鹿蔵に共鳴し、「仕事人」の中核となる。

と、こんな感じである。この編はザ・テレビジョン文庫の「必殺シリーズ完全闇知識 やがて愛の日が・編」(必殺党・著)に詳しい。
ちなみに主水さん、襟巻きで顔を隠して死角から強襲する戦法があまりにも有名であるが、実は「奥山新陰流」「御獄新陰流」と言った様々な流派を体得している凄腕の剣士でもあり、初期の作品では大またを開いて悪党をぶった斬る怒りのオヤジでもあったのだ。しかし「仕業人」にて牢屋見廻り同心に格下げされてからは死角から強襲することが増え、刀の柄にも刃を仕込むようになる。更に、甘党で下戸だったが、酒も飲むようになり、日常のシーンでも殺しでも「背中で語る」事が多くなった。時代劇ならではの豪快な剣技を見せる初期の主水も良いが、金を貰って人を殺めるという背徳的な「必殺」のテーマを背中で魅せる後期の主水も、堪らない中年男の魅力に溢れている。

さて、仕事人「中村主水」の魅力とは何だろうか?私個人としては、それは「殺し屋」として徹底している点にあると思う。主水さんの表の稼業は同心…今で言えば警察官である。しかし、彼の周囲にいる人間は彼の裏の顔を知らない。家ではせんとりつ、仕事場では田中様を始めとする上司に小言を言われてばかりの「うだつの上がらない万年平同心」というイメージしかないのだ。

更に彼は裏の仕事の際、決して顔を見せようとしない。見せるのは殺す相手のみである。それは「必殺仕事人」のオープニングナレーション「顔は見ないでおくんなせい…晴らせぬ闇を、晴らしてみせます」というセリフが物語っている。車に乗っている所を見られただけで正体が看破されてしまう「デューク東郷」や、暗殺拳の使い手の割に堂々と勝負を挑む「ケンシロウ」とは大違いである。

更に、主水という男は表の顔に執着している点も特筆に価する。いや、正確に言えばコレも裏の顔を隠すという事になるのだろう。例えば他の仕事人が窮地に立たされても、「俺には関係ない」と敢えて見捨てるような態度を取る事もしばしばである。(もっともそんなことを言いつつ最後は見捨てられずに助けるのだが…)

その他にも普段は正体がバレない様に、鞘に敢えて「竹光」を差しているケースもあり、実際この用意周到さで周囲に正体が発覚しそうになるのを事前に防いでいる。
こういったプロとして徹底したシビアさ、抜け目の無さこそが、殺し屋として、仕事人としての中村主水の魅力なのだ。

更に、彼は主役ではないという点も面白い。いや、劇場版作品やスペシャル版では主水さんが主人公としてきっちりと描かれているのだが、テレビシリーズでは殺しのシーンのトリを担当するものの、決して主人公的な立場にはいないケースの方が多いのだ。

「必殺仕置人」では、血気にはやる鉄や錠の「参謀」としての位置付けであった。
「暗闇仕留人」では、蘭学、そして妻を捨てられない人間らしい弱さを持つ貢の対極として存在していた。
「必殺仕業人」では、主水の「左遷された哀愁」とは別に、剣之介とお歌の刹那的な愛があった。
「新必殺仕置人」では、「寅の会」という闇の組織がメインに据わっていた。
「必殺商売人」では、主水と新次&おせい元夫婦の対立こそが物語の軸であった。
「必殺仕事人」では、貧窮の浪人左門と、若き秀がメインで描かれていた。
「新必殺仕事人」では、クールでドライな勇次と仲間達のぶつかり合いが醍醐味であった。
「必殺仕事人V」では、新キャラクター西順之助に賛否両論が生まれた。
「必殺仕事人W」では、秀の養子お民、順之助を追い回すオカマの玉助、主水の上司田中様が目立っていた。
「必殺仕事人X」では、政、竜の美形若手仕事人に人気が集まった。

と、このように各作品のメインテーマを描くに当ってのサブであったり、メインで描かれるキャラクターの対極であったりと、主軸ではなく主軸を強く支えるサポート役としての存在感が光っているのだ。毎回のようにせんとりつに小突き回され、こっそりと貯めておいたヘソクリを使い込まれ、奉行所では上司の田中様にネチネチと小言を言われるという日常の描写が他のキャラクターに比べて極めて多いのにも関わらず、彼自身が主役として描かれたシリーズは「必殺仕置屋稼業」等意外に少ないのだ。

つまりそれは、シリーズ同士の繋ぎ役を見事まっとうしている事に他ならない。いくら奇抜な新キャラクターがいても、中村主水とその周囲の生活を描けば新キャラクターが持つ新しい設定故の違和感を軽減出来るのだ。主水の登場しないいわゆる「非主水シリーズ」が「からくり人」、「仕舞人」を残して単発的なのがそれを裏付けている。

もちろん主水自身の個性も充分に魅力的ではあるのだが、彼の魅力は他のキャラクターとのぶつかり合いにて初めて本領を発揮するのだと思う。特に、「貢」、「秀」、「順之助」、といった大人(プロ)になりきれないキャラクターとの対比や、独自の美学…哲学を持つ「市松」、「勇次」、「新次&おせい」達とのぶつかり合いこそが、主水の真骨頂なのである。正に、中村主水はシリーズの顔役なのだ。


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