古き良き、王道への郷愁

マリア・アルカード
ゲーム「東京魔人学園剣風帖」 ヒロイン(?)



今回紹介するゲーム「東京魔人学園剣風帖」は、メジャータイトルでこそないものの、徐々に徐々に人気が出ていった、という、ゲーム業界を鑑みるに珍しいヒットの仕方をした作品だ。リリース当初のゲーム雑誌によるレビューでもそんなに良い評価だった訳でもなく、唯一「電撃プレイステーション」のみが高い評価をしていて大々的に記事を組んでいただけだったが、次第に人気が高まり初回出荷は1万本そこそこだったものの、最終的には10万を超えるヒット作となった訳だ。一応念の為書いておくが、正式なタイトルは「東京魔人『學園』剣風帖」だが、変換の都合で以降も「学園」で統一させてもらう。

と、いっても私自身、セガサターンとプレイステーションによる次世代機争いの際に各方面で品薄状態だったプレイステーションを、ホントはセガサターンを買うつもりで近所の家電ショップに行った際に見つけ、慌てて購入(店員に「サターンくれ」といったら「プレステも残ってるよ」と言われ即決/笑)して以来、ゲーム系情報誌として電撃プレステをしばし立ち読み(苦笑)していたので、この「東京魔人学園」のタイトルは良く目にしたし興味もあったのだが、結局色々あってプレイ出来ずに終わっていて、それがニンテンドーDSに移植したので今回初めてのプレイだったりする。そんな訳で、他に「剣風帖」で活躍した面々の祖先の活躍を描いた「外法帖」や、世界観が共通の「九龍妖魔学園記」といったタイトルには触れられないので、シリーズのコアなファンに言わせれば他愛ない、ヌルい記事になってしまうかも知れないが、勘弁願いたい。

さて、この「東京魔人学園」シリーズは、龍脈、菩薩眼、陰陽師、宿星、クトゥルフ神話、ブードゥ教…といった、オカルトな用語が飛び交う内容の物語ではあるものの、そういった要素に然程興味がないに人にも割と受け入れやすい類の中身になっている。と、いうのも物語自体が極めて分り易い…言うなれば「王道」的展開を見せるので、小難しくもマニアックなオカルト要素に泥濘する必要がないのだ。無論、そういった要素に興味がある人にはなおさら面白いかも知れないが、このゲームはオカルト要素を交えつつも、基本は菊池秀行氏や夢枕獏氏辺りの書く伝奇小説や、一昔前の学園ドラマ的な…それも、割と使い古されたソレなのだ。

ちょっと閑話休題だが、エンターティメント業界において、今現在過渡期にあるのではないか、と感じる事がある。インターネットの普及により、エンターティメント…もっと言ってしまえば娯楽の方向性が多様化し、戦後の力道山ではないが、テレビですら「これしかありません」と開き直る事が出来なくなってしまっている時代…というのは肌で感じている人も多いと思う。だからこそ、ベタの中のベタである二時間サスペンスがなりを潜め、そういった類の代名詞とも言える「火曜サスペンス劇場」すら生き残れず、少し前…といってもトレンディードラマなんて言葉が使われていた時代ではあるが、花形だった月9といった一時間モノの連続ドラマすら、人気若手俳優等を起用しても視聴率的に苦戦している、なんて話はよく聞く。私達が学生だった頃などは、放送の翌日はドラマの話題で必ず盛り上がっているグループがあったりもしたものなのだが、インターネットや携帯電話の普及による余波というものの影響力が窺い知れる一例、と言えるかも知れない。

ただ、インターネットなどが及ぼした、エンターティメントの多様性に反発…ではないのだろうが、逆行する方向性も世に散見している様に思うのだ。例えば、コミックバンチの創刊を代表とする、昔の名作漫画の続編が数多く展開される様になった、というのも、「才能が枯渇した連中が古いネタを引っ張り出してかつてのファンを裏切っている」という悪評だけではなく、複雑化したエンターティメントにややついていけない感を感じてしまっている世代に向けて、古き良きものに対する郷愁と共に、ある種の安心感を提供している、とも思うのだ。まぁ、勿論そういった「昔の名前で出ています」な漫画作品の中には「こんなモン読みたくなかった」と思ってしまう出来のものも少なくないのだが、少なくとも需要を見越してのリリースである事は間違いないだろうし、もっと言えば今更「改」と題して「ドラゴンボール」のアニメの再編集版が放送されているのも、こういう経緯が少なからずあるのかも知れない。

更に言えば、最近はやや廃れてしまった感もある韓国ドラマのヒット…コレも、中高年女性からブームが盛り上がった事、ブームの火付け役であった「冬のソナタ」が良く言えば普遍的、悪く言えばベタな純愛ドラマだった事などを鑑みると、昨今の複雑に絡み合ったドラマとかについていけない層が、シンプルで丁寧な方向へ流れた、とも言えるのではないか。複雑な筋や展開、凝りに凝った演出よりも、丁寧に作られた分かり易い物語を、という需要にマッチした、というのが韓国ドラマブームの一端にあったのではないだろうか。

大幅に話が飛躍してしまった感があるが、結局のところアンタは何が言いたいの?と言われれば、そう、多様化による複雑化への反発、というものは少なからずある訳で、その反発の形として、シンプルかつベタとも言えるものの安心感…もっと言えば、「王道への郷愁」であろうか、そういったものは潜在的需要としてあるのだろう、という事。そう考えると、この「東京魔人学園」は今や懐かしい二千年問題よりも昔の作品なので、インターネットの普及による余波の影響とは直接的には関係ないのだが、今DSに移植された本作品をやるにあたって感じたのは、そういったツボのつき方をしているゲームではないか、という事だったのだ。

繰り返すが、オカルト要素を盛り込みつつも、「東京魔人学園」は大変分り易い。それは物語の展開然り、キャラクターの個性分け然り、敵役の配置然り、である。昨今(リリース当時としても)の流行りを外した劇画調のキャラクターデザインも、本作が敬遠される原因にもなってはいるが、本作の目指すベタ、王道という観点で言えば、作品にこれ以上無いという程マッチしているとも思う。今時のベタではなく、郷愁というメガネつきのベタこそが、本作のウリであるからだ。

ただ、ベタだベタだといいつつも、ゲームシステム自体はかなりユニークなものになっている。代表例が、本作最大の特徴である感情入力システムだ。コレはアドベンチャーモードにおいて、各キャラクターが主人公へ意見を求める際に、肯定側「愛」「喜」「友」「同」、否定側に「悩」「怒」「悲」「冷」…何も操作しないと「無」という9つの感情で返答する事により相手のリアクションや好感度が変化していく、というもので、固定メンバーの真神学園仲良し4人組以外を仲間にする為には、ここでの返し方が重要になっていたりする訳だが、そういった部分に限らず、物語…つまりは会話を読むだけになってしまいがちなアドベンチャーパートにプレイヤーを引き込むという点では優れたシステムであり、ゲームの主人公=プレイヤーという構図での感情移入をより盛り上げている。このゲーム、制作者の拘りなのか、一応「緋勇龍麻」というデフォルトの主人公設定があるものの、戦闘中でも掛け声以外は喋らなかったり、ビジュアルも「フォーチュンクエスト」のキットンの様な…って、分り難い例えだが、前髪で目を隠した無個性なものになっていたりと配慮がされているのが伺える。

但し、主人公=プレイヤーという構図は、ファンディスクの「朧綺譚」にてプレイ出来る「第0話」が影を指してしまっている部分はある。この0話の存在は本編とやや矛盾した所もあり、個人的に納得できないものがあったりする。外伝をプレイ出来る、という事自体は良いサービスだと思うし、実際他のエピソードは本編のフォローになっていて面白かったのだが。

シミュレーションパートも基本はゴリ押し可ではあるが、システム自体は中々凝っている。「フロントミッション」シリーズの様な行動力消費型に「ライブ・ア・ライブ」的な要素を加えた様なイメージになっている。各キャラクターにより覚える技の威力、効果範囲、消費行動力が異なり、移動はおろか、方向転換でも行動力が必要だが、行動力さえ残っていれば攻撃を繰り返したり攻撃後に移動したりも出来る。他にも、呪詛、石化、毒、麻痺、魅力、祝福といった数多くの状態変化や、攻撃対象を決められたマスだけ飛ばせる「吹き飛ばし効果」や、それを利用して敵を壁や他の的に叩きつけたりといった事も出来る。特に「朧綺譚」に収録されている「螺旋洞」等はこのシステムを詰将棋的に使ったパズルゲームのようになっており、かなり手強く、面白い。ただ、そういったパズル的要素に馴染めなくとも、前述した通り本編では基本ゴリ押しプレイは可能であり、旧校舎によるレベル上げも可能なので難易度自体は抑えられている。

ともあれ、この「東京魔人学園」であるが、物語自体は悪く言えばシンプルでひねりがない。ただそれは「王道」である裏返しでもあり、その分り易くベタな展開は何とも安心感がある。少なくとも、不条理な扱いを受けてしまうキャラクターは少ないのだ。(ゼロではない、とは思う)そんな世界観に、主人公としてどっぷり浸からせてくれるシステムも相まって、エンターティメントが多様化、複雑化した事にやや疲れを覚える私のような人間には大変に心地よいゲームなのだ。むしろ、今現在移植されたもので初プレイ出来た事が、かえって自分にとっては良かったとも言えるのかも知れない。

但し…そう、残念ながら但し、がついてしまうのだ。本編ではメインヒロインの葵とその親友かつ主人公と仲良し4人組のメンバーである小薪、この2人のエンディングしか用意されていなかったのだが、「朧綺譚」では各キャラクターのエンディングが追加されている。ただ、そのエンディングというのが…主人公は男であるにも関わらず、各女性キャラクターに用意されているものは割とフツー…というかかなり薄口なのに対し、男性キャラクターのエンディングが…卒業式でも空手着な空手バカ一代・紫暮と、名前から正体バレバレ二号(一号はこの記事のタイトルの人/苦笑)の犬神先生以外は何と言うか…友情だけでは説明がつかない腐女子まっしぐらなものばかりになってしまっているのが、個人的にすんごく残念…というか、イヤーン。(実際このゲームは女性ファンが多いとも聞くが/苦笑)

ちなみに今回のタイトル、メインヒロインである筈の葵を差し置いてしまっている訳だが、個人的にこの「東京魔人学園剣風帖」のヒロインこそ、マリア先生だと思っているのだ。彼女の正体発覚はバレバレなので驚きも何もあったもんじゃないが、ラスト直前での彼女と主人公のやりとりとか、メインヒロインを食っちゃう勢いのドラマがかなりツボだったのだな、ウン。それだけに、彼女が実質的主役の「朧綺譚」七話はかなり良かった。卒業後、中国に旅立った京一が、帰国していた劉も交えて彼女と再会、旅の最中自らの正体を明かし、いつか主人公の前に立つ事を約束する、なんて妄想ストーリーもできちゃうもんな、ウン。

余談だが、このゲームをベースとしたアニメ「東京魔人学園剣風帖 龍龍(「トウ」と読む龍が二つで一文字)」がアニマックスにて放送されたが、ゲーム本編とは完全に乖離した設定や展開となっており、一部キャラクター名のみ同じの別モノと捉えた方が良い作品となっているんだそうな。このアニメ版については私は興味がないので、興味ある方はご自分でどうぞ。

おっと、忘れるところだった。
有名な話ではあるが、DS版「東京魔人学園剣風帖」には重大なバグがある。クリア後に出現する「朧綺譚」の「螺旋洞」第43問が、どうやってもクリア出来ない仕様になってしまっている。ちなみに「螺旋洞」を全問クリアすると「オカルト研」にて各キャラクターの好感度やフラグの操作が可能となり、「櫻の園」でエンディングを見られるようにしたり、全キャラクターを仲間にして本編2周目プレイ、なんて事が出来るのだが、バグのおかげでそのままでは残念な事に不可。解決策は、マーベラスエンターティメントにメール等で連絡すれば、送料マーベラス負担で対応してもらえる。ちなみに私の時は帰ってくるまで2週間位かかった。

明確かつ重大ななバグであるにも関わらず、マーベラス側から正式なアナウンスがないってのがそもそも不親切かつ不誠実な話ではあるが、参考までに。


戻る