男は強くならなければ、愛する人は遠くへ行ってしまう

片山元
映画「刑事物語」シリーズ 主人公


長かった。ようやく発売されたのだ。
何が?決まってるじゃないか。武田鉄矢主演の映画「刑事物語」のDVDが、だ。

消費者リクエスト型ショッピングサイト「たのみこむ」でも、邦画部門DVD化ランキングでトップクラスの賛同を得ていたにも関わらず、中々DVD化されず…ファンはテープが伸びきったレンタル落ちのVHSや、時代遅れのレーザーディスクで我慢を強いられてきたのだが、昨年サンリオが第一作をHDリマスターでリリースしたのをきっかけに、ようやく東宝も重い腰を挙げ、今年1月に「刑事物語 詩シリーズDVD-BOX」として残りのシリーズがリリースされた。勿論バラでのリリースもであるが、ファンとしては折角だから、「1」の分もスペースが確保されているBOXで、棚に並べたい所だろう。勿論、私も年末の自動車保険&車検という出費の事も考えずに購入した。他はいざ知らず、少なくとも私にとってはこの「刑事物語」は後世に残したい…いや、残すべき作品なのだ。だからこそ、最早徐々にブルーレイに映像記録メディアが移る過渡期とはいえ、最新のメディアにてこの「刑事物語」シリーズがリリースされた事は嬉しい事なのだ。この機会に若い世代にも騙されたと思って見て欲しい…まぁ、「騙された」と思うかも知れないが、得るものが何もない作品では…少なくとも無い筈だ。

さて、知らない人の為に一応解説しておこう。

「刑事物語」とは、「3年B組金八先生」等で俳優としても知られる武田鉄矢が原作、脚本(4作目除く)、そして主演までをつとめた映画シリーズだ。ボサボサの中途半端な長髪に胴長短足、くたびれ果てたズボンと上着、という冴えない出で立ちの片山刑事…とても刑事には見えない彼は、実は「秘門蟷螂拳」の達人。普段はドジでやや頼りないが人情に厚く、正義感は人一倍強く、それ故一度暴走するとやり過ぎてしまい全国の警察をたらい回しにされる…というモノ。毎回、赴任先でヒロインと恋をする様などは分かり易く「男はつらいよ」の影響だろう。もっとも、国家公務員の警察庁管轄の警察官ならともかく、地方公務員の警察官は都道府県の管轄を超えての転勤をする事は殆どないんだとか。まぁ、この辺のツッコミは作品を楽しむうえでは野暮でしかないのだが。

ちなみにシリーズの内訳、概要はこんな感じ。

「刑事物語」 1982年公開
福岡県福岡市から静岡県沼津市を舞台に、売春宿へのガサ入れ失敗の責任を押しつけられ、そこで知り合った聾唖の風俗嬢を引き取り、南沼津署に転属。そこで連続殺人事件の捜査に加わる事に。エンターティメントとしての節度は守りつつ、障害者問題に切り込んだ意欲作。ちなみにシリーズで唯一版権をサンリオが持っている作品。

「刑事物語2 りんごの詩」 1983年公開
青森県弘前に飛ばされた片山は、2年前に起きた札幌の現金輸送車襲撃事件の際に唯一残された手掛かりであるりんごの種の分析する事になる。りんご試験場の署員と恋に落ちた片山だが…。「男は強くならなければ、愛する人は遠くへ行ってしまう」をキーワードに、笑って泣ける一大娯楽作品で、特にラストシーンでは泣かずにはいられない出来。シリーズでも最高傑作との呼び声高く、勿論私も大好きな作品。

「刑事物語3 潮騒の詩」 1984年公開
長崎県の五島を舞台に、張り込み先の民宿に、ひょんな事から「住み込み」してしまう片山刑事の活躍を描く。シリーズでもアクションシーンの頻度が強い作品。片山とホッケーマスクの殺し屋が交わす対決前の台詞が凄くカッコ良かったりする。ちなみに「科捜研の女」こと沢口靖子のデビュー作で、挿入歌も歌ってます。

「刑事物語 くろしおの詩」 1985年公開
武田鉄矢憧れの人、坂本竜馬の故郷。高知県高知市で、護送中の犯人に逃げられた片山は遂に警察をクビに。そして何と山梨組組長、山梨剛造の杯を受ける事に。シリーズのエンディングテーマ「唇をかみしめて」を歌う吉田拓郎の友情出演も見どころ。ちなみにタイトルは「刑事物語4 くろしおの詩」ではなく、「4」はつかない。

「刑事物語5 やまびこの詩」 1987年公開
群馬県沼田市を舞台に、命を狙われる美人姉妹を守る為に奮闘する片山刑事を描いた作品。美人姉妹の姉は佐野史郎演じる冬彦さんが話題だった「ずっとあなたが好きだった」の賀来千香子、妹は「東京ラブストーリー」で知られる現・石橋貴明夫人の鈴木保奈美。シリーズでも人気はいまいちなれど、ラストシーンは印象的で評価が高い作品。

さて、このシリーズの一番の魅力はやはりそのアクションシーンである。このシリーズで片山刑事が駆使する「秘門蟷螂拳」は、日本における中国拳法のパイオニアとして知られる松田隆智氏が指導したもので、松田氏は芝居に使う為の間に合わせの拳法を俳優に教える事は断っていたらしいが、武田は数か月前からトレーニングを重ねてある程度体を作っており、その熱意に負けて蟷螂拳を教えたという。実際、「金八先生」とは明らかに違うビルドアップした肉体はフィルムでも見てとれるし、「潮騒の詩」等では殺陣の為に合宿まで行って特訓したという。

いや、それでもブルース・リーやジャッキー・チェン、ジェット・リーや最近ではトニー・ジャーといったアクション俳優のそれと比べれば、確かに拙い。流麗でもなければ迫力もそんなにない。カッコ良いというより、むしろ不格好ですらある。残念ではあるのだが、このシリーズのファンである私もこれに関してはそう言わざるを得ない。ただ一つ言えるのは、それでも紛れもなく本気でアクションに取り組んでいる作品なのだ、という事なのだ。ある意味、当時唯一日本映画でジャッキー等の香港カンフー映画に向こうを張って真剣に作られた映画が、「刑事物語」なのだ。

そして、このシリーズの代名詞ともいうべき「ハンガーヌンチャク」であろう。ちなみにこのハンガーヌンチャクは松田氏ではなく、武田自らのアイデアらしい。ちなみに「1」の悪の組織がクリーニング屋、というのも、アクションシーンでハンガーを手にする「必然」を作る為に設定したものだという。「2」以降はもう開き直ってハンガーヌンチャクを売りにしており、「2」でのクライマックスでの

片山「たけーし、ハンガー!!」

たけし「はいっ!!」(二階からプラ製ハンガーを投げる)

片山「(一撃で壊れたプラ製ハンガーを地面に叩きつけ)違ーう!!木の奴!!」

の下りは、シリーズでも屈指の名場面と言えるだろう。他にも、「3」でのミニフラフープ、「4」でのゴルフクラブ(「プロゴルファー祈子」ばりのショットによる攻撃も見どころ)、「5」でのテニスラケットやオリジナル連結ハンガー(三節棍よろしく3つのハンガーを繋げたもの)といった、楽しませる事に重点を置いた殺陣は、演じる武田の必死さも相まって、流麗さなんか全然ないが、確かに面白く、魅力的。ストレートな物言いをしてしまえば、ダサめの男が誰かを守る為、必死こいて戦っている姿そのものが熱いのだ!!堪らなくカッコ良いのだ!!

勿論、このシリーズはアクション一辺倒でもない。ありがちな言葉ではあるが、笑って泣ける、良質のエンターティメントでもあるのだ。邦画なんて、アイドル俳優にオンブに抱っこだったり、取り敢えずヒロインを不治の病にしたり、訳わかんないホラーだったり、明らかに金やCGの使い方を間違っていたり…そんなものばかりで、視聴に耐えうるのはジブリのアニメかたけし監督作品位なもの…なんて思い込んでいる人に、見て欲しい。エンターティメント…娯楽作品ではあるのだが、ただの「娯楽」に留まらない優しさ、強さ、悲しさがある。それこそが、口先ばかりの芸術作品には決してない、この作品最大の強みであり、魅力でもあるのだ。

注目すべきは特にエンディング。ハリウッドの様な、主人公の色男とヒロインにブチューッとやらせて終わり、という様なワンパターンなものでは…って、毎回ラストで他所に飛ばされる下りは共通なのだが、毎回毎回工夫が凝らされており、それが見どころになっている。特に、エンディングテーマである吉田拓郎の「唇をかみしめて」のイントロが入るタイミングが、毎回毎回神がかっている。ベスト・オブ・ベストなタイミングで

♪ええ加減な奴〜じゃけ〜

と…。特に印象的なのは、やっぱり「りんごの詩」だろうか。こちらは「YouTube」にもこのシーンがアップされているが、このシーンは物語を全部見てこそ生きる。特にこのラスト直前、映画のテーマにもなっている

「男は強くならなければ、愛する人は遠くへ行ってしまう」

をストレートに爆発させたシーン…これを見てからでなければ、ありがちな別れのシーンに映ってしまうだろう。だが、繰り返しこのシーンを反芻してきたファンにとっては、グッと来る所か、条件反射的に涙腺が緩んでしまう名ラストシーンなのだ。他のシリーズも、総じてラストシーンは印象的になっている。ホントは全部、その素晴らしさを書いてしまいたい所なのだが、私の拙い説明文ではむしろこのシーンに申し訳が立たない。だから是非…是非映画としてこのラストシーンを体験して欲しい。

…ラストの汽笛がさ…また、来るんですわ、ええ。


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