俺達は腐ったミカンじゃねぇ!!

加藤優
「3年B組金八先生」生徒


たのきんトリオから始り、最近じゃ上戸彩等と一部の連中からは「アイドルドラマ」なんて言われているし、一部のエリート教育主義者の親御さんにはドラマ内にて描かれるアンチエリート主義的な匂いをバカらしいと論じる向きもある。その一方でドラマという枠をフルに使い、時に時事ネタまでを取り入れて教師という存在の意義、そして教育についての熱い思いを強烈に訴えるドラマは残念ながら他にはない。この「3年B組金八先生」という作品以外には…。

ちなみにこの「金八先生」、最初から高い支持を受けて高視聴率を取っていたドラマではない。何せこの「金八先生」の放映が開始する時代、同じ金曜8時(番組名の金八もコレに由来しているのは有名)という枠には超強力な裏番組があったのだ。その名は「太陽にほえろ」…ショーケン演じるマカロニ刑事編から始り、その後長期に渡り高い人気を得てきた日本テレビ系の怪物刑事ドラマである。

そんな強力過ぎるライバルが存在するこの枠はどの局も敬遠しがちであったのは追って知るべし、と言った所だろう。つまり今回紹介する「金八先生」も当初は大した期待を持たれてはいなかったドラマなのだ。
しかし金八先生を演じた武田鉄也氏を始め、制作に携わったスタッフが

クラスの殆どが「太陽にほえろ」を見ていても、1人くらい「金八先生」を見ている…そんなドラマを作ろう。

と、一念発起して作り上げたドラマは、当初火がついた理由こそアイドル目当てというミーハーなものだったにしろ少しずつ、しかし確実に視聴者を釘付けにしていったのだ。だからこそこの「金八先生」にて取り上げられるテーマというものは非常に多岐に渡る。最初のシリーズでは中学生の妊娠、続く第2シリーズでは校内暴力…最近では母親をナイフで刺してしまった(事故なのだが)少年や性同一障害の少女等、その時世に敏感に反応しているのだ。

さて、今回ネタにする加藤優(直江喜一)は第2期…主題歌が「人として」のシリーズに登場する生徒であり、金八先生のモノマネのネタでも「コラ加藤!!」というネタが使われているくらい有名なキャラクターでもある。
そもそもこの第2シリーズはこの加藤の他にも金持ちの息子で父親と後妻に反発している松浦(故・沖田浩之)、そして無口ないじめられっ子椎名(ひかる一平)という軸があった。しかしやはり金八先生とのぶつかり合いが一番印象的な生徒はやはり今回紹介する加藤優だと私は思う。

知らない方の為に少し加藤優について書いておこう。
加藤は元々荒谷ニ中の番長であったが、そのあまりの素行の悪さから半ば追い出されるように桜ニ中(金八先生の勤めている学校)に転校して来る。彼の父親はサラ金に借金して蒸発しており、母子2人で苦しい生活を強いられているという状況、そしてそれが原因である種卑屈になり過ぎている母親への反発が彼を追い込んでいたのだろう。そんな彼も金八先生の不恰好で不器用ながらも真剣で熱い指導を受け、徐々にクラスメイトにも心を開いていく。

ちなみに上記した松浦とは金持ちのクセに荒れている所に反発したのか当初は犬猿の仲であったのだが、身重である松浦の義母(父の後妻)に関係したとある事件から松浦は加藤に恩義を感じるようになっている。そして椎名の方も加藤の影響で暴走族・チミドロの溜まり場でもあるスナックZでアルバイトを始め、徐々にいじめられっ子の殻を破ろうとするようになっていった。こういった点からも、やはり「金八先生」の第2期シリーズは加藤優という生徒を軸に物語が展開しているのが分かるだろう。

そしてようやく他の生徒の進路も彼の就職も決まり、後は卒業を残すのみ…桜中学の教師一同がほっと胸を撫で下ろした矢先、未曾有の事件が起こる。それが「卒業式前の暴力@、A」で描かれた事件だ。

その前触れはスナックZにて…加藤以下桜中学の生徒がスナックZにて数名警察に補導されたのだ。彼等は「加藤の就職祝いをやっていた」という事で大事にはならなかったものの、そこにいた生徒達にはある不安がよぎっていた…。
新谷ニ中に残っている加藤の仲間が加藤に接近していたのだ。加藤を追い出した後も、荒谷ニ中の体制は完全に落ちこぼれ達を蔑ろにしており、それに耐えかねた加藤の仲間達が生徒達に卒業式をボイコットさせぶち壊す計画を立てており、その計画の為に協力してくれと加藤に話を持ちかけたのだ。

自分自身、今だ荒谷ニ中の教師達のやり口が気に入らない加藤…だが今の自分は桜ニ中の生徒…ヘタに手を貸せば自分を更正させてくれた金八先生、そして自分を受け入れてくれたクラスメイト達に迷惑がかかる。しかし自分を頼ってきた友人を無視する訳にもいかない…。

そして加藤は彼等に協力する事を決意する。ただ、荒谷ニ中の一般の生徒やその親までをも巻き込む卒業式のボイコットではなく、自分達に最も冷酷だった音羽と清水、そして校長に自分達への謝罪を求め職員室に乗り込み直談判することに。乗り込む直前、彼の家の前で自分を止める為に待っていた松浦と一悶着起こすが、結局松浦も加藤を信じ立会人として加藤に同行する事になる。

加藤達が荒谷ニ中に乗り込んだのに便乗し、他の生徒達も窓ガラスを叩き割ったり消火器をぶちまけたりと大騒ぎ…騒動を聞きつけた金八先生を始めとする桜中学の教師陣も加藤達のいる職員室に近寄れない。
事態に驚いた新谷ニ中側は警察に通報してしまう。駆け付けた警察が職員室に突入するのを金八先生らが必死で押さえてもみ合いに…警察が来た事を知った加藤は清水と校長(音羽はさっさと逃げ出している)を放送室に連れ込み立て篭もる。ここにて話し合われた会話は全て全校に放送される事になる。

加藤達は自分達がこんな行為に走ったのは荒谷ニ中の教師達と真剣に話し合いたかったからだという。

腐ったミカンを放り出すのがどうして指導なんですか。
…オレが放り込まれた桜中学で最初に教わった事は、良い事は良い、悪い事は悪いって事だった。これが教育ってものじゃないですか?
教育っていうのはワルにレッテル貼ってもっと悪くすることじゃねえんじゃないっすか?

話し合いの最中、外では騒ぎを聞きつけた加藤の母親や松浦の親父がやって来る。自分達を産んだ大人達、自分達を見放した大人達、自分達を救おうとした大人達、そして仲間である生徒達…彼等の前で、加藤は続ける。

アンタだってコイツの身になって物事を考えたことあるのか?
うちで勉強らしいことをしていれば学校に来たことにしてやる…冗談じゃねえよ!!
コイツには学校に来る権利があるんだ。そしてお前等にはあとたとえ5日でもこいつを学校に来させて、良い事と悪い事をちゃんと教える義務があるんだ!!
オレをバカにしたことと、沢井の権利を取り上げたこと、この2つを謝れ!!
今すぐ手をついてあやまれ!!

静寂の中、金八先生が自分の生徒に呼びかける「加藤!!松浦ぁ!!」という声だけが響く…。

そして遂に校長の重い口が開く。

「謝ります」

と…。
その言葉を聞きどっと沸く校内…興奮した生徒達が加藤コールを繰り返し大騒ぎする中、必死に加藤達の後を追おうとするが周りの生徒達が邪魔で一向に彼等の傍に近づくことが出来ない。そんな中、遂に警察が彼等を逮捕しにかかる。

突入する警官隊、逃げ惑う生徒達…バックに中島みゆきの「世情」が流れ、次々と逮捕されていく生徒達の姿がスローモーションで映し出される。激しく抵抗する松浦に対し、加藤は全く抵抗しない。それを阻止しようとする金八先生も警官に羽交い締めにされて動けない…。

護送車の中に押し込まれる加藤達…金八先生や駆け付けた3-B達も警官に阻まれて彼等の傍に行くことが出来ない。走り出す護送車…警官の静止を振り切ってただ1人追い駆ける加藤の母親…。しかし所詮追い付ける筈もなく、成す総べなくそのまま道に崩れ落ちる…。

この場面の衝撃といったらない。この場面に関しては私もお得意のウンチクをたれる事が出来ない。この一連の壮絶な展開を言葉にするのはヤボというものだ。正にドラマ…見たものだけが自分の全身に鳥肌が立ち、涙に震える事が出来る。そんなシーンである。

そして金八先生と校長の桜ニ中代表と、荒谷ニ中の教師一同、そしてPTA、警察の間で生徒達を早く釈放する様にとの話し合いの場が持たれる。しかしここにて繰り広げられたのは生徒達に対する教師の接し方についての問題であった。事勿れ主義を前面に押し出す荒谷ニ中側、そして規則一点張りで埒のあかない警察…学校だけが教育の場ではないと荒谷ニ中側に食って掛かるPTAと、親がちゃんとしていないから学校で問題が起きると開き直る荒谷ニ中の教師達…。

PTA側は桜ニ中より、というより加藤達問題を起こした生徒寄りだった。特に加藤に身重の妻を助けられた事のある松浦の父親は加藤達に対し温情的であった。しかし「腐ったミカン論」的な詭弁に終始する警察と荒谷ニ中側…そんな埒のあかない状況で、金八先生は涙を流しながら力説する。

教師が生徒を信じられなかったら、誰が彼等を信じてやれるんですか!!
私達教師は人間を作ってるんです。ミカンや機械を作ってるんじゃありません!!

この作品でも強調されている様に、義務教育として法律で定まっているのは小中の9年間だけ…本来ならば高校は別に行かなくても良い所だ。加藤優という生徒は、金八先生との出会い、そしてぶつかり合いによって勉強に対する意欲のようなものが芽生えている様に私には感じられた。しかし彼の場合状況が高校進学を許さなかった。だからこそ、自分が当然の権利として受けられる筈の中学までの教育に対しあまりにも傲慢で怠慢であった新谷ニ中の教師陣に怒りを感じたのだろうし、そんな権利を無視するかのような自分や沢井への言動を許せなかったのだろう。つまりこの騒動は、実は彼が金八先生から多大な影響を受けている事を示している。

そう考えると加藤という生徒、実は金八先生の歴代生徒の中でもかなり優しく、素直な生徒だったのではないだろうか?父親が借金を抱えて蒸発した、父親に裏切られたという思い、そしてその事により卑屈になり過ぎる母親への苛立ち…更に荒谷ニ中で自分を人間扱いしない教師達への怒り…そんな中で追い詰められてしまった加藤。だが本当は周りに気を使う素直な少年なのではないだろうか?

恐らく金八先生に「一番印象的だった生徒は?」と聞けば、先生の事だから恐らく「みんな1人1人印象に残っています」と答えると思う。しかし、少なくとも視聴者にとって一番印象に残る生徒はやっぱり加藤優なんじゃないだろうか?彼ほど金八先生によって変わった生徒は他にいないのだから…。

この「金八先生」というドラマ、いわゆる教育ママだの教育パパといった類の子供をレールに乗せたがるエリート志向の強い親には嫌われている傾向があるように思う。しかし現在、少年による信じられない犯罪が多数起きている理由というものは彼等の人格形成の第一歩にあたる小中学での教育なのではないだろうか?

テストで良い点を取れるのが良い子、取れないのが悪い子…「お受験」等と幼稚園にまで入試試験がある時代…。しかしその「お受験」、子供の為を思って、というのは建前で、実は名門の○○学園に通っている○○ちゃんのお母さん(お父さん)というブランドを着飾りたいだけなのではないか?
先日も、近所の子供が名門小学校に黒塗りのハイヤーで送り迎えされているのを見て、自分の子供も名門学校に入れてエリートコースに乗せようと目論んでいる母親が出ていた。しかしコレに何の意味があるのだろう。親のブランド志向に巻き込まれる子供こそ良い迷惑である。

そして、そういった類のいわゆる「受験の為の勉強」に終始してしまっているからこそ、子供達が良い事と悪い事の区別が出来ない根本なのではないだろうか?若年層に麻薬や売春が当たり前になっていたり、中学生ぐらいの少年が信じられないような事件を起こしたりする原因はゲームでもマンガでもインターネットでもなく、もっと根本的なものなんじゃないだろうか?

その根本的なものに対する解答は、この「3年B組金八先生」にはある。

あ、蛇足になるが、今回のメインネタにしている「卒業式前の暴力A」の挿入歌である中島みゆきの「世情」は、元々は学生運動をテーマにした歌なんだそうだ。確かにこの加藤達の職員室立て篭もり事件は「自分達の権利を認めさせる」なんて意味合いもあるのだろうし、ノリ自体も学生運動に近いと考える事も出来る。だからこそアレだけバッチリハマッたのだろうなぁ…。


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