第一印象が悪いほど、それが裏切られると嬉しくなる

成歩堂龍一
ゲーム「逆転裁判」シリーズ主人公(「4」以外)


ファミコン時代から、テレビゲームにおけるRPGの草分けとして、そして今尚シリーズが続投され続け、新作が発売される度に大きな話題となるゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの第一作目の少し前、この「ドラクエ」の生みの親でもある堀井雄二氏が出していたゲームがある。それは、家庭用ゲーム機草創期を少年少女として生きた世代にはあまりにも有名な、あの

「ポートピア連続殺人事件」

である。このゲーム、真犯人が誰か?という事と同じ位、私と同世代の人間にはアドベンチャーゲーム、というモノを世に知らしめた存在である…という事は、わざわざ説明しなくてもご存知の事だろう。もっとも、このゲーム、妙に高い難易度も有名で、大抵の人は地下迷路辺りで嫌になって止めてしまう、というのもパターンで、「ポートピア」以降、「おやじをなぐる」でお馴染み(?)の「たけしの挑戦状」をプロデュースする、かのビートたけし氏も、とある番組で「ポートピアの地下迷路が難しい」という主旨のボケとして言ったりしている。

さて、そんなこんなで「ポートピア」以降のアドベンチャーゲームがどうなったか?言うと、アドベンチャーゲーム、というモノの「コマンドを選択して情報を集め…」という特性は、あまりシステムとしては発展が出来ないシロモノでもあると言える訳で、どうしてもシナリオ重視という形になってしまう。いや、モチロンアドベンチャーゲームも全く進歩していない、という訳ではなく、例えば「MYST」や「クロックタワー」の様に、自身で散策させ、ヒントを集めさせる、という手法を取ったものや、アドベンチャーゲームの特性を違うジャンルに結実した「ときめきメモリアル」等の恋愛アドベンチャー等の成功はあるし、最近の流れでは他にも、欠点を克服する、という形ではなく、シナリオの面白さと選択肢により広がる展開の面白さ、という部分に一点突破した、所謂「サウンドノベル」とか「ビジュアルノベル」といったものもあり、コチラは「かまいたちの夜」といったヒット作を皮切りに、「ビジュアルノベル」としては、媒体こそパソコンの美少女エロゲーなのだが、物語自体を凝ったモノとする、通称「泣きゲー」なんてモノまであり、コチラは家庭用コンシューマー機にエロを排して移植されたり、アニメ化等メディアミックス的な展開すら見せているものもあるそうで。この他にも最近話題になった「ひぐらしのなく頃に」といった、コマンド選択すら排除して、楽しみ方を完全に受け手側に委ねた作品もあったりする。

まぁ、ココで色々と「アドベンチャーゲーム」というモノを語ってきたものの、実の所、私自身にはそのアドベンチャーゲームに全くと言っていいほど思い入れが無い。むしろ、ゲームとして考えるのであれば「嫌い」な分類に入る。そもそも、「ドラクエ」やら「FF」といったRPGですら、プレイしている、というよりプレイさせられている、という印象を受けてしまう為、その手のゲームでハマッたソフトは「ライブアライブ」と「メタルマックス2」位しかない。キャラクターを育てる要素の他に、戦略、戦術的な考えさせられる要素を持つ、「ファイアーエムブレム」の様なシミュレーションRPGはむしろ好きなジャンルだったりもするのだが、ことレベルを上げてダンジョンを攻略してお姫様を助ける…的なRPGには面白味を感じ難い性格だからして、RPGよりも更に受動的で、コントローラーは選択肢を選ぶ時にしか使わない様なアドベンチャーになってしまうと、最早

「そんなんやるんだったら、本読むか映画でも見るわ」

と、なってしまうのだ。いや、決してRPGやAVGを卑下する訳でもなければ、そういったゲームを好んでプレイしている人をバカにしている訳でも無く、何というか…「水が合わない」媒体、なのである。それでも、ハマッてしまったのが今回紹介する「逆転裁判」シリーズ、という訳なのだ。

面白い、という評判は聞いていた「逆転裁判」であるのだが、私は敢えて手を出さなかった。と、いうのも前述したとおり、私はアドベンチャーゲームに対して…嫌な言い方をしてしまえば「あんなモンはゲームじゃねぇ」位に考えていた所がある上、このゲームの主人公、成歩堂龍一…以下ナルホド君のビジュアルが…某ロボットアニメの全然ネゴシエイトせずに巨大ロボットで力ずくで事件を解決する、あの黒服の主人公と被っていた、というのが一番の原因だったりする。「ビッグオー」…って、タイトル書いてしまったが、それと「逆転裁判」がどっちが先?というのはどうでもよく、問題は、あのキャラ…って、ロジャー・スミスな訳だが、アレの薄っぺらさが引っ掛かり、かつネゴシエイターと弁護士、と全然別物ではあるのだが、何となく被る気がする題材、というのも引っ掛かったのだ。端的に言ってしまえば、ロジャー・スミスの悪影響で、ナルホド君に対し

キザったらしく嫌味な、高飛車な奴

という先入観を持ってしまったのだ。だが、「スパロボW」をやってみたかったので購入したニンテンドーDSでやるソフトがない…かつ出張が控えているらしい、という事で、何かそれなりに長いことプレイ出来そうな奴…という事で探していた所見つけたのが、DSに移植されていた「逆転裁判」だったのだ。この時点では、値段もお手頃(新品で確か¥2000弱で購入)だし、人気も高くシリーズ化までされているゲームなんだから、そんなにツマランって事はないだろう。それにアドベンチャーだから、操作性云々で合う合わないはないだろうし、面白かったら他のシリーズも買ってみれば良いか…という、割と打算的な形で購入に踏み切った訳だ。この頃…というか、今もなのだが、学生の頃とは違い、家庭用据え置き機すら売り飛ばしてしまった私にとって、ゲームは暇つぶし(特に出張した時など)アイテムでしかなく、情報に関してもかなり疎かった。この時も、ゲームソフトを適当に探しに行く、という程度の感覚なので、下調べなんかしやしない…それこそ、「逆転裁判」を買わなかったとしたら、「マリオ」とかのベッタベタなゲームを購入していたかもしれない位なのだ。

…で、購入してお試しプレイ、となった訳だが、まず驚いたのがその親切設計。説明書なんかは特に読まないでも、苦労したりはしない分かり易いシステムで、何より最初のエピソードをチュートリアルとして活用しており、プレイしながら簡単にゲームシステムやルールを学べる、というのに密かに感動した。そして、「逆転裁判」を敬遠していた一番の理由であるナルホド君のキャラクターにしても、ロジャー・スミス等とは全く違う…むしろもっと尖がったキャラクターかと思いきや、思いの他ノーマル…しかも、ゲームでの活躍(といってもこのゲームはナルホド君の活躍ぶり=プレイヤーな訳だが)も、敏腕とかスゴ腕、といったモノではなく、むしろやや頼りない…弁護士弁護士、先生先生したキャラクターではなかったのも好感度高かった部分だ。私は、正直弁護士然り、政治家然り、教師然り、用心棒然り…世の中で「先生」と呼ばれている奴にロクな奴はいない、という、我ながら酷い偏見を持っていたりするので尚更この部分には惹かれた。そんなこんなで、仕事から帰るとただひたすらに「逆転裁判」をやり続ける日々が何日か過ぎ、「逆転、そしてサヨナラ」のエピソードに突入する頃には、ナゼか「2」から「4」までのシリーズが手元に揃っていた…正直、こんなにハマるとは夢にも思わなかった。

先ず、目玉とも言うべき「法廷バトル」の面白さである。システム自体は「序審法廷制度」という、ゲーム独自のモノであるし、アメリカのドラマからの影響なのだろうが、日本の裁判官は木槌を叩いて「静粛に!!」なんてやらないので、別段リアリティを追求している訳でも無く、むしろ多分にディフォルメされたものではあるのだが、その緊迫感はホンモノなのだ。法廷パートの根本は、証人が発する証言に対しゆさぶりをかけつつ、法廷ファイルにある証拠品と、照らし合わせてその矛盾点を突いていく、という単純極まりないモノなのだが、ムジュンを見つけ、「意義あり!!」と突きつけ、証人(真犯人)を追い詰めるの快感は堪らないものがある。前述している通り、主人公のナルホド君は割とクセのない、ノーマルなキャラクターではあるのだが、一方で証言台に立つ面子はヒトクセもフタクセもある個性派揃い…彼等を追い詰めていく際に見せるリアクションの派手さ、そしてナルホド君の間違いに対する手厳しいツッコミ…そのやり取りの面白さも相まって、飽きさせない。

そう、この法廷パートにおける、ムジュンを突きつける、というシステムこそが、「逆転裁判」がただテキストを読ませるだけのアドベンチャーゲームから一歩抜きん出ている部分なのだ。それまでの推理モノアドベンチャーゲームに対し、私が「ポートピア連続殺人事件」の件で書いている様な…コマンド選択という作業をさせられている感、ただテキストを読まされている感、というのを感じてしまった経験のある人…実は少なくないのではないだろうか。幾ら本格派ミステリーで凝りに凝ったトリックが展開されていたとしても、ただ流れる文章を読むだけ…導かれるままに移動し、話を聞いて、物証を見つけて…という、まるで母親に頼まれた買い物をこなしているだけの様なケースになってしまう…というパターンが、それまでのアドベンチャーゲームにはあったのではないだろうか?そういう本格ミステリーに対し嗜好が合致する人間ならイザ知らず、ゲームをやっているつもりが実は言われるがままにお使いをさせられてました…では、面白味を感じられない人は少なくない筈。それを、「法廷バトル」において嘘を見破る、ムジュンを突きつける、という形で考える要素を設け、プレイヤー自身に積極的に参加させる訳だ。結果、おかげでプレイヤーは証人の発言の一句一語全てに注目しなくてはならなくなる、と。

ただしかし、「法廷バトル」を支える「探偵パート」に関しては、もうコレはそのまま旧来然とした”古きお使いアドベンチャー”になってしまっていた事は否めない。個性豊かなキャラクターとのやり取り、という形でなんとかタイクツさせないよう頑張ってはいるものの、やはり法廷バトルを戦う為の、重要な証拠集め及び事件の推理をする場であるにも関わらず、法廷パートと比較すると探偵パートは些か軽いというか、緊張感に欠けたものになってしまっている。しかし、「逆転裁判」は「2」においてこの部分にもテコ入れを行っている。それが、「サイコロック」というシステムだ。

「サイコロック」は物語上でも霊媒というオカルトな力を使う、ある意味裏技的なポジションではあるのだが、この「サイコロック」にて新たな証言を引きずり出す、という作業が、旧来然とした情報集めという名のお使いだった探偵パートにプレイヤーを参加させる事を強要してくる。一応説明しておくが、「サイコロック」とは何か事情を抱えるキャラクターが話したくない事を、証拠を集めて聞き出す、というものなのだが、コレはある意味で規模の小さい法廷パートであり、ココでもプレイヤー自身の推理力を求められる訳だ。この新システムのおかげで、更に「逆転裁判」はアドベンチャーゲームとしてではなく、ゲームとしての完成度を増した、と言えるだろう。

さて、システム的には完成度が高い「逆転裁判」ではあるが、アドベンチャーゲームとして重要なシナリオの出来についても言及せねばなるまい。正直、「逆転裁判」は本格推理アドベンチャーという訳ではない。推理モノとしては、「火曜サスペンス劇場」の様なモノではなく、むしろ「刑事コロンボ」に近いのではないだろうか。いや、コミカルな印象を加味すればドラマの「TRICK」辺りに近いのかも知れない。恐らく、「ポートピア連続殺人事件」の様な骨太の推理アドベンチャーとしてこの「逆転裁判」を手に取った人は、正直拍子抜けしてしまうだろう。そもそも、このゲームにおいては初手から「霊媒」といったやや荒唐無稽なネタを題材として持って来ているし、トリック自体に偶然の要素を絡めた…正直無理を感じるネタもあったりする。しかし、そういったモノはゲームとしての敷居を下げる為に敢えてやっている、という気がしてならないのだ。

それは、このゲームの対象年齢である。このゲーム、実は対象年齢がない。別にCEROがどうのこうの…ではなく、開発陣がこのゲームを作るに当って想定したプレイヤー層という奴が、はっきりしないのだ。このゲームを開発するに当たって、ディレクター兼シナリオ担当の巧舟氏はコラムで次のような事を言っているんだそうだ。

「自分の母親でも遊べるゲームにする」

つまりは、今までゲームとかをやった事がない人でも楽しめるゲームにする、という事なのだろう。事実、「逆転裁判」シリーズのシステムは基本的に単純明快であり、複雑な操作を強いる事もない。やたらと難解なテーマや、複雑すぎるトリックなんかも使っていない。よく、このシリーズを評するに当たって「トリックがありがちで簡単なのでシナリオが面白くない」という人がいるが、はっきり言ってしまえば、「逆転裁判」はミステリーではない。よって、トリックの面白さ=シナリオの出来、という構図は成り立たないのだ。はっきり言って、「逆転裁判」シリーズの殆どのエピソードをプレイしても、真犯人は最後の法廷開始前に分かってしまう。せいぜい例外は「3」の最終エピソード位なものだろう。

そういう意味で言えば、クライマックスで真犯人と崖っぷちで対峙し、返り討ちに遭いそうな所を駆けつけた警察やらパートナーに助けられる、という類のモノではなく、言い逃れしようとする真犯人の嘘を暴いて追い詰める、という海外ドラマの「刑事コロンボ」とかに近いスタイル…だからこそ、逆に追い詰めるにいたるプロセスであるトリックに関してはやや強引であったりしたとしても、そこに至るプロセスが面白ければ良い、という事なのではなかろうか。事実、多少トリックに無理があったとしても、大まかなシナリオの流れはドラマに富んでおり、「3」の様に、一見主題とも言えるネタと無関係なエピソードにすらラストへ向けての伏線を散りばめておいて、最終的にキッチリそれが結実する、という見事な展開を見せたものもあったりする。実は、「逆転裁判」を題材にした劇があの宝塚でも上演されていたりもする位なので、そういう物語としての面白さ、という点でのシナリオの完成度は十二分に優れていると言える筈だ。

何だか脱線してしまった気もするが、操作性、システム、シナリオ…全てにおいて、とっつき難さを排除した結果が、この「逆転裁判」なのではないか、と思うのだ。流石に小学校低学年とかでは厳しい気はするが、子供がやっても大人がやっても、ゲーム玄人がやろうと初心者がやろうと…老若男女どんな人でも専門知識その他ゲームスキル一切ナシに楽しめるゲーム、というコンセプトとしての完成形…「逆転裁判」とはその一端であるのではないだろうか。

正直、私としてもゲームにはファミコン時代から付き合っている身ではあるが、スーパーファミコンになって十字キー、スタートセレクトを除いて使うボタンが2つから6つになり、それがプレステでは最大10ヶにまで増え、グラフィックだって最新のPS3やらXBOXでは実写さながらのものになっている。ゲームとしてプレイヤーがやれる事は確かに多くなって、ファミコン時代には考えられなかった様な、多種多様、色々な事が出来るようになった…確かにコレはコレで面白い。でも、逆にそれが人がゲームを、ではなくゲームが人を選ぶ時代になった、とも言えてしまう訳だ。私自身、昨今の派手なアクションゲームなどについていく自信は正直なところ…無い。そんな中、携帯ゲーム機という、そりゃあゲームボーイに比べれば確実に進化はしているが、最低限のスペックでも最大限に楽しませてくれる、この「逆転裁判」の様なゲームに出会えたことは、感謝せねばならない…本気でそう思っている。

さて、「逆転裁判」として最後にやはり触れとかなくてはならないのが、「4」になってからの変貌だろう。「4」以降…外伝的位置付けで今度リリースされる「逆転検事」においても巧氏の名前が挙がっていないので心配する声が絶えないのだが、正直、別物の印象はある。と、いうよりもあんな形に変貌してしまったナルホド君を出すなら、ナルホドシリーズとは完全に距離を置いた方が良かった気がする。システム的にはほぼ完成されたシリーズなので、プレイした印象は悪くは無いのだが、個人的意見を言ってしまえば、シナリオ、キャラクター共に可愛げが無くなった…という印象が強いのだ。「蘇る逆転」でゲストとして登場していた宝月茜など、ビジュアルでは雲泥の差があるにも関わらず、前任のイトノコさんの方が可愛く見えちゃうってのは問題なんじゃないか?と。アカネは若い女刑事、対するイトノコさんは冴えないオッサン刑事なのに。(苦笑)

新システム「見抜く」にしても、ただメンドウなだけで面白味が薄いし、何より「サイコロック」よりも反則めいていてどうも…ねぇ?


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