エイジに対する闇を司る男

ゴステロ様
「蒼き流星SPTレイズナー」悪役

「ザクとは違うのだよ!!ザクとは!!」

「機動戦士ガンダム」に登場する数多くの「オヤジ」の中でも、とりわけ人気が高いのがこの台詞で有名なゲリラ屋「ランバ・ラル大尉」である。彼は作中ジオン軍の新型MS「グフ」を駆り、何度もアムロ達ホワイトベースを窮地に追い込む活躍を見せた。また、ホワイトベースを降りたアムロとソドムの町で出会ったことで何も判らないまま戦っていたアムロに具体的な「敵」というものを認識させ、超えなくてはならない父親的な存在感を見せつけてくれた。その存在感からか、数多く登場したジオン軍の戦士の中でも「赤い彗星」に匹敵する人気を誇っているキャラクターである。しかし「ランバ・ラル」を演じた広瀬正志氏の本領は、実はラルのようなカッコイイオヤジではなく陰険な悪漢を演じさせた時に発揮されるのだ!!

広瀬正志氏が声を当てている悪漢といえば、まず「装甲騎兵ボトムズ」のクメン編に登場した「カン・ユー大尉」である。彼はクメン共和国軍の「アッセンブルEX−10」のゴン・ヌー指令の片腕的な存在で、部下には厳しく、上司には頭が上がらないという典型的な中間管理職タイプのキャラクターである。

このカン・ユーという男、残忍で卑劣、そして傲慢、その割に指揮能力は大したことがないという一見小物なのだが、そんな情けない奴でもATに乗らせたらかなりの腕を持つエースなのだ。そのギャップがなんとも言えない魅力を放っており、クセ者が多かったクメン編でも特に印象に残る男だった。

そして忘れてはならないのが今回紹介する「蒼き流星SPTレイズナー」に登場する「ゴステロ様」というキャラクターである。

この男、軍人、しかも士官の立場にありながら「俺は人殺しがだぁ〜い好きなんだぁ!!」と公言してはばからない生粋の快楽殺人者であり、目的の為なら手段を選ばないとんでもない悪党なのである。この開き直った設定が逆に爽快であり、放映当時全国の視聴者から大人気を集めたというロボットアニメ史上でもかなり特異なキャラクターなのだ。

この「蒼き流星SPTレイズナー」と言えば「僕の名はエイジ。地球は、狙われている!!」と地球に伝えに来た少年、「アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ」が主人公で、最近(1999年)に「ActV刻印2000」というOVAで完結した最後のリアルロボットアニメとして知られる。

この主人公のエイジ君、地球人とグラドス人との混血という設定で、父から聞いている「美しい地球」を守る為にたった1人で軍を脱走し、地球に危機を伝えに来た。しかしこの設定には、かなり聖人君主的な偽善を感じてしまう。作中でもその聖人君主ぶりは際立っており、自分を信用していない地球人を自己犠牲の精神で何度もグラドスの攻撃から守るのだ。
特に、彼の先輩であるゲイルが追撃してきた時の

「それでも、僕の血の半分は地球人です!!父さんは地球人です!!」

という台詞はその最たる例と言えよう。更に彼はもう半分の血であるグラドスの同朋も殺したくないので、どんな危機に陥っても急所への攻撃を避けるのだ。このエイジ君のあまりの「博愛ぶり」「聖人君主ぶり」「偽善ぶり」は私のようなお世辞にも善人とは言えない人間にはどうしても鼻についてしまい、シモーヌと同様「あなた、カッコ付け過ぎよ!!」と言いたい気分にさせられてしまうのだ。

そんな一部のダークサイドな視聴者の気持ちを中和したのが我等の「ゴステロ様」である。彼の「ヒャーッハッハッハッ!!」という卑猥な笑い声、目的の為なら仲間をも謀殺する残虐非道な振るまい、「俺は人殺しがだぁ〜い好きなんだぁ!!」と公言してはばからない開き直った性格、そのすべてがなんとも痛快に映ってしまうのだ。言わばゴステロ様はエイジ君の対極の存在であり、エイジ君が正義のヒーローを続ければ続けるほどゴステロ様のダークサイドな魅力も際立っていくのである。

特に火星での地球人の生き残りを守るエイジ君の「レイズナー」と、執拗に彼等を追撃するゴステロ様の「ブルグレン」の戦いは両者を象徴する見事な演出である。エイジ君はエリザベス達地球人の生き残りを逃がす為にゴステロ様の部下を人質に取る。しかしゴステロ様はエイジが人を殺せないことを知っているので部下が捕らわれていてもお構い無しに攻撃を仕掛けるのだ。

挙句の果てにゴステロ様は「見殺しにされた」恨みで攻撃を仕掛けて来た部下までも殺してしまう。彼の仲間殺しはこれだけに留まらない。ゴステロ様が親友(前記した部下)を殺したことを知った部下を口封じの為に殺し、更にゲイルを謀殺する為に2人を殺してしまう。本当にとんでもないキャラクターなのだ。

そして逃げ惑う地球人に対してもわざわざSPTのレーザードガンの口径を対人ライフル口径に、威力も最低出力に落として1人1人狙撃していくのだ。これ程残虐さ、非道さ、陰険を際立たせたキャラクターが他にいるだろうか?

実は、このゴステロ様の言動は、物語冒頭での世界観構築に一役かっている。グラドス人の地球侵攻の大義名分は、「野蛮な地球人を優れたグラドス人が支配し、導く」というようなものである。そしてその「優れたグラドス人」として登場し、物語冒頭でエイジ君を追いかけたゲイル先輩は非常に理知的であり、道理と言うモノをわきまえた立派な男であった。

この時、視聴者は「グラドス人がゲイルのような理知的な人間ばかりなら、支配された方が良いのかも知れない」というパラドックスに陥る。おりしも作中ではコズミックカルチャースクールの面々による「エイジ君シカト大会」が繰り広げられているので尚更この印象は強まる。そこで登場するのが我等のゴステロ様である。

ゴステロ様の卑劣な言動、卑猥な性格が、「良い人」過ぎる部分があるゲイルから視聴者が受けるグラドス人のイメージを中和するのだ。ゴステロ様のような男が冒頭から登場したからこそ、グラドス人は地球人と大して変らないということを視聴者に理解させることが出来たのだ。エイジ君の善性に対する悪性としての役割だけでなく、グラドス人と地球人が対等である事までをも視聴者に分かり易く打ち出したゴステロ様、物語に無くてはならない存在だったのだ。

そんなゴステロ様も第1部の中盤で途中退場するのだが、第2部の開始早々グラドス軍文化矯正部隊「死鬼隊」のメンバーとして復活を果たす。サイボーグ化した彼は残忍さが50%(当社比)アップし、更に好き放題に暴れまわる。彼はどうやらル・カインにお情けで生き延びさせられたようなものらしく、閣下にはことごとく頭が上がらない情けなさが演出に追加される。

その情けなさは、ル・カインの申し出に対して名乗りを挙げ、SPTでの決闘に応じたデビットを兵士に小銭を掴ませて狙撃させたりと枚挙にいとまない。この情けなさは前半のゴステロ様に見られた「圧倒的な悪」の印象はなく、小者そのものである。しかし、そんな彼がトンファを両手に構えて大暴れする後期のエイジ君のヒーロー的な魅力を助長したのだ。ゴステロ様は圧倒的な魅力を失っても、その魅力までは失ってはいないのだ。現に私個人は後期の情けないゴステロ様の方が好きだったりするくらいだ。

そんなゴステロ様はエイジ君を執拗に狙い続け、横恋慕している彼の姉「ジュリア」を誘拐する。(ちなみにゴステロ様がゲイルを恨んでいるのは、ゴステロ様がジュリアに乱暴を働こうとした際ゲイルにぶん殴られた為である。)その天上天下唯我独尊ぶりはやがて同僚の「死鬼隊」メンバーに粛清されてしまうほどである。

しかしゴステロ様は全然懲りない。粛清で愛機「ダルジャン」を破壊されてもまだ暴れ回るのである!!第33話でMF「ダンコフ」に踏み潰されるまで彼の暴走は止まらないのだ。作品をぶち壊しにしかねない圧倒的な存在感と、痛快な暴れっぷり、そして口にするセリフは全て名言となりうるゴステロ様は、正にキング・オブ・ヒールと言っても過言ではあるまい。

この「レイズナー」は、前半第1部は「ゲイル先輩」、後半第2部は「ル・カイン」がエイジ君のライバルキャラクターと言われている。しかし、この作品の「悪役は?」と聞かれればやはりこの「ゴステロ様」であろう。ゴステロ様は決してライバルキャラクターにはなれない。エイジ君の光に対する闇、つまり「悪役」としての存在感こそがゴステロ様の魅力なのだから…。


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