神業のメスをふるう男

KAZUYA マンガ「スーパードクターK」主人公

まぁ、今の若い衆には「ゴッドハンド輝」の方が有名だと思うのだが、ちょっと前に週刊少年マガジンにおいて「スーパードクターK」なるマンガが連載されていた事をご存知だろうか。この「スーパードクターK」は、医療マンガという敷居が高く、少年誌向けとは言い難い題材を描きながら、コミックスは全44巻…続編(というより改題)である「Doctor K」を含めると全54巻、少年誌連載の医学マンガとしては異例の長期連載と言えるだろう。80年代〜90年代前半にかけてのマガジンは連載マンガが本当に少年向けだったジャンプやサンデーよりも対象年齢を高く取っていたのも「スーパードクターK」が長期連載となった理由の一つではあろうが、このマンガの場合、ジャンプやサンデー辺りの読者にも受け容れ易そうな要素があったのだ。コレを語るのに分かり易いモノを一つ挙げておこう。

いや、実は次に紹介する話は当時の講談社がどうのこうのとか、原作者の真船先生がどうこうという話ではない。私の思い出話なのだ。と、いうのも私、学生時代にこの「スーパードクターK」を題材(というよりパクった/笑)自主制作映画の脚本を書いた事があるのだ。私が通っていた高校(厳密に言うと高校ではないのだが便宜上この表記を使う)にはシネマ研究部なる同好会みたいなのがあり、ココに所属する級友と私はそれなりに懇意にしていた。私自身は部活動とかに興味が無く、ただひたすらに自堕落な学生生活を送っていたのが、ある日、その級友にシネマ研究会がイベントの際に放映する自主制作映画(といってもそんな大層なもんじゃあない)の脚本が全然出来て無いのでお前もそんなヒマそうにしてるなら書いてくれ、と頼まれた事があり、冗談半分で書いたのが「スーパードクターK(ケンシロウ)」だったのだ。

多分「スーパードクターK」を読んだ事がある人なら誰しも思ったことだろうが、このマンガの主人公であるKAZUYAは医者でありながら筋骨隆々で腕っ節が強く、しばしその拳にて自信の身に降りかかる事件を解決したりもするのだが、そんな彼のアクションシーンの中に…えっ?コレって…と思わせる技があった。そう、私の仲間内ではもうそのまま”北斗百烈拳”と呼ばれていた拳のラッシュである。それをそのまんま利用して私が書いたのが「スーパードクターケンシロウ」である。我ながら安直で今思うと恥ずかしかったりもするのだが。(笑)

それはともかく、その脚本は「スーパードクターK」におけるKと城南大との因縁のキッカケとなった大河内学長の心臓移植(結局移植はしていないのだが)をほぼそのままなぞったものだが、冒頭にマンガの冒頭にあった様なナレーションを入れ、そこに”一子相伝の暗殺拳”なんてキーワードを加えたり、クライマックスの学長のボディガードとの戦いではやられ役に「ひでぶ〜っ!!」といわせたり、オチの部分で高額の報酬を貰っている筈のKが被害者に「人生をやり直すのに十分な額」といって渡したのが3千円…なんてオチをつけてみたりと、今思えば他愛ないパクりでしかない脚本ではあったが、作業自体は結構面白くやれた。思えば、同人誌とか作っている人もこの時の私が感じていた楽しさを感じているのかな?等と思ったり。

私としては完全にお遊びで書いたのだが、その脚本がナゼか通ってしまい実際に撮影してしまった訳だが、このシネマ研究会という奴は「研究会」とはいいつつ、撮影用の機材やら映像編集用パソコン等はあったが小道具その他諸々に金をかけない所で、医療機器に見えそうなモノはおろか、Kの象徴たるマントなどあろう筈も無く、理数系の学校なので白衣はなんとかなったが、Kの格好に至っては研究会のたまり場にあったフロシキ…それも唐草模様のものを羽織っただけ、という…本家以上に奇天烈なスタイルになってしまった。結局、私自身がその映像化されたモノを見たのはかなり後の事だったのだが、そのイベントでも”それなりにうけた(級友談)”との事でほっとしたのを覚えている。ま、今思い返すと恥ずかしくもあるが、良い思い出だ。

それはともかく、上の私の思い出話でも触れている通り、この「スーパードクターK」…いや、主人公のKAZUYAは「北斗の拳」におけるケンシロウとイメージが被る部分が少なくない。それは原哲夫先生と同様真船先生も所謂劇画調…昨今主流のマンガとは異なり、紙面を触るとインクがベッタリつきそうな濃い絵を描く事も理由の一つであるし、医者にも関わらず格闘家の真っ青な筋骨隆々の肉体を持ち、私もネタに使った百烈拳の様な技を使う、というのも確かにある。しかし、実はそれだけに留まらない、設定部分から敢えてそうしたような類似性が両者にはあるのだ。

例えば、「北斗の拳」においてケンシロウの繰り出す北斗神拳は古来から一子相伝にて伝承されてきた一撃必殺の暗殺拳、というのは皆さんご存知の事だろう。この設定が、正当な伝承者たるケンシロウと、北斗神拳を覇業に使う兄・ラオウの哀しき宿命としての戦いがあった。その一方、北斗神拳とは兄弟とも言える拳法として南斗聖拳の一派があり、ある者は自らの野望の為に、ある者は弱き者を守るためにその拳が振るわれる。そして彼らとも宿命に導かれ、ケンシロウは戦う事になる訳だ。

一方の「スーパードクターK」の場合、Kの一族に対し世界の影に生きる医の一族、という設定がある。ただ、Kの一族はブラックジャックとは異なり、彼らの医療行為の多くは無償に近い形で行われている。正にKAZUYAの父・一堡の言葉「医者は人間の命を救うためにのみ存在する」を地でいく一族なのだ。ただそんな一族にも異端は存在し、時にKAZUYAと対決を余儀なくされる。代表例がKAZUYAのクローン人間を作ろうと暗躍した叔父・一昭や、「Doctor K」か登場した医学に復讐を誓うKAZUYAの妹・KEIである。もっともKAZUYAと一昭は決着を「Doctor K」まで引っ張った挙句、結局はハンパな形での和解という形にされてしまったが、KEIの方は一時期は完全に主役格の扱いを受けており、改心し真の医に目覚める過程も丁寧に描かれている。

そして、「スーパードクターK」における南斗聖拳はやはりKの行く手を阻む一派であろう。それは橋爪を始めとする城南大であり、権力の闇に潜む真田武志、幾度と無くKAZUYAと対決、共闘したドクターTことTETSUといった面々であろう。しかも面白い事に、これらのキャラクターは「北斗の拳」においてのシンやサウザーと同様、完全な悪役のままで殺さなかったのも似ているのだ。例えば城南大学学長のボディガードである橋爪は最後は逆にKを守る為に城南大学一派を裏切り、真田武志も最後はTETSUの説得(?)もあってか危険な新型ウィルスを消し去る為に自爆して果てている。TETSUに至ってはKEIの存在が発覚した際などむしろもっともKAZUYAに協力的な行動をとっており、橋爪や真田武志とはやや異なる半悪役というか、登場したての頃のレイ的なキャラクターになっている。

こういった構図…少年誌らしい登場人物配置は「スーパードクターK」から医療マンガは小難しい、という先入観を消すのに一役も二役も買っていると言えよう。他にも、医療マンガなのにアクションシーンも多く、メスさばきだけではなく拳で物事の解決を図るケースも少なくなかったりと、多分に読者層を意識している節がある。しかしKAZUYAの医師としての立場は頑なに守られており、真田の策略で恩師である柳川や大垣が窮地に陥った際など、「メスを持つ資格を失うかも」と七瀬に愛用のメスを預けたりもしたが、結局はどんな悪に対しても「不殺」を貫いた。この辺りは真船先生が「医療マンガ」として譲れなかった部分でもあろうし、その、医師として…それこそ父の口癖でもあった「医者は人間の命を救うためにのみ存在する」という言葉を自ら実践するKAZUYAの姿も無骨ながらも心強い、医師の完成形とでもいうべき魅力にも繋がっているのだろう。

ただ、彼自身は完璧超人ではないのも実は作中で印象的に描かれている。「スーパードクターK」時代はさほどでもないが、「Doctor K」に改題されてからはそれが顕著に出ており、記憶を失い周囲の期待から「自分は医者でなければ何の価値も無い人間なのか」と思い悩む様や、自らのガンの再発等、完璧ではない人間としての”弱さ”も多分に描かれている。それが余計、医師である事への強い誇り、病魔に屈せず最後まで医師であろうとする姿がより高潔に見せるのだ。ファンの中には「Doctor K」に対し否定的な意見…スーパーが無くなったただのドクターK、等と言う風に皮肉を言うファンもいる…というか、私自身、本格的に通して読むまではそうだったのだが、個人的には多分に”弱さ”が付加された「Doctor K」のKAZUYAの方がより魅力的に見える。

思えば、KAZUYA自身、自ら患者になって気付いた事がある、的な発言を作中にてしている。そしてラスト、自らの命がそう長くない事を知った彼は、最後まで医師であろうとし、また自らが医師である事に感謝する。この姿こそ、究極の医師の姿であると同時に、「ブラックジャックによろしく」や「白い巨塔」といった社会派医療マンガには…いや、本家であり元祖でもある「ブラックジャック」でも描かれる事が無かった”ヒーローとしての医師の完成形”でもあったのではないだろうか。

正直、「スーパードクターK」というと、医師らしからぬ筋骨隆々としたKAZUYAの姿がネタとして語られてしまう事が多い気がする。だが、もう一度真剣にこの「スーパードクターK」を読み直して欲しい。医療マンガとヒーローマンガとの狭間で奇跡的バランスで生まれた”ヒーローとしての医師”の姿がそこにある筈だ。


さて、
これから「スーパードクターK」を読もう!!と思った方に蛇足のチョイネタを紹介しておこう。

1.「スーパードクターK」にはモブとして「はじめの一歩」の鴨川会長がちょくちょく登場している。実は真船先生と「はじめの一歩」の森川先生は同じ草野球チームに所属していたりと私生活においても仲が良い。

2.あるエピソードで「ミスター味っ子」に登場する味皇様のそっくりさんが登場するが、実は「ミスター味っ子」の寺沢先生とも仲が良く、逆に「ミスター味っ子」には「スーパードクターK」のキャラクターがモブなどで登場している。

3.作者の真船先生はセガのトレーディングカードゲーム「三国志大戦」において、三国志に登場する伝説の医師・華侘のカードを描いているが、その風貌や格好がモロにKの一族っぽい。

4.医療器具と携帯電話の問題を報道する際、「スーパードクターK」の単行本がニュースJAPANにて使われた事がある。

5.「北斗の拳」と同様「スーパードクターK」が影響を受けたと言われる事が多い「ブラックジャック」だが、このブラックジャックのイニシャルから「K」という頭文字をとった、という説もあるが、個人的には真船先生が野球ファンであり、三振を示す「K」から取っている、という説の方が信憑性が高いと思う。

6.直接的な関係は無いと思うが、初登場時の真田武志は「ジョジョの奇妙な冒険」の花京院にソックリ。更に愛国心の強いドイツ人医学者・ウィルヘルム・カイザーは同作品のシュトロハイムにソックリで、言動も近いものがある。

7.真船先生は今現在マガジンZにて「ウルトラマン story 0」というマンガを連載している。また、イブニングにて「スーパードクターK」「Doctor K」の続編である「K2」も連載中。勿論主人公はKAZUYAではないが、Kの一族についてもっと突っ込んだネタがあり、個人的にかなり期待していたりするので只の焼き直しにはならないで欲しい所。勿論、高品やKEI、軍曹といった名キャラクター達も登場する。(2006.9月現在)


戻る