エンスーに憧れて…

ロマンのマスター
「GT roman」 喫茶店「roman」のマスター


エンスージアスト…またはエンスーという言葉をご存知だろうか?

enthusiast…本来の意味は「〜に熱中する人」という意味なのだが、クルマ好きの間では、古くてちょっと違うクルマを好き好んで乗る人々の事を指し示す言葉である。学生時代、私はこのエンスーに憧れていた。元々その下地はあった。親父が…今で言うと走り屋だとでもいうのだろうか、よなよな自分の愛車の助手席にオフクロを乗せ、実家近くのまだロクに整備されていない…舗装すらされていないダート道をかっ飛ばし、その度オフクロは食べたものを全て戻したりもしていたらしい。

本人談なので子供に対するメンツというか、見栄とかもあるだろうから信憑性には乏しいが、ウチの親父とオフクロの馴れ初めという奴は結構「大恋愛」だったらしく、その話も中々にドラマチックなのだが今回は本題と外れるので割愛する。

ともあれそんな親父だったから、私は物心ついた頃からクルマ好きだった。幼稚園の頃、弁当箱やらカバンといった持ち物に名前の横にクルマのマークをマジックで書き込んでいたりしたし、買って貰うオモチャは殆どがトミカとかのミニカーだった。私が生まれた時から家にあった…確か77年式のブルーバードUを親父が廃車にすると聞いた時は、自分のクルマでもないのに大声で泣いたのだと言う。小学生に入った頃にはジャンプの「よろしくメカドック」が大好きだったし、小学校4年のマラソン大会の練習で骨折した時には通っていた接骨院の待合室にあった「サーキットの狼」を読破したりしていた。

中学生になると、「CARマガジン」や「ゲンロク」「Tipo」といった外車が沢山載っている雑誌を買い漁ったり、「ノスタルジックヒーロー」といった国産旧車の雑誌なども読んでいた。そういえば所ジョージ氏の監修でスタートした「DAYTONA」なんかも読んでいて、DAB会員になったりもしていた。もう会員証は失くしてしまったが。(苦笑)

まぁ、ココまでの話で既にワカラン人はサッパリだろうし、クルマとかに興味を持っていない人には面白くもなんとも無い話が続いているが、そういう人も是非、話半分でこの記事に最後まで付き合って欲しい。

さて、今回紹介するマスター…というより、彼が登場するマンガ…西風先生の「GTロマン」こそが、私がエンスーに強烈に憧れたキッカケを作ったマンガなのだ。

作品の内容は、「サーキットの狼」の様なカッチョヨイスーパーカーが出まくる上に派手なレースシーンが続く訳でも、「頭文字D」の様に丁度ターゲットの世代に興味を惹かれる峠族的な暴走行為が描かれている訳でもない。そもそも明確なシリーズを通しての主人公すら存在しない、オムニバス形式の短編が続く物語でしかない。舞台は沼津の峠にある喫茶「ロマン」だが、クルママンガにありがちなスピードへの探求、カーレースに魅せられた青春、ライバルとの邂逅、といった要素は…無い。

そんな「GTロマン」の何が面白いか?という疑問を読み解くキーワードが第六巻の単行本のカバー裏にある。漫画家とり・みき氏がこの「GTロマン」を評したコメントだ。

私は車(メカ)に弱く同様に他の車モノの漫画は全然読めない。ところが西風だけは別だ。なぜだろう?
答えは(逆説的だが)いちばんマニアックな描き方をしているからだと思う。
他の作品は皆、勘違いしているのだ。一般性の獲得は妥協の側にではなく、マニア的こだわりの果てにこそ存在するのである。

このコメント、私はこの「GTロマン」というマンガの魅力を最も的確に表現していると思っている。コレを裏付けるように、この「GTロマン」というマンガ、先述したエンスーと呼ばれる人々の間でバイブル的な人気を持っている他、一般にこういった趣味に理解が無い人が多いと言われる女性にも結構なファンがついているらしい。

そう、非常にマニアックな話が展開される…にも関わらず、「GTロマン」は決して嫌味でも小難しくも無いのだ。キーワードとしてエンツォ・フェラーリだのS20だのと、クルマに興味ない人にはよく分からないものが並んでいるし、登場するクルマも、ミニとかフェラーリ程度ならともかく、アルファロメオとかMGなんてのは…多分雑誌とかテレビでしか見たことが無い様なレベル…というより街中で見かけても「変な車」程度の認識しかされないであろうクルマばかりだ。まぁ、「よろしくメカドック」で小町ちゃんが乗っていたヨタハチとか、「カリオストロくの城」冒頭でルパン達が乗っていたフィアット500とか、クラリスが乗っていたシトロエン2CVとかは、「何所かで見た…」なんて思ってくれるかも知れないが。

そう、この「GTロマン」というマンガ、マニアックなクルマをネタに描いてはいるが決してクルマバンザイな作風ではない。描かれるのは人とクルマの会話であり、クルマを巡る出会いなのだ。○○バンザイという言葉で括るなら、むしろクルマライフバンザイ、エンスーバンザイなのだ。エンスーバンザイだからこそ、クルマが原因で女の子に振られてしまう男も描かれるし、持つ喜び、走る喜びと同じく持つ事の苦労も描かれているのだ。クルマ愛好生活と共に、男女の恋愛模様やクルマで繋がる友情が描かれ、相互関係で魅力が高まっている。このバランスの妙こそ「GTロマン」の魅力だろう。

作者の趣味でエンスー受けする車を出してはいるが、結局メインの売りは美少女でウハウハなどこぞの「ナンタラドライバー」とは志が違うのだよ、志が!!(ファンの人ゴメンナサイ/笑)

私がこういう言葉を使うのは、些か「柄じゃない」のであるが、非常にオシャレで素敵な物語なのだ。クルマ…それもかなりマニアックなものが登場するが、あくまでクルマは舞台装置…重要な小道具という位置付け、必要以上にでしゃばらないのだ。彼らの生活、絶対に苦労は多い。古い、しかも外車ともなれば修理に一ヶ月などざらだろうし、行く先々で故障といったトラブルに巻き込まれる。普通の感覚なら、ワザワザ高い金出してそんなクルマを維持していくなら、壊れ難い日本車に乗ってた方が楽、と考えるだろう。

そこに、我々エンスーたりえない一般人と「GTロマン」に登場する素敵なクルマライフを送る連中との大きな格差であろう。苦労が目に見えて分かってしまうが故に、一大決心と行き過ぎるほどの思い入れが無い限りそういった生活には飛び込んでいけない。でも、「GTロマン」の登場人物たちは皆、オシャレでカッコ良く見えるのだ。その、苦労は多いが楽しいクルマ生活…という部分で、キョーレツにエンスー生活への憧れを抱いてしまったんだな、学生時代の私は。

基本的にはコメディタッチのエピソードが多いが、ヒロシ君と野沢さん、英鉄と亜美の様な、思わず「いいなぁ…」と憧れてしまうような恋愛エピソード、一念発起してエンスーデビューした夫とその奥さんとか、貧乏生活でやっと憧れのビトゥルボを買った長谷君…とかく魅力的なエピソードに溢れている。特にオススメは、この記事のタイトルでもあるマスターが愛車GT-R(R32とかじゃねぇぞ/笑)で当時最新のGT-Sをぶっちぎるエピソードだろうか。この、エピソードでのマスターの

「GT-Rよ…コケにされたのか!?」

というセリフが…カッコ良いカッコ良い!!(笑)

とかく、今じゃ全巻はそう揃っている所は無いのだが、割とブックオフ等でも見つけられる本だとも思うので、探して買えとは言えないが、興味があったら立ち読みくらいして見ると良いかもしれない。ホントにクルマに対する予備知識とかは全く必要ない。フツーのオシャレ系のマンガを読むような感覚で十分楽しめるのだ。

そして読み終わった後、何となくクルマ好きになっているアナタがそこにいる筈だ。


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