屈しない男

ケイン・マクドガル
「装甲騎兵ボトムズ外伝 青の騎士ベルゼルガ物語」主人公


おびただしい量の血を流し、
百年の歳月を生贄にして、
大戦は決着のつかぬまま停戦した。
街は荒廃し、
人々の心はすさんだ。
軍からあぶれた兵士達は、
戦うことしか知らなかった。
この俺、ケイン・マクドガルも、
そんなボトムズ乗りの1人だった。

今にも「装甲騎兵ボトムズ」のテレビ本編の主人公、キリコ・キュービィを演じた郷田ほずみ氏の声が聞こえてきそうな独白から、この「青の騎士ベルゼルガ物語」は幕を開ける。この作品は、かつてタカラが発行していた「デュアルマガジン」という雑誌に連載されていた「装甲騎兵ボトムズ」のオリジナルインサイドストーリーである。ちなみに「青の騎士」という作品は連載中に掲載されていた「デュアルマガジン」そのものが休刊となり、言葉足らずなデットエンドになってしまっていたのを朝日ソノラマが単行本化するに当ってリニューアルが行われ、物語自体にも明確な結末が与えられたという逸話がある。

現在この「青の騎士」の関連商品はどれも入手が容易とは言えないが、朝日ソノラマの小説全4巻や、PSにて発売されていたゲームソフト「青の騎士ベルゼルガ物語」はブックオフ等の中古ショップやインターネット等をマメに探せば見つけることは出来る。ただしインターネットではムック本がウン万円という高値がついていたりするので興味本位では手が出せないであろう。ともあれ、「青の騎士」はボトムズワールドの異聞録として確実な存在感を示しているのは確かで、特にモデラー層に根強いファンを持つロボットアクション小説の傑作である。

物語は、主人公ケイン・マクドガルが親友シャ・バックを惨殺した謎のAT乗り「黒き炎(シャドウフレア)」に復讐すべく、シャ・バックの愛機であった青いベルゼルガを駆ってメルキアの街々を転々としながら仇敵を追う、というものであったが、次第に仇の背後にある秘密結社までをも敵に回し、自分を助けてくれた仲間や、唯一心を許したバララントの女AT乗りまで次々と不幸に巻き込む、さながらアリ地獄のような壮絶な展開を見せ、最終的にはケインがズルズルと全銀河的な陰謀に巻き込まれ、自らの存在がアストラギウス銀河に再び戦乱を巻き起こす元凶となってしまうという、例えは良くないかもしれないが原作マンガ版「ゲッターロボ」の様な豪快な物語と変化していく。

さて、この「青の騎士」の魅力はなんと言っても登場するバトリングATであろう。「青の騎士」の異名を持つケインが駆るベルゼルガBTST&Uを始め、仇敵クリス・カーツの「黒き炎」シャドウフレア 、外伝といってもやはり外せないレッドショルダー隊の生き残り、ラドルフ・ディスコーマの「死の伝令」デスメッセンジャー、更にはケインに人間らしい感情を与えたヒロイン、ロニー・シャトレの「陽気な悪魔」ファニーデビル、そして、ゼルベリオスを始めとするFXシリーズ…。更にメルキア騎士団計画の中核となるW−1や全てのATの祖となったレグジオネーターとそれに対抗すべく作られたベルゼルガSSS-XテスタロッサU等など…小説という狭い媒体のメカとは思えない程の魅力を放っており、それを見逃さず各社から様々なガレージキットが発表されている。

いや、確かに「青の騎士」の一番の魅力は、作品に登場するイカしたAT群なのであろうが、本作の魅力がそれだけか?と聞かれれば断じてそうではないと言い切ることが出来る。作中のハードなロボットアクション描写をより一層魅力的にした確固たる存在があるのだ。これこそが主人公「ケイン・マクドガル」である。

物語は作家が創り出していくものなのであるが、その物語に厚みやそこに描かれるキャラクターの熱量というものは、やはりそこで生きるキャラクターそのものしか生み出すことが出来ない。脚本自体は平凡でも、キャラクターが面白ければまだ作品として通用するが、逆にダイナミックな脚本でもそこに生きるキャラクターが魅力に乏しいものであったら作品は決して面白いものとはなり得ない。これは現実の演劇などにも言える事ではないだろうか?同じ脚本でも、演じる人間によって作品の魅力が激変するのはこういった理由があるのだろう。

つまり、与えられた筈の物語を自ら強引に引っ張っていくような豪腕が、特に物語の主軸たる主人公に求められる資質なのだ。この観点から言えば、本作のケイン・マクドガルほどの豪腕の持ち主はそうはいないと断言出来る。

彼は「リアルロボット」なんて言葉で括られている作品の主人公達にはない圧倒的な豪腕を誇る主人公だ。「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイ以降、弱気であまりヒーロー性を持ち合わせない主人公が蔓延したが、いくら高い完成度を持つ脚本や、緻密な設定があろうと主人公がそれに対抗しうる豪腕を持っていなければ物語は成り立たない。そういった作品は大抵、貧弱な主人公とは別に、豪腕を持つ影の主役といったものが存在していたり、あるいは完全に物語が破綻してしまったりしている。

所詮、物語をつむぎ出すのは主人公なのだ。設定の矛盾、構成上の無理が存在する脚本でも、それを圧倒的な腕力で切り開き、確固たる世界観を構築出来るだけの豪腕を持つ主人公がいれば、その作品は面白い作品となりえるのだ。

そんな豪腕主人公の代表格こそ、ケイン・マクドガルその人なのである。最初に述べた様に、「青の騎士」はテレビアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の外伝として制作されている。テレビ本編の主人公であるキリコ・キュービィは「異能者」と呼ばれる超人であったが、キリコは異能者であったからこそアストラギウス銀河を影で操ってきた神「ワイズマン」に選ばれたのである。神に選ばれたのはたった1人…キリコが「異能者」として設定されている限り、外伝の主人公であるケインは「異能者」であってはならないのだ。

そこで、ケインに対し「旧等劣種(ベルゼルガ)」という新たな異端としての設定が与えられる。「旧等劣種」は通常の人間を遥かに凌駕する戦闘能力と反射神経を持つとされたが、結局はこの部分、「異能者」という設定の代理的な要素が否めない。その他仇役であるクリス・カーツもワイズマンに拒絶された「融機人」なる設定が与えられた。更にはケインの持つ戦闘力に着目したメルキア軍が、彼のクローンを作ってアストラギウス銀河を支配するという野望を抱き「メルキア騎士団計画」なるものを実行し、世界は破局へと向かう…。

こういった設定の変更、そして勝手に世界を崩壊させてしまう行為は従来のファンの反感を買う。言って見れば、「富野氏が監督したニュータイプを描いたガンダムこそがガンダム」等とOVA作品を否定しているのと同じようなものか。しかし「青の騎士」という作品は、そんなつまらないコダワリだけで読むことを止めてしまうには惜しいパワーを秘めている。そのパワーの源こそが、ケイン・マクドガルという何事にも屈せず、決して壊れない豪腕主人公の存在だ。

彼は作中、本当に散々な目に遭わされる。
親すらも信用出来ないような世界で、唯一自分を友と呼んでくれた男が「黒き炎」とその部下により目の前で人間としての形が残らないような惨たらしい殺され方をする。そして復讐劇の最中、左腕を負傷し、更に血友病を誘発させる弾丸を食らう。挙句の果てに自分が「旧等劣種」と呼ばれる特別な存在だなどと聞かされ、信じていた友が実は自らの私怨を晴らす為に自分を利用していた事を知らされる。唯一信じていたものに裏切られ、孤独感に苛まれ自暴自棄になるものの、ロニーに叱咤され、自分自身を取り戻す為に再び戦うことを決意する。

そんなこんなでようやく仇である「黒き炎」を討ち、名を変えてロニーの待つボウの街へ戻ろうとするが乗っていた輸送艇が墜落し、ATを奪われてしまう。そして街に戻れば今度は戦争再開に向けての徴兵に引っ掛かり、そこで謎のAT「W−1」と出会い、またもや巨大な陰謀に巻き込まれる。ようやく再会を果たしたロニーまでもその陰謀によって失ってしまう。その陰謀が自分自身の遺伝子に起因する事を知ったケインは、その陰謀を叩き潰す為に再びATを駆る…。

そんな激闘の中、肉体的にも彼は傷つき、ボロボロになっていく。
動かなくなった自機ATを捨てようとコクピットを降り立った瞬間の出来事。自機と敵の機体に右爪先を挟まれ脱出出来なくなり、相手のATの拳で生身の身体を殴られる寸前に自分の右足首をアーママグナムで粉砕し、切り離した。そんな不自由な足では逃げ切ることなど出来ず、敵機に捕まりその右足の膝から下をATの足に挟まれ、じわじわと足の先の方から踏みつぶされてしまう。

続いては真空兵器まで使いこなす最強の敵「レグジオネーター」との初戦にて、ついに動かなくなった機体を捨てようとコクピットハッチを開いた瞬間、敵ATにコクピットの装甲を切り刻まれ、その破片が左目に深々と突き刺さった。 ここで味方が登場し、左目を失った激痛をこらえるケインをジープで拾い上げて脱出しようとするのだが、その際に、再び敵ATの真空兵器でジープのフロントウインド左端と一緒にケインの左手首もごそりと切り落とされてしまう。

 この時点で、ケインは右脚は膝から下がなく、左手首も左目も損失している。兵士としては生ける屍といってもいい状況である。ケインは、一端自分の足の肉を切り裂いて、鉄骨を削って作った杖を右足の骨にボルトで固定する。左手首には同様にフック状のカギ爪を取り付ける。

更にケインの苦闘は続く…。

 敵軍が戦闘能力の高いケインの遺伝子を利用して作った大量のクローン兵器+ATによる精神共鳴攻撃がケインの心身を痛めつける。結果、ケインは気絶するほどの痛みを被り、右の耳孔から血が流れ出すほどのダメージを受ける。これで脳細胞の一部が損傷を被り、言語機能に異常を来すようにまでなってしまう…。

ここまで精神、肉体両面においてボロボロになりながらも、ケインは決して前に進むことを止めないのである。タフネスとか、そういったレベルの問題ではない。正に「不屈」の生き様を我々に見せつけるのだ。この壮絶な彼の生き様こそが、「青の騎士」という作品そのものを引っ張り続けた原動力であり、私が彼を「最も豪腕な主人公」とする所以である。

この「青の騎士」という作品、外伝と言うにはあまりにも本来の展開、設定を逸脱してしまっていると言わざるを得ない。この「青の騎士」を「こんなのボトムズじゃない」という意見も判らなくはない。しかし、テレビシリーズ本編の主人公キリコ・キュービィもそうであったように、この「青の騎士」という作品も主人公「ケイン・マクドガル」無くしては語れない事は確かである。そして、アストラギウス銀河という同じ舞台を持ち、更に物語を終始引っ張り続ける豪腕主人公を持つという点では「青の騎士」も間違い無く「ボトムズ」だと断言出来る。

物語で終始ヒドイ目に遭いつつも、決して屈せずに戦い抜いたケインは、ラストシーンにてボロボロになりつつもようやく平穏な日々を手に入れた…。この「青の騎士」を読み終える度に、私は胸の当りに熱いものがこみ上げて来るのを感じ、また今度も同じセリフを口にしていることに気が付く。

「ご苦労様、ケイン」と…。


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