公約を覆した問題作?

装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端

1994年 全5話OVA サンライズ
声の出演:郷田ほずみ、弥永和子、銀河万丈、他

簡単解説
キリコとフィアナがコールドスリープに入って32年、蘇生業者に回収され蘇生したキリコ・キュービーは謎の女ティタニアに襲撃され、フィアナも何者かに奪われてしまう。コンプラント爆発からなんとか生還したキリコはフィアナが捕らわれている宗教結社マーティアルの本拠「アレギウム」に乗り込む。


「究極のリアルロボットアニメ」と絶賛され大ヒットを飛ばしたTVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の正統続編がこの「赫奕たる異端」である。またTVシリーズで監督、原案を務めた高橋良輔氏の本編終了時の「最終回以降の続編は作らない」という宣言を覆した問題作として、ファンの中でも賛否両論のある作品でもある。

また本作では本編の最終回第52話「流星」から32年後という長い年月が過ぎている為、主人公であるキリコやフィアナを除いて本編でのレギュラーはTVシリーズ本編で死んだと思われていた「ロッチナ」以外は登場しない。(写真だけなら「ボロー」や「ペールゼン」も登場する)そして「レッドショルダードキュメント〜野望のルーツ〜」で演出を手掛けた今西隆志氏が監督を担当し、CGなどのデジタル的な映像も盛り込んで迫力ある映像を見せてくれる。

さて本編である。本作はコールドスリープから蘇生した際のドタバタに巻き込まれ、フィアナを奪われたキリコがひたすら寡黙にフィアナ奪還を目指す姿を描いている。しかし実際に焦点が当てられているのは本作でアストラギウス銀河に追加された設定「宗教結社マーティアル」ではないだろうか?

「マーティアル」は百年戦争時代からアストラギウス銀河に広く信仰されている宗教であり、ギルガメス、バララント双方にかなりの信者を持つ。その為TV本編の最後の舞台でアストラギウスにおける文化発祥の地「クエント星」と同様マーティアルの本拠地「アレギウム」のある「惑星ジアノゴ」は両軍から不可侵宙域と定められている。このことは「マーティアル」がアストラギウス銀河全域に対し強い影響力を持つことを意味し、その法王は絶対的な権力を持っている事になる。今回の悪役(?)モンテウェルズ枢機卿はその絶対的な権力を得る為にフィアナを、そしてマーティアルで「触れ得ざるもの」と危険視されているキリコを利用するのである。

しかしモンテウェルズが利用したのはキリコとフィアナだけではない。彼自身の娘で本作のヒロイン「ティタニア」までも己の野心の生贄としたのだ。「ティタニア」は「副脳」を持つ戦闘サイボーグで、「ネクスタント」と呼ばれている。「ネクスタント」は精神的に不安定で「ジジリウム」の供給が不可欠という欠点を持つPSに変わる生体兵器として開発されたものであり、普段は自身の脳、戦闘時は副脳を使い、その戦闘力はPSに匹敵する。そしてティタニアは「事故で死んでしまった為にネクスタントとして再生された」という記憶が植え付けられているが、実際はその事故がすでに父親モンテウェルズの姦計の一端であるのだ。

宗教によって得られる権力の為には肉親の情すらも切り捨てさせてしまう…本作では同じく高橋良輔氏が関わった「蒼き流星SPTレイズナー」後半で見え隠れしていた宗教世界の根底でうごめく人々の野心というものに焦点が当てられているのだ。1990年代は、「オウム心理教」を筆頭とした新興宗教団体の危険性が問題視され始めた時代である。そういった見解からすればこの「赫奕たる異端」かなり社会性の強い作品であると言えよう。

TV本編でキリコはアストラギウス銀河を影から支配してきた「ワイズマン」という名の神を殺した。それに対して本作では神に並ぶ権力を持った者の野心を砕いた事になる。つまり、TV本編の設定にうまく順応しているのだ。たった5話という短い枠でありながら、テーマ性に溢れる作品であり、見所も盛沢山。それでいて本編の設定を大きく逸脱することなくTVシリーズからのファンへのサービスも忘れていない。もちろんAT独特のギミックを活かした戦闘シーンもスピード感溢れ大迫力である!!

特にラストシーン、キリコとフィアナの永遠の別れは非常に感慨深いものに仕上っており、TVシリーズでも語り部的な立場にあったロッチナの「フィアナ…本当の意味でお前が触れ得ざる者だったのかもしれんな…。」という台詞は本作のラストを彩ると共に、TVシリーズ本編の結末とも受け取れる非常に印象的なものと言えるであろう。

高橋良輔氏が本編終了時の「最終回以降の続編は作らない」という宣言を覆した理由が、本作にはある!!


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