異母兄弟を戦わせる因業親父

超電磁マシーン ボルテスX

1977年 全40話 東映動画 テレビ朝日系放送
声の出演:白石ゆきなが、上田みゆき、玄田哲章、小原乃梨子、曽我部和行、他

簡単解説
角のある貴族が角のない人々を支配する異星人「ボアサン星」の地球侵略を予期した科学者・剛健太郎は妻である光代らの協力を得て巨大ロボット「ボルテスV」を完成させるも、その直後謎の失踪をする。光代は息子である健一、大次郎、日吉と岡めぐみ、峰一平の5人をボルテスVのパイロットとして育成する。数年後、プリンス・ハイネル率いるボアサン星の侵略軍が地球を襲撃、5人のパイロットはボルテスVで戦いの海へ乗り出す。


この「超電磁マシーン ボルテスV」は故・長浜忠夫氏の通称「大河ロボットロマン3部作」の2番目の作品であり、マニアの中では「最高傑作」との呼び声も高い作品である。「超電磁マシーン」という名の示す通り、この「ボルテスV」は長浜監督の前作♪身長〜57m〜体重〜550t〜鋼が唸るぞ空飛ぶぞ〜でお馴染みの「超電磁ロボ コン・バトラーV」に続く作品であり、その為パイロットの5人編成や敵、味方のキャラクター配置、そして美形ライバルキャラクターの登場などかなり「コン・バトラーV」に近い設定を持っている。

但し、一般的な知名度を鑑みると「ボルテス」は「コン・バトラー」程知られた存在ではない。特に主役ロボットのボルテスVにはどうしても悪評が付きまとう。と、いうのもこのボルテスVのデザインは前作「コン・バトラーV」において、最大の特徴たる合体を玩具で再現するのに苦労した玩具メーカーが持ち込んだものをそのまま採用している為だろう。確かにスタジオぬえの宮武氏デザインで安彦氏クリンナップのコン・バトラーと比べ、ボルテスは立方体を積み上げただけのデザインであり、合体システムも完全にコン・バトラーと同じだった。そういう事もあってかボルテスVのデザインの出自自体を嫌う人もいる様だ。

そして更に言ってしまえばキャラクター面でもそう。当時、「コン・バトラーV」のヒロイン、南原ちずるは安彦良和氏のクリンナップが功を奏し、高い人気を誇っていたが、一方の「ボルテスV」の岡めぐみの方はパッとした印象が残らない。と、いうのも物語が中盤以降”親兄弟の血”がクローズアップされた為、ボルテスクルーのメンバーでも剛兄弟以外はあまりクローズアップされなかった。更に言えば、豹馬とのもどかしい恋が描かれたちずると違い、めぐみにはそういった対象がいなかった事、ついでにシャワーシーンや水着姿といったファンサービスもあまりなかったのも原因か。

しかし決して「ボルテスV」は「コン・バトラーV」の焼き直しという訳ではない。先ずは主兵装の天空剣であるが、コレは斬撃を最大の必殺技とした最初とも言える存在だ。事実「ボルテス」以降のロボットアニメには「○○剣××斬り」といったパターンが生まれており、ボルテスの天空剣はこの先駆けだったりもする。ボルテス以前のロボットの斬撃兵器はゲッタートマホーク然り、マジンガーブレード然り繋ぎ技のイメージが強かっただけに、天空剣の登場は鮮烈だったと言えるんじゃないだろうか。更に、「ボルテスV」最大の特徴ともいえるドラマ的要素は「コン・バトラーV」のそれをもっと推し進めたものである。その設定の極地が本作の敵側「ボアサン星」である。

ボアサン星では「角のある人間」が貴族階級として星を統治しており、角の無い者は角のある者に支配され、奴隷として使用されている。この設定が地球を侵略する理由に「地球人には角が無い。だから我々角のあるボアサン人が支配し、正しく導かねばならない」という倫理観を打ち出している。

ロボットアニメ上の歴史では多種多様の侵略者が現われ、地球侵略を行ったが侵略する理由を明確に打ち出した作品というのは意外と少なく、それも「地球は元々我が恐竜帝国のものだった。だからサルどもから再び地球を取り戻すのだ」というような逆恨み的な理由がほとんどであった。しかし本作のように一方的な倫理観を侵略の理由にした作品は殆ど無いと言って良いだろう。しかし現実の戦争も大抵はこういった一方的な倫理観によって開始されていることを考えると、非常に斬新でリアリテイ溢れる設定と言えるだろう。

そして地球侵略を指揮する美形ライバル、プリンス・ハイネルは前皇帝ラ・ゴールの息子であり、ボアサン星の王位継承権も持っているのである。前皇帝ラ・ゴールはボアサン貴族でありながら生まれつき角が無く、その為「角のある貴族が角の無い民を支配するのは間違っている」と考えていた。しかしそれが現皇帝ザンバジルに反発を抱かせ、角の無いことを暴露され奴隷の地位に落とされてしまうのだ。そういった父へのコンプレックスからか、ハイネルは徹底して潔癖で誇り高い貴族として描かれている。しかしザンジバルはそんなボアサン貴族の誇りに忠実なハイネルを父と同じく姦計によって亡き者としようとしているのだ。

更にクライマックスでは宿敵(ハイネルにとって)であるボルテスVのクルー剛3兄弟は影の協力者によって地球へ逃亡した父ラ・ゴールの息子達、つまりは自分の異母兄弟だと発覚するのである。この設定は剛兄弟側からも「亡き母が語らなかった父親『剛健太郎』の正体を謎解き的な演出で徐々に明かにされていくという付箋が張られている。これは前作コン・バトラーVの「大将軍ガルーダの悲劇」で描いた悲劇を更に一歩押し進めたものであり、本作が「大河ドラマ的」と評される所以である。

設定だけ見れば昼のメロドラマ的でありふれているかも知れない。しかしそういったドラマ的要素をアニメ、それもロボットアニメに取り込み、成功させた長浜監督の手腕はやはりただものではない。ちなみに長浜監督作品の「美形ライバル」へのこだわりは「巨人の星」の「花形満」から続くものであり、本作のプリンス・ハイネルは初めて「ライバルキャラクター」としてアニメ誌の表紙を飾っている。

ちなみに、この「ボルテスV」は1978年にはフィリピンにて大ヒットを飛ばし、最高視聴率58%を記録している。しかし日本での「ウルトラマン」「8時だよ全員集合」を非難するのと同じ様な理由からPTAから抗議を受け、1979年に時のマルコス大統領が「ボルテスV」が放送禁止を宣言した事でも有名だ。抗議の理由は他にも「ボルテスの持つ剣が旧日本軍の象徴に見える」といった反日感情から来るものもあった様だ。

しかし、フィリピンのアキノ革命でマルコスの独裁政権が倒れた後、「ボルテスV」の放映は再開される。ココでよく「『ボルテスV』を放映する為に革命は起き、マルコス政権は倒された」とする意見もあるが、放映再開後は然程大きなブームにならなかった事を考えるとコレは言い過ぎであろう。ただ、フィリピンでの「ボルテス」人気は根強く、1999年の再放送でも最高視聴率は40%に達し、主題歌を歌っていた堀江美都子氏はライブの際に国賓級の扱いを受けたらしい。また、フィリピンのビジネスマンの中には日本人とのビジネスの際に共通の話題として「ボルテスV」の話題を出す、なんて事も少なくないそうだ。ちなみにこのフィリピンでの「ボルテスV」についてはNHKが特集番組を放映した事もある。今でこそ「スパロボ」のおかげで知名度が高くなった「ボルテスV」だが、日本での評価を考えると海外でこういうムーブメントを生んでいた事にかなり驚かされる。

余談ではあるが、この剛健太郎ことラ・ゴール、よくよく考えれば逃亡した先で子供を3人も作ってしまっている訳で、更にいえば先妻との子・ハイネルにとっては彼の存在がある意味コンプレックスともなっている。事の発端に自分もかんでいるクセに、正論は吐くものの中々前面には出てこず、自らの血が繋がっている異母兄弟を戦わせる、というトンデモナイ因業親父である。この辺のツッコミは当時のファンからもあったらしいが、アニメ本編ではそれに対するツッコミは一切行われておらず、むしろ剛兄弟に至っては「尊敬するべき父」と畏敬の念まで持っている。この辺は意外…というより少々変だ。もう少し遷次郎と宙のような描写があっても良かった気がするし、現在のドラマなら正反対の描き方をされるのだろうなぁ…と、思ってしまう。他にも日本のロボットアニメでは「グレンダイザー」が「ゴルドラック」という名でフランスで大ヒットした事が有名だろうか。

まぁ、ともあれ前作の「コン・バトラーV」や後の「機動戦士ガンダム」の間で然程目立つ存在ではない「ボルテス」Vではあるが、間違いなく濃く、そして熱いドラマが展開された稀有な存在である事は間違いない。


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