世界一説教臭いロボットアニメ

機動警察パトレイバー劇場版3部作
機動警察パトレイバー1


1989年 ヘッドギア原作 劇場公開作品
声の出演:富永みーな、古川登志夫、池水通洋、大林隆之介、榊原良子、他

簡単解説
1999年夏、自衛隊の試作レイバーが突如暴走。自衛隊は虎の子の空挺レイバー部隊を投入して騒ぎの沈静を図ったが、この事件はほんの幕開けに過ぎなかった。何物かに仕掛けられたコンピューターウイルスによって次々と暴走するレイバー。警視庁特車2課第2小隊の面々は、姿無き犯人を追ってメガロポリスを駆け抜ける。

機動警察パトレイバー2

1993年 ヘッドギア原作 劇場公開作品
声の出演:大林隆之介、榊原良子、根津甚八、竹中直人、富永みーな、他

簡単解説
2002年冬、横浜ベイブリッジに謎のミサイル投下…。マスコミ報道はそれが自衛隊機の仕業と告げるが該当する機体は存在しなかった。これを機に続発する不穏な事件は警察と自衛隊の対立を招き、事態を重く見た政府は遂に実戦部隊を治安出動させる。東京に「戦争」を再現した恐るべきテロリストを追って、第2小隊最後の出撃が始まる!!

WXU 機動警察パトレイバー3

2002年 ヘッドギア原作 劇場公開作品
声の出演:綿引勝彦、平田広明、田中敦子、富永みーな、古川登志夫、他

簡単解説
レイバーを狙う謎の襲撃事件を追う城南署の刑事・久住と秦はその捜査に難航していた。一方で秦は大学講師の冴子と出会い、彼女に惹かれていく。捜査を続ける久住と秦は湾岸の備蓄基地にて次々と人を食い殺す怪物と遭遇…この怪物こそこの事件の犯人なのか。
怪物の残した肉片が告げた真実は、秦の知らない冴子の闇を浮かび上がらせる…。


いきなり余談になってしまって自分でも困ってしまうのだが、皆さんは好きなマンガがアニメ化した時、自分がマンガを読んで勝手に想像していたキャラクターの声と、実際アニメ化した時のキャラクターの声があまりにも違う為にショックを受けた事は無いだろうか?
もっとも、こういった違和感と言うモノはアニメを見続けるうちに徐々に慣れて来たり、逆にアニメ版の声がイメージしていた声と取って代わる事も多いのだが、この辺りのギャップというものはマンガとアニメ両方を酒肴する人には付き物の悩みなのかも知れない。

しかし、慣れたりする前にコチラからその違和感に堪えられなくなってしまうケースも多々ある訳なので困ったものだったりする。かくいう私も「ベルセルク」がアニメ化した際はキャスカの声に対してキョーレツな違和感を感じて見るのをやめた経験があるので、強い思い入れのあるマンガがアニメ化してもそのアニメまで見るとは限らない。むしろ敢えて見ないようにする番組もあるぐらいだ。

さて、それが今回の「劇場版パトレイバー」にどんな関係があるのか?というと、やはり私のイメージと実際の声のギャップである。この「パトレイバー」という作品自体はメディアミックス展開をした事もあってマンガとアニメはほぼ同じ時期に作られているし、そもそもメディアミックスなのだから展開的なことで他のメディアとのギャップを感じる事は少ない。しかし、私はこのアニメ版「パトレイバー」には少々ギャップを感じた。

ココ「大惨事」の「マンガ版パトレイバー」を見てもらえば分かると思うが私はメディアミックスとして展開していた時期にこの作品に興味を持たず、今更ながら初めて手に取ったのがマンガ版であった。そういった意味では初めてこの作品に触れたと言ってもいいだろう。
そんな私だからか、この劇場版作品を見た時に声のギャップは強く感じてしまった。特に主人公(とは言えない程影が薄いのだが)の野明や香貫花には強い違和感を感じてしまった。別にコレは富永みーなさんや井上遥さんが悪いのではなく、ただ私のイメージと現実のギャップが大きかっただけだ。私としてはこの2人はもっとハスキーな声質の人の方が良かったのでは?と思うのだが…。例えば香貫花に川村さんを当てるとか…。

さて本題に入ろう。以前この「大惨事」で

ロボットアニメとして見せるならロボットを動かしてくれないと面白くない

等と書いたと思うが、この「劇場版パトレイバー」は3作ともイングラムを始めとするレイバー達の活躍する度合が極めて低い。一番多い1作目では2回、他の2作はたった1回しかアクションシーンが封入されていない。1作目のラスト、暴走した零号機がマニピュレーターの伸縮機構を用いた地獄突きで太田機を始めとするレイバーを次々と屠る様は非常に迫力があって良いし、2作目のクライマックス、地下トンネル内での遠隔操作の無人軍用レイバーと特車2課の決戦も見応えがあった。しかしロボットアニメという捉え方でこの3作品を捉えるとどうも面白味に欠ける印象があるのだ。

もっともそんなものはこの作品をロボットアニメではなく「ただのアニメ」として見れば良いだけの事であるし、基本的に趣味の問題でもあるのでこの点に対してコレ以上追及しても無意味であろう。だから以下からはそういった要素をある程度排除して考察する事にする。

さてこの「劇場版パトレイバー」であるが、1と2を押井守氏、3作目を高山文彦氏が監督を務めているが、作品のスタンスはかなり似通っている。細かい違いを挙げれば、押井版の2作品の方が写実的な見せ方をしており、かつ説教臭いという点であろうか。
逆に高山氏のWXVは刑事ドラマ、悲恋ドラマ、バイオホラーという3つの要素を一つの作品に封入している為いささか説明不足に陥っている印象が強く、かつどれに対しても完全に描ききれたとは言い難い印象を受ける。早い話がたった2時間弱の作品に多くを詰め込み過ぎているのだ。

一応WXVの基本は秦と冴子の悲恋であるのだろうが、やはり印象的なのは冴子の母親としての異常性である。この「廃棄物13号」というネタはマンガ版にも登場するのだが、マンガ版とは違いこの怪物には冴子の娘のガン細胞が使われているという設定がある。この部分が冴子の闇…つまりは母親としての異常性となるのだ。彼女は異形の怪物を自分の娘と混同しており、この部分が富野氏辺りの描く「母性」とは違う「母性」を視聴者に見せつける。

ただ、その母性が強ければ強いほど冴子と秦の悲恋というドラマに歪みが生じる。例えば劇中のワンシーン、秦が冴子が他の男と小さな女の子と一緒に映っている写真を見て、「この人は?」と尋ねると冴子はこう答える。

「娘よ。」

秦が自分に好意を持っていると冴子はこの時点で知っている。それなのに彼女は秦が気になっているのが写真で自分の隣に映っている男だとは思えないのだ。だから彼女はこう答えたのだろう。
しかし彼女を母親として強く描けば描くほど、秦との恋に割りきれない部分が出て来る。思えば、これはドチラかに絞って描くべきだったのではないだろうか?なまじ両方とも上手い部分が出ているだけに余計惜しい気がする。

他の作品ならどうなるか分からないが、「パトレイバー」という作品にこの2つのドラマを組み込もうとしたのは無理があったんじゃないだろうか?だからこそ「怪獣映画」と言う割に廃棄物13号のインパクトは薄く描かれ、刑事ドラマという要素も久住がナントカ繋いでいるだけ…肝心の悲恋ドラマとしてもどっちつかずな印象を受けるんじゃないだろうか。そういった意味では決して面白くない訳ではないのだが、物足りない印象を受けてしまう作品と言えるだろう。

次に1と2であるが、コチラは完全に主役を特車2課から離したWXVとは異なり、特車2課の後藤隊長を主人公としてピックアップした作品である。一般に、ギャグ作品でもない限りどんな作品にも作り手の分身として動くキャラクターが存在するものなのだが、この2作品における押井氏の分身が後藤隊長だったのだろう。
良く作中でも後藤が自称しているように、一見体制に取り込まれた中でドラマが展開している様に見える特車2課も、実は「正義の味方」として位置している。1作目での「箱舟」を沈める超法規的活躍や、自分達を利用しようとする荒川を逆に利用して見せる様などかなり「正義の味方」的である。

しかし、そのドラマ内容には時代を先読みした警告という側面を持たせている。
1作目ではコンピューター管理社会に対する警告、そして2作目では戦争というものが常に身近に存在している事を自覚出来ない日本人に対する警告である。奇しくもこの劇場版に前後して「湾岸戦争」が勃発…そこで報道される米軍のピンポイント爆撃の映像を見て、

「ゲームみたいでカッコ良い」

等と言ってしまう日本人…そんな現状への警告、いや、そんな日本人に対する絶望といってもいいのかも知れない。思えば、2に限っては押井氏の分身は後藤ではなく荒川だったのではないだろうか?

この2、柘植というテロリストの主犯格と、彼と昔関係があった特車2課第1小隊隊長・南雲という構図があったものの、画面に映っているのは戦争…そして現状に対して独白のように語る荒川とそれを聞く後藤ばかりだった。そしてそこで荒川が静かに語る言葉が作品自体のテーマとも密接に絡み合って展開する。つまり、2は押井氏が感じる現在の日本に対する絶望を語り、それでも日本人は前に進むしかないという事を特車2課…後藤を通じて訴えたかったものなのではないだろうか?
この作品、なんとも説教臭いロボットアニメである。

さて、最後に総論をしておこう。
1に関して言えば、この劇場版3作品の中では比較的アクションシーンに恵まれており、メインは後藤であるのだが特車2課の面々もちゃんと活躍しているのでマンガ版との違和感は少なかった。また、余談になるがマンガ版でバドが特車2課に逃げ込む場面からいきなり今まで別段目立っていなかったシバ・シゲオが一線に登場する。コレも恐らくテレビとのタイアップ的な要素があったのだろう。このシバというキャラクターに関しては声優の千葉繁氏の個性が良い形で働いた結果なのだろう。そういえばシバはこの作品でも遊馬の補佐的な立場として活躍しているし。
2はおおむね上で述べたような意見だ。ただ、ラストの地下トンネル以外は上でも述べた荒川と後藤の語りがず〜っと続くだけなので、メカアクションが見たい人は悪い事は言わない、,眠たいだけになってしまうので他の作品にした方が良い。
WXVに関しても上で述べた通り。如何せん2時間枠に封入するには多過ぎる上にバラバラな要素を持ち込み過ぎな印象。もっとテーマを絞れば傑作と呼ぶべき存在と成り得たかもしれないが…。

でも、基本的にこの「劇場版パトレイバー」にメカアクションだけを求めない方が良いだろう。


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