ロボットマンガというよりSFなんだけど…。

マーズ

文庫版で全3巻(秋田文庫) 横山光輝 作

簡単解説
海底火山の噴火による隆起島・秋の島新島で、1人の少年を発見、救助される。彼の名はマーズ。そしてその正体はかつて地球を訪れた異星人が争いを好む地球人を危険視して仕掛けておいた地球破壊兵器のキーであった。だが地殻変動が原因で予定よりも早く目覚めてしまったマーズは地球人抹殺を拒否し、たった1人で戦いを始める。


今でこそ一つの文化として成立し、世代を超えて愛されているマンガであるが、その草創期を支えた手塚治虫先生、石ノ森章太郎先生と並んで評されるのが横山光輝先生である。氏は「伊賀の影丸」「鉄人28号」といった数多くの傑作を世に送り出しており、そのジャンルもSFから歴史までと非常に多岐に渡っている。我々の世代には思い出深い「マンガ・日本の歴史」といったどの学校の図書館にも置かれているようなものまで手掛けている事を考えれば、数多くのマンガ家の中でもかなり横山氏の絵は馴染み深いと言えるのではないだろうか。

そんな横山氏は後年「三国志」を始めとする歴史ものに比重を置いた活動をしているのだが、「鉄人28号」を始めとするSFテイストを盛り込んだ作品も数多く手掛けていたのは周知の事実である。そして本作「マーズ」は横山氏が歴史ものに比重を置く直前に描かれたマンガであり、そういった意味では氏のSFマンガの集大成といえるのかも知れない。

さて、この「マーズ」であるが、実はこの作品の知名度はさほど高いという訳でも無さそうである。一部のアニメファンからは「六神合体ゴッドマーズ」の原作として知られているが、その「ゴッドマーズ」は原作を完全に無視した設定にて物語が展開するので、コチラの原作「マーズ」を知っている人にとっては「ゴッドマーズ」は忌むべきものとして嫌われており、逆にテレビ版「ゴッドマーズ」のファンにとってこの原作「マーズ」は衝撃的過ぎて受け入れ難い存在となっている…ナンギやのう…。

ココ「大惨事」の「ゴッドマーズ」の項を読んでくれた人には重複になってしまうのだが一応この「マーズ」の概要を説明しておこう。

この「マーズ」は太古の昔、残忍で好戦的な地球人が間違った方向へ進歩してしまった場合、その存在を母星である地球ごと破壊してしまう為に「6神体」と水爆数千発分の破壊力を持つ爆弾を仕掛けていったという前提で繰り広げられる。その水爆数千発分の爆弾はガイアーというロボットに内蔵されており、その起爆の権限を持つのが主人公のマーズであり、6神体はそのお目付け役といった所だろうか。

海底火山の噴火の影響か、予定より100年早く目覚めてしまったマーズは本来の役割を忘れてしまっていた。そこに六神体を司る異星人の1人が近付き、彼の本来の役割を知らせる。しかし肝心のマーズは異星人の一方的な言い分に反発し、逆に地球人を守ろうと6神体に戦いを挑むのだ。

そのマーズと共に戦うのがロボットのガイアーであり、6神体を遥かに上回る圧倒的な能力を持つのだが、世の中そうは上手く行かない。ガイアーはもちろん自らが破壊された場合、そして起爆権を持つマーズの死によっても爆発してしまうのだが、敵として襲いかかって来る6神体全てを破壊しても爆発してしまうのだ。そんな八方塞の中、単身マーズは戦いを挑み、傷ついていく…。
そして苦難の末6神体を全て行動不能にした彼が最後に見たものは、身勝手な地球人の醜い所業…彼は絶望し、自らの意志でガイアーの爆弾を爆発させる…。

完全にネタバレになっているが、この衝撃的な結末は今現在のマンガと比べて見ても決して遜色無いものであるのでぜひ書店等で見かけたら手にとって確認して欲しい。

近年では「SF=小難しい理屈」的な印象がある。そしてそれを支えるファン達にも、「これはSFじゃない」というような分別をしてしまうのでかつての勢いはすっかりしぼんでしまい、ロボットアニメと同様すっかり下火といっても良いだろう。私は「ロボットさえ出てくれば満足なんだろ?」等とイヤミを言われるロボットアニメファンなので、「SFの何たるか」なんてものは分からない。ただ、この「マーズ」のスゴさというのは理解できるような気がする。

この「マーズ」、特に複雑な設定など無いし、冒頭を除けば基本的にマーズ対6神体という単純な構図で物語は展開する。ただ管理者的に危険分子たる地球人をこの世から抹殺しようと動く6神体側に対し、マーズもただひたすら行動するだけ…彼に感情が芽生えた事が既にイレギュラーであり、そのイレギュラーによる計画のずれを修正する為に6神体は動き、それに対しマーズは冷静に対処しようとする。

そう、このマンガで感情を持っているのは地球人だけなのだ。感情があるからこそ最後の最後で自分達を守って来た筈のマーズにまで怒りの矛先を向ける。その地球人達の行動に怒りを覚える読者も多いのではないだろうか?
しかしそれでもマーズには感情は無いのだ。彼が6神体に抵抗し、地球人を守ろうとしたのは「自分が見た限り、地球人がそんなに悪いとは判断しかねる」という理由…つまり、100年早く目覚めてしまったイレギュラーなマーズもまた、太古に地球を訪れた異星人の計画に沿った行動をしているに過ぎないのだ。

ガイアーや6神体を地球に残した異星人を「神」とするならば、地球人達が迎えた結末というのは正に「天罰」である。因果応報、自分達の行動のツケが回って来たという形になる。なぜなら、地球人が自らの好戦的な性質に気が付いて、何らかの対処をしていれば6神体を司る男達も我々に絶望してはいなかった筈なのだ。6神体側は地球人をずっと監視していたようだ。つまり、彼等の絶望は勝手な「理屈」などではなく、目覚めたばかりのマーズとは異なり嫌と言うほど地球人の醜い部分を見て来た上での「理由」なのだ。

そしてこの6神体こそが、作者である横山氏の投影なのではないだろうか?だったらマーズとは何か?と言われれば、今だ地球人を見捨てないでいてくれる「地球」そのものなのではないだろうか?マーズとガイアーを一体と考えれば、言葉の意味からしても「ガイアー=地球」という構図は成立する。つまり、マーズと6神体との戦いとは、日々我々がしでかしている環境破壊や戦争といった「社会情勢」そのものなのではないだろうか?

マンガなら、最後に絶望して爆弾を起爆したマーズ側に感情移入して「地球人はなんてバカなんだ」なんて言葉を言える。しかし、実際にガイアーが爆発したら…そんなノンキな事は言っていられない。ナゼなら、ガイアーと共に我々も吹っ飛ばされるのだから…。


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