シリーズ初!!悪が勝つ

逆転!イッパツマン

1982年 タツノコプロ制作 全58話 フジテレビ系放送
声の出演:富田敬、原えりこ、小原乃梨子、八奈見乗児、たてかべ和也、他

簡単解説
「タイムボカンシリーズ」第6作。
世界でナンバー1のシェアを誇る「タイムリース社」は「トッキューザウルス」を開発し、時間を超えたサービスを始める。タイムリース社のライバル会社である「シャレコーベリース社」のコン・コルドー会長はタイムリース社の信用を落とし、自らが業界トップになる為、例の3人組にトッキューザウルスの妨害の指令を出す。3悪の妨害ので絶対絶命のラン、ハル坊、2ー3の前に、1人の男が現われる。
「待ちに待ってた出番が来たぜ!!ここはおまかせ、逆転イッパツマン!!」


今の20台半ば位の人で、恐らくアニメなんかに全然興味がない人でもタツノコプロの「タイムボカンシリーズ」の名前を一度も耳にしたことがない人はあまりいないのではないだろうか?シリーズ最初の作品である「タイムボカン」を皮切りに、

「ヤッターマン」
「ゼンダマン」
「タイムパトロール隊オタスケマン」
「ヤットデタマン」
「逆転!イッパツマン」
「イタダキマン」

と8年間に渡って放映され、その間に何度も高視聴率をマークしている国民的ギャグアニメである。テレビシリーズでの展開が終了した後も、「タイムボカン王道復古」といった展開を見せ、最近でも「怪盗きらめきマン」なる新作をテレビにて放映したのは記憶に新しい。しかし、局の意向に左右され過ぎた上に、スポンサーも逃げ腰だった為イマイチ盛りあがりに欠け、単発で終わってしまったが…。
ちなみに、このシリーズの影の主役である3悪は「ファイナルファンタジー」等でビジュアルコンセプトデザイナー(良く分からん肩書きだが)として参加し、Yまではキャラクターデザインも担当した天野嘉孝氏が手掛けている。この3悪は、天野氏が当時タツノコプロの社長であった吉田竜夫氏に「完成するまで出社するな」と言われ、3週間カンヅメになって書き上げた力作であり、それを見た吉田氏に「天野ちゃんには負けたよ」と言わしめたエピソードはあまりにも有名である。

「タイムボカンシリーズ」はシリーズを通して、例えば「ブタもおだてりゃ木に登る」といった繰り返しギャグと、ボヤッキー(「イッパツマン」ではコスイネン)の「全国の女子高生の皆さ〜ん!!」といったメタフィクション的な演出をウリとしていた。つまり、「ヤッターマン」の挿入歌「ドロンボーのシラーケッ」で歌われる様に、♪マンネリなんかも何のその〜と、マンネリ感を「お約束」として演出(ギャグ)に取り入れていた。

しかし、シリーズ6作目、7年目に突入した本作「イッパツマン」は、そういったお約束の要素だけではあまりにも力不足ということに気が付いた。時代は1982年、「機動戦士ガンダム」が呼び水となったいわゆる「リアルロボットブーム」全盛期の頃である。前作「ヤットデタマン」ではこのブームに乗ろうと「大巨神」なるロボットを登場させたが、その姿は古来のスーパーロボット然としたものである為そういった層の獲得には至らなかった。そこで本作「イッパツマン」は、古き良き「お約束」を踏まえつつ、新たな展開(と、いうかネタ)をファンに提供しようとしたシリーズでも屈指の意欲作なのである。

この「イッパツマン」は「タイムボカンシリーズ」として括られてはいるものの、その作り方にはかなり「ガッチャマン」のようなタツノコヒーローの匂いが反映されている。新造人間キャシャーンのような額の三日月型の飾りと、破裏拳ポリマーのようなマントと、ビジュアル的な演出もそうではあるが、一番タツノコヒーローから取り入れた演出はやはりその謎解き的なエッセンスと、そのシリアスな展開なのではないだろうか?

本作のヒーロー「イッパツマン」は、劇中でランちゃんとハル坊が議論をしていたように、我々にも正体が明かされない。ストーリーやオープニング映像を見ていると「豪さん=イッパツマン」という構図が思い浮かぶのだが、実はその予想が間違っていることが物語中盤に発覚する。
そして、前半から少しずつ見せて、物語を通しての謎となっていく「タイムリース社の正体」等が少しずつ解明されていく演出はこれまでのシリーズにはなかった新機軸であり、「エヴァンゲリオン」の「NERV」や「人類補完計画」よりも遥かに興味をそそられてしまうものがある。他にもシャレコーベリース社のコン・コルドー会長と孫娘ミンミンの正体、同社のエリート社員隠玉四郎(かくれたましろう)の存在、物語中盤から登場となる星ハルカの正体、正に謎が謎を呼ぶミステリアスな展開を見せるのである。

それでいて、シリーズの伝統たる繰り返しギャグはキチンと押さえ、それが楽しみでイッパツマンを見ているファンを決して蔑ろにしたりはしない。シリーズ展開をするアニメには必ず付きまとう「マンネリ」という言葉であるが、「水戸黄門」が毎週同じパターンを展開しているのに飽きられない様に、そのマンネリに安らぎを覚えるファンもいるのである。シリーズのマンネリを防ぐ為に新機軸を打ち出しては、先の作品に強引なアトヅケ設定をしたり、「マンネリじゃない」事を主張してかつての作品からスタッフを殆ど入れ替えて元々のファンを置いてけぼりにする作品とは明かに違う。捻じ曲げや革新によってマンネリを消すのではなく、「進化」によってマンネリをも取り入れているのである。この物語展開が他の作品にはない独特の魅力を打ち出しているのだ。
タイムボカンシリーズのファンには、この「イッパツマン」をシリーズ最高傑作と呼ぶ人も多い。このドラマチックな展開は、ぜひ見て体験して欲しい所だ。

そんな本作のギャグの部分を司る新機軸として見られるのが、いわゆるサラリーマンギャグである。本作の善玉、豪さんやランちゃんはサラリーマンである。なんと、ハル坊までサラリーマンなのだ。更に3悪もムンムン支社長、コスイネン部長(今回は妻帯者で単身赴任中)、キョカンチン課長と、みんなサラリーマンである。この設定を最大限に生かしたからこそ生きるサラリーマンギャグはこの作品最大の特徴と言ってもいいだろう。

特に3悪側の描写は凄い。3悪が務めているのはシャレコーベリースの落ちこぼれ支社「オストアンデル北部支社」であり、その幹部である3悪の面々は自腹でメカ制作をしている。もっとも、会社の経費を使い込んでいるせいでメカ制作代を出してもらえないだけなのだが…。
その為、3人の貧乏描写は凄いものがある。特にメカ制作を担当するコスイネンは、メカ制作費を捻出する為に会社に内緒で「立ち食いソバ屋」や「家庭教師」のバイトをしている。(もっともそれはウソで、ホントは老後の蓄えの為なのだが)更に日曜日ともなれば課長と2人で牛丼弁当やカップラーメンを下着姿で食べる描写がある。このサラリーマンの哀愁ったらない。これまでの3悪には「愛すべきドジな連中」という印象しかなかったが、今回の「クリーン悪トリオ」は「愛すべきドジで可哀想な連中」というイメージがある。イッパツマンにはやっつけられて、コン・コルドー会長にはおしおき(このおしおきも「1週間の16時間無賃残業」といったサラリーマンナイズされたものである)をされ、事あるごとに隠玉四郎にイヤミを言われる…そんなツラーイ生活、誰だって逃げ出したくなってしまう。

会長におしおきを受けた後、3人は行きつけの屋台「うえだ屋」で酒を飲み、「人間辞めたいなぁ〜」とグチをこぼす…しかし、最後の最後は「でも、やっぱり人間がいいなぁ〜」と思い直すのである。この辺り、エンディングテーマの「シビビーンラプソディ」がそうであった様に、この「逆転!イッパツマン」は子供向けのアニメの手法を取りつつも、実は世のサラリーマンお父さん達への熱いエールだったのではないだろうか。「人間やってりゃそのうち良い事あるさ」と毎回がんばっているクリーン悪トリオには、何処となく大人の哀愁を感じてしまう。
かくいう私も、うえだ屋で酔いつぶれて寝てしまった3人に、

「寝ている時ぐらい、良い夢見なさいよ。」

と毛布をかける主人を見た時、密かに目頭が熱くなってしまった。(苦笑)

蛇足ではあるが、本作第30話では遂に3悪が善玉に勝つという新機軸を見せてくれる。もっとも彼等がイッパツマンを倒したわけではなく、隠玉四郎のダイヤモンド弾丸による狙撃によりイッパツマンは破れ、それを3悪が自分達が倒したものと勘違いしているだけなのだが…。この回は物語でも物語の大きな分岐点となっているので、「イッパツマン」を見る際は注目して見て欲しい所だ。


戻る