戦死者がいなくて思わずホッ

蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH

2010年 蒼穹のファフナー制作委員会制作 劇場公開作品
声の出演:石井真、喜安浩平、木村良平、松本まりか、白石稔、他

簡単解説
2148年の蒼穹作戦より2年、竜宮島の面々はようやく取り戻した平和を満喫し生活していた。そんなある日、一隻の艦が竜宮島に漂着する。その艦の中には、先の作戦にて一騎に「必ず島に戻る」と約束して消滅した皆城総士からのメッセージと共に、一人の少年が眠っていた。


さて、今回は「HEAVEN AND EARTH」である。ココ「大惨事」のテレビ版「ファフナー」のコラムを読んでもらえば分かると思うが、私は諸処の事情により本放送時に何人かのゲストの方から面白い、と聞いてはいたものの、ついぞ手を出さなかった作品で、ここにきて急に注目し、ファンとなったのは実はこの「HEAVEN AND EARTH」公開直前企画として、東京MXで連日二話ずつ一挙再放送していたのをたまたま出張先で見ていて…というのがキッカケだったりする。この再放送では主人公である一騎役の石井氏が劇場版のCMで毎日視聴者に向けてコメントしていたのも、テレビ版と同様主題歌を担当したangelaの独特のねちっこい歌と共に、妙に印象に残ったものだ。

さて、この「HEAVEN AND EARTH」であるが、作品内での時間経過は2年なのだが、年末スペシャルの「RIGHT OF LEFT」はテレビシリーズの前日談なので除外して、テレビ本編から劇場版公開までの間隔はリアルタイム…視聴者サイドからすれば約6年間の隔たりがある。某ガンダムのライバルキャラは高らかに「我々は三年待ったのだ」と叫んでいたが、視聴者は作品の中で生きるキャラクターの三倍待たされている…という事になる。確かに「ファフナー」という作品自体、然程ビッグネームという様な作品ではないし、あまりにも今更…な劇場版による続編、というのに些か疑問符がつく気持ちも分からなくはない。パチンコ屋から得た金で制作した、なんて事も実しやかに言われているが、そんな事は続編を…総士との再会を待ち続けたファンに言わせれば無粋というモノなのだろう。

ただ残念ながら、私の場合は先に述べたように劇場版公開の直前企画で本編の「ファフナー」に触れ、映画館という環境が嫌いな為に劇場にこそ足を運ぶ事は無かったものの、映像ソフト発売後すぐ視聴したので本編からのファン程焦れる思いは幸いなのか不幸なのか、体感してはいない。この辺の、遅れてやってきた続編に関する是非という奴は、焦れに焦れ、待ち続けた人の意見を尊重すべきだろう。そして本作の「続編としての是非」に関しては、ぴあ初日満足度ランキングで小規模公開作品ながら2位となった事が、その完成度を裏付けていると言えるだろう。

本題に入ろう。
「HEAVEN AND EARTH」という作品には2本の軸がある。1本は本作の「続編」という部分であろう。続編というモノの常として、ファンが望む形かどうかはともかくとして、ファンに対し「彼等のその後」を提示しなくてはならない。本作の場合、コレは非常に分かり易い形で出ている。

先ず冒頭で、先の戦いで生き残った面々のその後…視聴者には想像する事しか出来ない2年間が、溝口の喫茶店(元々は甲洋の両親のやっていた店)でバイトする一騎が総士の幻影を見ている様や、そのバイト先で共に働く真矢、保や咲良に対しての剣司の言動、"羽佐間"カノンになったカノン、といった日常の生活を描く事で容易に想像出来る様誘導されている。続く灯篭流しのシーンでは、テレビ本編で散って行った者達の名が書かれた灯篭が流される、という演出がある。この中にはちゃんと「RIGHT OF LEFT」にて一騎達以上の悲愴な戦いをした将陵僚の名前がある事にグッと来た人は少なくないだろう。こういった細かい続編としての気配りは、やっぱりファンとしては嬉しい部分であろう。

そして冒頭のみならず、テレビ本編の続編として納得出来る演出という奴がそこかしこに描かれているのが良い。例えば、剣司と咲良の関係。親友の衛、そして母ちゃんを自分が弱かったせいで失った、と思っている剣司は、その罪滅ぼしという意識があるのか、息子と妻を失って呑んだくれ生活になってしまった保と、先の戦いで同化現象で倒れ、密かに想いを寄せていた咲良の介護を積極的にしている。そんな彼は人一倍仲間を失う事の辛さを知っており、だからこそ自分が舐められるのを承知で後輩との模擬戦で自信をつけさせる為にやられ役を買って出る。同化現象によりマークザインに搭乗できない一騎に代わり、仲間をまとめ上げるリーダーとして成長を遂げている。

そんな剣司の思いを一番知っている咲良は、そんな彼の重荷を少しでも減らす為に、再びファフナーに乗る事を決意する。後輩との模擬戦後に剣司と交した会話で、

「あぁ、咲良いい女になったなぁ…」

としみじみ感じたのは私だけでは無い筈だ。この「HEAVEN AND EARTH」であるが、女子キャラクター勢の中では元々人気キャラであった事もあるが、容姿がグッと大人びたものになった事で一番注目を浴びていたのはカノンだと思うのだが、個人的には咲良に注目して欲しい所だ。一方、一応正規ヒロインである筈の真矢の方はと言うと、一騎と「楽園」でバイトしているものの進展はまったくない様で、絡みも一騎とのそれより後輩で彼女に想いを寄せているとおぼしき西尾弟の方とのものばかりになっている。一方、一騎の方も幻影ではあるが、総士に背後から首筋に手を絡め耳元で囁く、なんて腐女子大喜びな演出があったりして、ますます「ヒロインは総士」という構図が決定的になってしまっている。私は別にBLとかを非難する気はないのだが、いくら仲の良い関係とは言え、ああいう絡み方は男同士では酔っぱらってるかそのケがあるかでもなけりゃ、そうはないと思うのだ。そんな訳で、概ね私には高評価と言える本作において、このシーンだけは大嫌いなだったりする。もっとそれっぽさを感じないやり方、あったと思うのだが…。

トドメに忘れてはいけないのが甲洋の復活であろう。マークニヒトにコアを移殖され廃棄されたマークフィアーのコアとなって、竜宮島のピンチに颯爽と登場!!というのにも痺れたが、そんな甲洋を仲間がちゃんと甲洋と認識して扱うのがまた…ここでグッと来た、ないしポロッと来た人は多いんじゃないだろうか。ただ、野暮なのは承知でツッコむが、いくら最重要目的はそのフェストゥムのコアとはいえ、貴重かつ強力とされていたノートゥングモデルを、そのままコアだけ引っこ抜いたら海洋投棄…って、フツーするだろうか?機体の調査、解析の為に研究施設に送るか、さもなくば鹵獲機として戦力とする…という方が現実的な気がする。甲洋はマークフィアーのコアとなるのではなく、仲間が自分をそう認識してくれる様にマークフィアーを模した形のフェストゥムとなる…という方がらしい気がするのだが…。

まぁともあれ、テレビ本編を見て一騎と共に待ち続けたファンにとっては、ほぼ納得出来る、安心して楽しめる内容になっているんじゃないかと思う。

さて、もう1本の軸、というのは、文字通り「新機軸」とでも言えるような要素である。その筆頭が、本作のキーパーソンでもある来栖操であろう。来栖は劇場版で追加されたキャラクターであり、ある意味劇場版の真の主役、とも言える存在だ。彼は人間の姿をしているがその正体はフェストゥムであり、竜宮島の面々と交渉する為にやってきた存在。実は彼は人類軍の核攻撃から総士の存在を守った個体であり、フェストゥムでありながら自我の様なものが芽生えた存在だ。

そんな事で、設定からしても正にキーパーソンな来栖なのだが、彼には「テレビ本編でいう所の一騎」という役割があった様に思える。言わば、フェストゥム側の一騎、といった所か。彼の自我は総士の存在や一騎達を消したくない。だが自分は人間の体に例えるなら末端の手足で、脳であるコアの命令には逆らえないし、手足が脳に命令する事は無い、と思い込んでいる。そんな彼に対し、一騎が「自分で決めろ」「自分の意思を伝えろ」と説得を続ける。この構図、テレビ本編での一騎が総士に、カノンが一騎に、文彦やフェストゥムが乙姫に「選択」を求められた事に似ている。それは即ち、徐々に人間に近づいていくフェストゥム、というモノを来栖を通じてやろうとしていたのではないだろうか。

北極での決戦の際に「痛み」を知ったフェストゥムが、ここへきて個々に自我があらわれ、「選択」するまでに至る…この来栖の存在は、真壁紅音が目指したとされる人類とフェストゥムの共生、というものを匂わせる…言わば今後の行末を期待させるモノと言えるんじゃないだろうか。奇しくも今年、本作の更に2年後を描く続編「蒼穹のファフナーEXODUS」の制作が決まっていると言うし、そういう意味ではこの来栖の存在、次を見据えた伏線なのかもしれない。そうなると次回作にも期待が高まって来るじゃないか。

そういう事で、「HEAVEN AND EARTH」の内容は以上の通り。本編を支持していた人にはほぼ満点でおススメ出来る優良な続編に仕上がっている。本作と同じ会社の某アニメの続編の様に、人気キャラをメインに起用したいが為に本編主人公を蔑にしてしまう様な真似はしておらず、実に健全というか、期待どおりな出来、と言えよう。但し、続編の宿命でコレ一本のみでは少々…というよりかなり難解で分かり難い作品にはなってしまっている。あくまで本作は本編を見てから楽しむべき作品だろう。

そんな優等生の本作は、実はロボットアニメとしてもかなり優等生だ。テレビ本編ではそれなりに見せ場もあるにはあるものの、基本的に戦闘シーンは単調であり、正直もっさりとしたイメージだったのだが、本作はCGを用いて非常にスピーディーな戦闘シーンを見せてくれる。主役機であるマークザインの同化ルガーランスは勿論、リンドブルムやマークジーベンの空戦シーンに至っては板野サーカスもかくやの迫力。クライマックスでるゼロファフナーも重量感を重視した演出で大変カッコ良い。陸戦メンバーも、サブマシンガンでけん制しつつ接近しショットガンホーン、なんて流れで戦闘シーンを見せてくれるのでかなり見どころがある。何でも「ヱヴァ破」にも参加しているCG制作会社も参加しているらしく、本編とはうって変わりかなりロボットアニメしちゃってる作品である。この辺は今後本作を見ようと思っている人は期待して言い部分だ。

さて、最後であるが、本作は公開前にファンの中で「今度は何人死ぬんだ?」なんて言われてしまっていたらしいのだが、今回はグレーなキャラクターもいるが、一応戦死者はゼロ。本編のファンの中には「生き残る緊張感が無い」「人死にがなくなって表現が甘くなった」なんて言う人もいる。でも本編での戦死者一人一人に対していちいちショック受けていた私の様なファンには、むしろホッとしたのも事実なんだな、コレが。

ともあれ、まだどう転ぶか分からないが、続編の「EXIDUS」にも期待してみましょうかね。


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