「ガンダム」とか「エヴァ」しか知らない世代へ

グレートマジンガー(桜多吾作漫画版)

1974年 秋田書店「冒険王」連載 (感想の対象は双葉社「グレートマジンガー」全4巻) 永井豪 原作 桜多吾作 作画

簡単解説
地球…その生み出せし生命に限りなき優しさとうるおいを与え育み、またある時は極限の厳しき試練を与えたもう我が大いなる宇宙船。そしてその、自ら作りし生物”人間”の為に、既に悩める姿を余儀なくされた今も、数々の文明と変わる事無き謎に満ち、神秘のベールに包まれひっそりと息づく大地…その奥深く、数千年の間人間に知られる事なく生き続けたある一族があった。その名はミケーネ帝国。突如現れ、地球征服を目論み大攻勢をかけるミケーネ帝国と、それに立ち向かう偉大な勇者、剣鉄也とグレートマジンガーの物語。


ウチの掲示板や、他所のサイトでも話題に上る事が多いネタではあるが、いっちゃあ何だが昨今ロボットアニメ…特に「ガンダム」だの「エヴァンゲリオン」なんぞにハマッてしまって開眼した若い世代のアニメオタクの中には、どういう訳か、「ガンダム」や「エヴァ」以前に作られたロボットアニメの作品をあまりにも軽んじて捉えている方が少なくない。ホントの所、別段「ガンダム」や「エヴァ」は突然変異的に発生した作品とは言えないし、「ガンダム」や「エヴァ」でネタとされたスジ、プロットといったものは必ずしもそれら作品が初出とは言えないし、実の所これ等2作品にしても、非オタク趣味を通り越して社会現象となった事により特別視される事が少なくない作品ではあるものの、それまでのロボットアニメで培われたセオリー的なものもちゃんと守っている作品だったりもする。しかし、どういう訳か多いのだ。「マジンガーZ」やら「ゲッターロボ」といった作品に対し、やれ暑苦しいだのリアルでないだの…とかく、「お子様向け」「単純」「底が浅い」的な偏見を持たれてしまっている気がする。

確かに、ゲーム「スーパーロボット大戦」においても演出面は「ガンダム」「エヴァ」といった作品に比べ、所謂スーパー系の原作持ちキャラクターの扱いはアニメ本編と比較してもコミカルな方向になっている気がしなくはないし、「コン・バトラー」「ボルテス」「ダイモス」といった、故・長浜作品はキャラクター面でも頑張って演出されてはいるが、「マジンガー」「ゲッター」勢のキャラクター演出は確かに思いの外少ないし、如何せん古い作品というのも関係してか、人間社会の風刺的なネタもあまり取り上げられていない気がする。そういった諸々…勿論、「ガンダム」やら「エヴァ」を支持する若い世代…といっても最早中堅世代になってしまう気もするが、そういった世代が年齢的に「マジンガーZ」やら「ゲッターロボ」を視聴する事が難しい世代だという事も考慮する必要はあるのだが、そういう世代の

「『ガンダム(エヴァ)』以外のロボットアニメはウルトラマン頑張れ!!みたいで底が浅い」

という発言に対しての反論の一端として、今回紹介する冒険王連載版の「グレートマジンガー」…通称「桜多版グレートマジンガー」を紹介したい。このコミック、ブックオフ等でもしばしば見かける本なので原作版「ゲッターロボ」と同様是非読んでみて欲しい作品だ。まぁ、ココでエラそうにこんな事書いている私も、

ロボットアニメの最高傑作はどう考えても「ガンダム」…そう思っていた頃が、俺にもありました。

という世代なワケだが、そういう誤解していた世代の代表として、こういった思いに囚われている方にむけてその魅力を語らせて頂こう。

「グレートマジンガー」に限らず、過去のロボットアニメ…特にダイナミックプロ作品はアニメ作品のコミカライズを別の紙面において複数の作家が手掛ける、という事は結構あった様で、「桜多版グレートマジンガー」もそういった作品の一つであろう。ただ、これらの作品は忠実にアニメをなぞっただけでのものではなく、マンガ版独自の解釈、演出、エピソードが封入されており、しかもそういった独自の展開がたまらなく面白かったりもする。今回の「桜多版グレートマジンガー」にて注目すべきエピソードは二つある。その一つがスパロボの「第二次α」でもネタに使われたグレートマジンガーのコピー機のエピソードだ。スパロボではミケーネがグレートの設計図を奪い…という様な感じだったと思うが、コチラではもう一捻りされていて非常に面白い。

武器軍需関係の大手企業である新住日重工が、自社において秘密裏に開発した戦闘ロボットGMFA1の売り込みの為に各国のエージェントを集めたデモンストレーションをする。このGMFA1の性能をアピールする為に科学要塞研究所を強襲するもグレートに返り討ちにあってしまい、各国エージェントはGMFA1には見向きもしなかった。それを苦々しく感じた新住日重工の社長・藤獰が裏の手を用いてグレートの設計図を入手し、建造したのが9体のグレート、という訳だ。つまり、このグレートのコピーは「グレートマジンガー」における”敵”、であるミケーネ帝国とは係わり合いの無い所で生まれた存在なのだ。結局、建造されたグレートのコピーは新住日重工共々ミケーネに利用される事にはなるのだが、注目点はグレート対9体のコピーグレートではなく、グレートのコピーを建造した新住日重工社長・藤獰の言動や、この事件により生じたもう一つの”敵”の実態…ラストのドギツイ風刺など…フィクションであるロボットアニメ(マンガ)に対し、この言葉を使うのは非常に抵抗があるのだが、分かり易く言うと非常にリアルであり、えげつないのだ。

そしてもう一つ注目したいエピソードがある。それは物語終盤、暗黒大将軍に代わる新たな敵「地獄大元帥」の初の作戦だ。コチラは原作でもそういうエピソードがあったのかも知れないが、残念な事に私もアニメ版の「グレートマジンガー」は視聴出来ていない状態なので確認が出来ないのだが、コチラも紹介しておこう。

地獄大元帥と言えば、アニメ版を見た事がある方やスパロボに精通している方はご存知だろうが、その正体は世界征服を企みマジンガーZに敗れ去ったマッドサイエンティスト、Dr.ヘルである。先ず地獄大元帥は水原湾の石油コンビナートを襲撃し、瀬市を壊滅に追いやる。続けて京葉コンビナート襲撃し、戦闘獣を東京湾に終結させる。しかし元”人間”である地獄大元帥は人間の心理を巧みに利用した作戦に打って出る。それが、日本政府に対して科学要塞研究所の閉鎖とグレートの引渡し要求である。結果、日本政府は自らの安全の為に、ミケーネに対する守りの要である筈の科学要塞研究所を切り捨て、防衛隊に研究所を攻撃させてしまうのだ。

「無敵超人ザンボット3」を賞賛する際に大抵の人が語る「人間爆弾」と「守るべき対象に非難、攻撃される」というものがあるが、この「守るべき対象に非難、攻撃される」という部分をもっと早い時期に、同じ位ストレートに描いていたのだ。勿論コレに近いエピソードがアニメ版の「マジンガーZ」にもあったので別段斬新だったという気は無いが、この「桜多版グレート」の場合、最終的には日本を追放されてミケーネには半ばゲリラ的に対抗せざるを得なくなってしまうのだ。更に言えば、正義の使者たるグレートを食料&軍資金調達(早い話、強盗である)に使ってしまったりと、テレビじゃ決してやれない展開が実に凄まじい。更に、科学要塞研究所を切り捨てた日本人も、手のひらを返したミケーネにより壊滅という結末が…。この辺のエピソード、昨今のテキトーにナヨッとしたドラマやってれば良いとする薄いロボットアニメには真似できない芸当であろう。たかがコミカライズでありながら、その濃さは凄まじいものがある。さあ、これでも「ガンダム」ないし「エヴァ」以前のロボットアニメを「ウルトラマン頑張れ、みたいで底が浅い」なんて言えますかい?

人間は歳をとる。それは時が流れている証拠な訳だが、フィクションと言えども過ぎ去った作品には過ぎ去った時代に合わせた「リアリティ」が存在する。それは別にロボットが出てきたりファンタジーな世界観であったりしても同じ事だ。その流れゆく「リアリティ」には普遍的なものもあれば、10年後には信じられないようなものもある。1985年に作られた「蒼き流星SPTレイズナー」が1996年においても米ソが冷戦を繰り広げている世界観を描いた。コレ、今になってみれば笑い話だが、少なくとも1985年には1996年になっても米ソが対立し続けているという空想にリアリティがあったのだ。そういう意味で言えば、古い作品だからといって必ずしも今の作品よりクオリティが低いとは限らない。今現在のリアルが数年後もリアリティを持ち続けられるか等、誰にも分からないのだ。

この「桜多版グレートマジンガー」はロボットアニメのコミカライズの中でも傑作と言う呼び声が高い。そういった作品の持つ普遍的な魅力は、今現在作られる作品と比較してもその面白さは褪せる事は無い。むしろ、粗製乱造的に作っては捨てられる有象無象に比べたら、古さと言うハンデなど関係ないと思えるだろう。少なくともフィクションにおいては、新しければ優れているとは限らないのだ。

ちなみに、「グレートマジンガー」の主人公である剣鉄也はアニメ版では甲児君や竜馬よりも隼人に近いイメージ…冷徹さを持つキャラクターとして描かれていたが、本作の鉄也はアニメやスパロボ等でのイメージとは異なり、表情豊かな熱血漢として描かれている。そんな彼が時折見せる非情で冷徹な1面がより強調されている。また、彼のパートナーも若干オテンバな性格になっている。勿論2人の孤児としてのコンプレックスや、ジュンのハーフ故の誰にも理解されない苦悩なども描かれている。巻数は愛蔵版(?)で4巻と然程長い尺ではないが、その尺の中で徹底してドラマチックに描かれているのは流石だと言えよう。いや、コレホンットに面白いのよ、うん。


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