炸裂する富野節

聖戦士ダンバイン

1983年 サンライズ 全49話 名古屋テレビ系放送
声の出演 中原茂、土井美加、安宅誠、川村万梨阿、大木正司、他

簡単解説
「バイストンウェルの物語を覚えている者は、幸福である。心豊かであろうから。故に、ミ・フェラリオの伝える物語を伝えよう…。」
モトクロスレースの帰り、ショウ・ザマは突如光に包まれ、空と海の間にある異世界「バイストンウェル」に召還されてしまう。事情が飲み込めない内に戦場に借り出され、同じく地上から召還されたらしい敵の女性兵士には「善悪の見境なくドレイクに手を貸すバカな男!」と罵られてしまう…。「一体…ここは何処なんだ?」


この「聖戦士ダンバイン」は「陸と海の間」にある「バイストンウェル」というファンタジー世界を舞台にした初のロボットアニメである。この「バイストンウェル」という世界での物語は、他にも「リーンの翼」「オーラバトラー戦記」等が:監督である富野氏により執筆されており、近年でも小説とは設定を異にした「リーンの翼」をOVA化している。実は「ダンバイン」のバイストンウェルという世界観は、宮崎駿氏の「ナウシカ」を多分に意識したものであり、「ナウシカ」を仮想敵とした作品である。近年でも宮崎氏にライバル意識の様なモノを持っている節がある富野由悠季氏にとって、バイストンウェルとは二つの意味でライフワーク的テーマ、と言えるのかも知れない。

但し、昨今はライブで視聴していない世代にもゲーム等での人気で一定の知名度を得ている「ダンバイン」ではあるが、実は商業的にはむしろ失敗した作品であり、「ザンボット3」以降、サンライズ制作のロボットアニメのメインスポンサーを続けてきたクローバーはこの作品を最後に倒産してしまっている。その原因の一つは、昆虫をモチーフとしたメカニックの異形さや、西洋ファンタジー的な世界観がスタッフの考えている程は受け入れられなかった事であろう。良く言われる後半の主役メカ・ビルバインが番組の世界観からやや外れた違和感のあるデザインになっていたり、物語の舞台が突如バイストンウェルから地上に移されたというのも、作品の商業的不振が理由とされている。

ちなみにこの「ダンバイン」の前番組はあの(?)「戦闘メカ・ザブングル」であったため、その昆虫をモチーフにしたロボット「オーラバトラー」を見て「カッコ悪い!!」と感じてしまったファンも多かったようで、子供に至っては「恐い」とまで思われてしまったケースもあった様だ。主役メカであるダンバインのデザインを担当した宮武氏の話によると、「僕らの世代には昆虫は馴染み深かった為、何故子供達にオーラバトラーのデザインが受け入れられないかがスタッフには分からなかった」という事で、確かに今ほどではないが、当時としても外で虫とり、的な遊びがスタッフが子供の頃に比べたら子供達の遊びとして主流とは言えなくなっていたのかも知れない。

そもそも、姿形からしてオイルの香りがプンプン漂う「ウォーカーマシン」と虫羽根まで付いた生物チックな「オーラバトラー」というギャップは凄まじいものがある上、新機軸と言えば聞こえは良いが、「ガンダム」から火がついたロボットアニメの文法を覆したデザインであった事は確かであろう。しかも、オーラバトラー固有の生物っぽさ、複雑な曲面での構成は当時の技術では立体化する事が難しく、ガンプラ以降のロボットアニメ人気を支えていたプラモデルの出来もお世辞にも良いものではなかった事も、作品の商業的な不振に繋がってしまった原因であろう。

しかしこの作品も前作同様に、いざ物語を見てみるとズッポリのめり込んでしまう。それが「ダンバイン」の魅力であろう。実写映画的な「イデオン」、アニメらしさを追及した「ザブングル」に対してこの「ダンバイン」は演劇的なエッセンスを持っていると言えると思う。それはキャラクター同士の会話に顕著に表れており、平時、戦闘中を問わず富野節(富野作品に見られる独特の物言い)が正に「炸裂」するのである。

特にライバルである2人の男、バーン・バニングスとトッド・ギネスと主人公ショウの戦闘中に繰り広げる会話は凄まじいの一言。ケレン味たっぷりに己の感情をぶつけ合う様は、正に演劇のそれである。

「黒騎士、貴様はその怨念で何を手に入れた!!」
「力と、狡猾さだ!!さすれば勝つ!!」

「まだ目が覚めないのか?トッド!!」
「他人に説教するほど歳を取ったのかよ、ショウ!!」

このような名セリフ、いや「名会話」のオンパレード!!
名セリフの多さでは「機動戦士ガンダム」をも凌駕するであろう。この会話のぶつけ合いを戦闘中にやられたのでは手に汗を握らない訳にはいかなし、オーラバトラー同士のチャンバラ劇を支えているのもこの絶叫大会であろう。また、試作機であるダンバインは他のオーラバトラーと比較して乗り手に高いオーラ力が要求されるとされ、ビランビーの登場以降は性能的にライバルが搭乗する機体に押されるケースも少なくなく、その辺の描写が、戦いを重ねるにつれ本気でバイストンウェルの行く末を考え、もがき苦しみながら言葉だけではない「聖戦士」として成長していくショウの姿と重なっていたのも印象的だ。

また、マスコット役かと思いきや、語り部でもあったミ・フェラリオのチャム・ファウは、タレントにレモンを持たせた表紙でお馴染みの「ザ・テレビジョン」にて初めてアニメキャラクターとして表紙を飾る快挙を成し遂げた他、凛とした佇まいと清楚さで人気の高い美少女シーラ・ラバーナといったキャラクターの魅力も見逃せない。シーラ女王の人気は製作スタッフの間でも高かったらしく、彼女をデザインした湖川氏は彼女の初登場回の作画を担当出来なかった事を悔しがり、本来はメカデザイン担当の筈の出淵氏に至っては彼女への愛のあまり、本業そっちのけでドサクサまぎれに作画しまくったそうな。(笑)

愛されている、と言えば、ライバルの一人、トッド・ギネスは原作ではショウとは水と油…決して相成れない存在であったにも関わらず、ゲーム「スーパーロボット大戦」においては複雑なフラグ立てを強いられるケースもあるが、その多くの場合仲間とする事が可能、と、かなり優遇されている。

同じく優遇されている節のある「ZZ」のプル&プルツーは曲がりなりにも主人公サイドについた経験があるキャラクターなのだが、トッドの場合ショウの味方だったのはショウがドレイクに召喚されて間もない頃だけ…それを考えると破格の扱いと言えるだろう。しかも、仲間になる過程がかなり「燃える展開」とされていたりするケースも多く、恐らくスパロボスタッフに彼に愛着を持っていた人物がいたのかもしれない。

ちなみに、トッドの能力自体も高く、敵の時程ではないが十分に強い。高い聖戦士レベルも然ることながら、ショウより射撃値が高く設定されているケースが多いので、遠距離射撃武器が豊富なビルバインに乗せれば「敵陣に切り込み反撃でHPを削る」という役目をショウ以上にこなせるのでマーベルより頼りになる。一軍も夢じゃないキャラクターであり、同じライバルでもバーンとはえらい違いである。(って言ったらバーンは埠頭で膝を抱えて泣いちゃうかも/笑)

さて、今作のストーリー展開は富野監督作品には珍しい、割とベタな勧善懲悪の「ヒロイックファンタジー」であるが、バイストンウェルでのショウ達「地上人」の立場は「聖戦士」などともてはやされるものの、実はただの一介の傭兵に過ぎず、物語を引っ張り続けるのは主人公であるショウではなく「ニー・ギブン」であり、「ドレイク・ルフト」であり、「シーラ・ラパーナ」であり、「ルーザ・ルフト」というバイストンウェルのコモンであったりと、敢えてストーリー進行から主人公を隔離している感がある。それは、物語のテーマが「ヒーローであるショウ」ではなく飽くまで「バイストンウェルのおとぎ話」であった為であろう。そういう意味でいえば、富野氏お得意の「皆殺し」で幕を閉じる本作ではあるが、割と陰湿さは少なかったりもする。それも、この作品の持つファンタジックな世界観がなせる事なのかもしれない。

また、後半ではテコ入れの一環として物語の舞台は地上に移されてしまったものの、異世界「バイストンウェル」の世界観は序盤にて丁寧に構築しており、作り手だけの自己満足に終わってはいない。そうやって構築したバイストンウェルの世界観が見事昇華されるのが前半のヤマ場、16話「東京上空」17話「地上人たち」18話「閃光のガラリア」からなる「東京3部作」である。このイベントは1クールという長期に渡って丁寧にキャラクター描写とバイストンウェルという世界の構築を行った結果のものであろう。さらにこの「東京3部作」は舞台が地上へ移る「浮上」への伏線ともなった。

ただ、物語が地上に移ってしまった事でファンタジックな印象はかなりなりを潜めた部分がある事も確かで、結果的にバイストンウェルという世界観が、作り手の箱庭になってしまったのは残念なポイントかも知れない。そういう意味でいえば、「ダンバイン」は早過ぎた作品なのかも知れない。だからこそ、富野氏は「オーラバトラー戦記」「リーンの翼」「ガーゼイの翼」といったバイストンウェルを舞台とした小説を書いたりもしたのだろう。尤も、「リーンの翼」や「オーラバトラー戦記」は性的描写や残酷表現において富野氏のキョーレツな部分が色濃く出てしまっている作品でもあり、別の意味で有名な部分も無きにしもあらず、なのだが。

話を戻すが、「東京3部作」はバイストンウェルと地上の関係、敵の女戦士でバイストンウェルのコモンであるあるガラリアを異世界に放り込む事により、逆説的にバイストンウェルに召喚されたショウ達地上人の立場や心情、状況を描いていたり、と見どころの多いエピソードではあるが、何と言ってもザマ親子の心のすれ違いである。富野氏の監督作品においては、主人公の家族環境は壊れていて当たり前…ではあるのだが、このすれ違いっぷり…理解し合えない、というより理解しようとしない悲しい親子…いや、母子関係を凄まじい迫力で描いたのは本作のみではないかと思う。特に、己の体面を気にして

「私達に人殺しの親として生きろというの?」

という言葉と共に、銃弾を腹を痛めて生んだ筈の我が子に撃ち込むショウの母の姿は悲しい…。

そして最後は自らを「宇宙人」と名乗り両親から、さらには地上世界と決別するショウ。父親は彼の行動を理解したが、この母親は最後まで「こんなことがあっては日本にいられないわ!!」と自分の体面ばかり気にして、自分の息子の見せた最後の「優しさ」すら気にも止めない。チャムが「ショウ…可愛そう」と呟いたように、この「東京4部作」でのショウの悲劇は後のショウの行動に少なからず影響を与えている。

この、母子の対立、というモノは本作の最終局面でもう一度…別の母子…敵の親玉であるドレイクの妻・ルーザとその娘・リムルにて更に強烈に描かれる。こちらは母殺し未遂、躊躇なく子殺し、というキョーレツさだ。ザマ家では体面、世間体の為、ルフト家では欲望と野心の為…この辺の描写は「イデオン」におけるアジバ家にも同様ではあるが、オブラートに包まない人間の強烈なまでの自分本位さ、というモノが多く描かれる富野作品の中でも特に印象に残るエピソードと言えるだろう。

この「東京3部作」、語り出したら止まらなくなってしまうのだが、そうなると完全なネタばらしになるので今回はこの辺で…。(もう充分ネタバレなのだが…。)しかしダンバインを語る上で、この「東京3部作」は後の名編「ハイパージェリル」と共に決して外してはならないポイントであることは断言できる。

最後にこのバイストンウェルの物語、オープニングナレーションを最終回にうまく結びつける粋な演出を見せてくれる。壮絶な物語の結末とあいまって、なんとも複雑な余韻を視聴者に与えてくれる好演出と言えよう。

また、上でも少し触れたがこの作品は「スーパーロボット大戦」シリーズに度々登場しており、オーラバトラーはサイズが小さくパイロットの能力も相まって回避能力が極めて高い、とされている。特に後半主役機であるビルバインは移動力も高く切り込み役やおとりに持ってこいのユニットであり、気力制限こそあるものの非常に攻撃力の高い「ハイパーオーラ斬り」の存在も相俟って、能力的にバランスブレーカーなイデオンや天のゼオライマーといったユニットを除外すれば最強ユニット候補として挙げられる存在であった。この辺も、「ダンバイン」が割と若い世代へ知名度がある理由だろう。

ただ、近年の「スパロボ」においては同じようなユニット特性を持つ「プレンパワード」や「テッカマンブレード」、「キングゲイナー」といった作品の参戦により、「エルガイム」同様参戦がめっきり減ってしまった。「ダンバイン」はその物語の性格上、敵であるドレイク達が早々に退場させられるケースが多く、ネタも使い古されている印象はあるが、個人的には好きな作品なので違う形でも良いから使って欲しいな、と寂しく思っている。OVAの「リーンの翼」と絡めても面白いと思うのだが…。

更に、数年前に「スパロボ」での人気も影響してか、模型誌でオーラバトラーが特集される事が多くなり、「ハイグレードオーラバトラー」、「マスターグレードダンバイン」等プラモデルの展開も見せた。特にプラモデルは「ガンプラ全盛」のキャラクターモデル界において数少ない異分子と言える存在であるが、「HGABライネック」以降人気薄の為に開発がストップしてしまっており、現在店頭に並んでいるものも寂しいかな叩き売り状態になっている事が多い。しかも、リファインされた新キットもやや劇中イメージとは異なる印象があったりもする。

また、完成品トイでもメガハウスが固定モデル「リアルポージングロボット」を、バンダイがS.I.C的な造形で「ロードオブバイストンウェル」をリリースしていたが、どちらも生物的表現がキツ過ぎ(後者は最早グロいレベル)であり、やり過ぎ感が強かった。個人的な見立てでは、一番劇中イメージに近い立体ダンバインは「MS In Action」の亜流としてリリースされた「AuraBattler In Action」版、ないしその改良版の「In Action Offshoot」版だと思うぞ。コレはギミック、造形、可動と申し分ないが、前者は現在では入手困難、後者は塗装等の品質にやや難あり、ではあるが。

同様に「エルガイム」のキットもリファインが行われたが、コチラは「HGエルガイム」「HGアトール」「HGオージ」の段階でストップ。MK−Uや一時期話が出ていたMG化はされていない。更に「レイズナー」も一時期フューチャーされたが、ガンダム以外のロボットアニメメカのプラモ化を標榜とした「RRR」も、「ウォーカーギャリア」がナントカ出して貰えた…というレベル。

なんか、面白くないなぁ。

あ、更に余談だが、一時期の「ダンバイン」ブーム(という程大仰ではなかったが)の折に、)プレイステーション用ゲームソフトとして「聖戦士ダンバイン 聖戦士伝説」という本作のifを体験出来るゲームも発売されている。コチラはショウやトッドより早くバイストンウェルに召喚されたシュンジ・イザワ(デフォルト名で変更可能)がリの国の王となり、戦乱のバイストンウェルを戦い抜く、というゲームであり、「オーラファンタズム」出典のオーラバトラーや、OVAのサーバイン、ズワウスといった機体も登場する他、リの国で開発した、というゲームオリジナルのオーラバトラー(アルダム)、ウィングキャリバー(ジームルグ)、オーラシップ(ヨルムンガント)が登場する。

また、物語も本編の主人公サイドである二―達と戦うロウルート、ドレイクの覇道に与するカオスルートの2パターンで楽しめる様になっており、ショウを仲間にせず進めると、黒騎士の代わりに「修羅」と名乗るショウが敵として登場したり、「東京上空」で死亡した筈のガラリアが正体を隠して仲間になったり、と「ダンバイン」ファンには楽しめるものに仕上がっている。

そしてトドメの余談。元プロレスラーで元総合格闘家、大の巨乳好きとしても知られる前田日明氏は、レスラーとして現役だった頃本作の主題歌「ダンバインとぶ」のイントロ部分をリピート編集したものを入場テーマとして使っていた事があったりする。

ライブで視聴していた世代には評価も微妙な部分がある「ダンバイン」ではあるが、様々な挑戦、新機軸に彩られた作品であり、見どころも多い作品であるのは間違いない。私自身、大好きな作品の一つなのだ。



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