ロボットアニメ史上最も不幸なリアルロボット

太陽の牙ダグラム

1981年 全75話 日本サンライズ 東京12チャンネル系放映
声の出演:井上和彦、田中亮一、山田栄子、田中崇、鈴木清信、他

簡単解説
植民地惑星デロイアを舞台に、地球連邦高官ドナン・カシムの息子クリンは父の不正を暴く為、地球人でありながらデロイア人の独立運動に参加する。クリンは新型コンバットアーマー「ダグラム」のパイロットとして、独立運動のゲリラ部隊「太陽の牙」の中心となっていくのだが…。


本作「太陽の牙ダグラム」、元々は銀河系の惑星から惑星へと旅をする冒険活劇となる予定であったのだが、監督を務めた高橋良輔氏がそれを白紙に戻し、新たに構築した作品であり、SF的な、近未来的な物語ではなく、荒涼としたデロイアの大地を舞台にした非常に泥臭いゲリラロマンとなった。元々の企画の名残はLD-BOXパートUの映像特典として封入された「火星の戦士ダグラム」に色濃く残っている。「火星の戦士ダグラム」は、ダグラムとラウンドフェーサーが宇宙戦を展開するというテレビ版を見ていた人は絶句してしまいかねない展開を見せる。ちなみにこの「火星の戦士ダグラム」は「DOUGRAM vs ROUND-FACER」という名前で、87年、当時LDと競合していたVHDの表現力を生かした3Dソフトのモデルとして作られたのだという。コチラでは地べたを走り廻って戦ったアニメ本編とは異なり、スラスターを吹かして宇宙空間を飛び回りビームガンを撃ちまくるというガンダム風なモノになっている。

さて本題の「ダグラム」であるが、バンダイの「ガンプラブーム」のあおりを受けて、オモチャ作りの名門タカラが「ガンダム」を生んだサンライズと手を組み制作した第2のリアルロボットアニメであり、「ポストガンダム」等と呼ばれていた事もある作品なのだ。

しかし、この「ダグラム」という作品は、現在では知る人ぞ知るといった存在になってしまったと言っても過言ではあるまい。その原因の一端として考えられるのが、当時発行されていたアニメ誌「アニメック」等が展開したダグラムイジメである。「ダグラム」という作品を語る上で、作品の内容以前にこの問題は語らねばならないと思う。もっとも、私は当時3歳…各地で見聞きした情報でしかないのだが…。

この「アニメック」という雑誌、「ダグラム」の放映期間中、事もあろうに「ダグラム悪口特集」なるバカげた特集を組んでいたのだ。しかも、「番組をより良く発展させる為あえて問題点をピックアップしてみました。アニメックが贈る「善意ある悪口」聞いてください」等となんともお馬鹿さんなコメントが載っていた。何が「善意ある悪口」なんだろうか?善意が無い言葉だから「悪口」というのである。こんなヘナチョコサイトを運営する程度のシロートの私にもツッコまれるような間違った特集をこの「アニメック」という雑誌は展開していたのだ。「ダグラム」という作品自体が些か暗く、地味な展開が続き、作画も当時の水準としても低めで作中に女性キャラクターが殆ど登場しない、という華やかさとは無縁な作風を貫いていた為にアニメファンからの受けは悪く、むしろ「ダグラム」を低く評価する事がアニメファンとしての美徳みたいな部分もファンの意識にあった事が、この「アニメック」のクソ企画を増長させたのだろう。

当然、そこに描かれた批評はどれも程度が低く、独り善がりでロクなものではなかった。挙句の果てに、テメエのやらかした失態をこの「ダグラム悪口特集」が組まれた次の号で「担当記者が勝手に入稿した」等と編集部全体の責任を担当記者に押し付けている。確かに担当者は自業自得であるが、多くのファンが手に取るであろう雑誌の編集部がこんな無責任で良いものなんだろうか?

しかもこの「ダグラム悪口特集」の影には、非常にキナ臭いものが漂っている。この馬鹿な特集をやらかした「アニメック」という雑誌は、「機動戦士ガンダム」以降に乱立したアニメ情報誌の中でも後発であり、それゆえ良いセルは先発しているアニメ誌に押さえられてしまう為、独自の企画や批評により一部のマニアと呼ばれる層にはウケが良かったらしいが、それでも全般的に見れば発行部数は伸び悩んでいたという。比べるのは不謹慎であるかも知れないが、模型誌の「ホビージャパン」と「モデルグラフィックス」の違い(両誌の確執も根が深い所にあるらしく、今でも誌上に相手誌を中傷するような文章が掲載されていることでも有名)、といえば判り易いだろうか。つまり、セルに頼れない分を文章で補うような雑誌であったのだ。

発行部数が伸び悩んでいるような雑誌だからこそ、雑誌に掲載される広告代に頼らざるを得ない。この時期から休刊になるまで、「アニメック」の裏表紙は必ずバンダイの広告が掲載されていた。そして、「ダグラム」に遅れて放映を開始した「戦闘メカ ザブングル」に関する批判はこの「アニメック」では全く行われていなかったという。「ザブングル」のスポンサーはバンダイ…ここに何かイヤーンなものを感じるのは私だけでは無い筈だ。

そういった要素を除いても、この「ダグラム悪口特集」なんてものは世間に情報を提供する者としてやってはいけない事であり、映画評論家と名乗る者が特定の映画のCMに出演するのと同じ位恥ずべき行為である。こういった雑誌が情報源として存在している過去が、現在にも蔓延る「うっとおしいアニメファン」を生み出した元凶であり、何時までたってもアニメファンが社会的な理解を得られない理由なのではなかろうか。マスコミが非難の先鋒となってしまうという昨今の事情も、実はこの時期から表に出ていたものだと思うと、嫌んなってしまう。「ダグラム」を手掛けた高橋監督は「メカモノはあまり好きではない」と公言しているが、それはこの「アニメック」がやった不当なイジメをトラウマとして持っている為ではないだろうか?もっとも「ダグラム」以前に氏は「ゼロテスター」というSFメカモノを手掛けており、この終了後はSF系というか、メカモノは避けていたともいうが、この「ダグラム」でのマスコミによるあからさまな行為に嫌悪感を抱いた事は想像に難くないだろう。

そういった下らない逆風…陰湿なアニメ誌の不当な中傷を跳ね除け、「ダグラム」は当初4クール一年間の放送期間が半年延長され全75話となった。これはサンライズ系アニメの単一タイトルでは「犬夜叉」や「ミスター味っ子」に続く記録であり、今現在の「ダグラム」の扱いや知名度を考えると意外に思われてしまうかも知れないが、実はサンライズ制作の数多いロボットアニメの中でも最多(2006年現在)なのだ。もっとも視聴率的にはキー局の裏番組に女性から高い人気を得ていた「六神合体ゴッドマーズ」があった事もあってか然程高い視聴率を残した訳でもないし、放送期間の延長はタカラの発売したプラモデルの売り上げが好調だった事も大いに関係しているだろう。ただ言えるのは、プラモデル等の周辺商品やらの人気をも含め、「ダグラム」を支持していたファンが間違いなく存在していた、という事で、それは、低俗なアニメ誌が何を言った所でそれに打ち勝つだけの確かな魅力が「ダグラム」にはあった、という証明なのだ。

その人気を支えた一端が、モビルスーツより更に徹底したリアリティを持つロボット「コンバットアーマー」の魅力である。コンバットアーマーはどれも戦闘ヘリを思わせるガラス張りのコックピットを持ち、他のロボットの様に「顔」を持っていない。その無骨なデザインは正に現有兵器の延長にあるようなものばかりで、事実コンバットアーマー以外は輸送ヘリだの、コンバットアーマー輸送用トレーラー等ばかりが登場する。コロニーレーザーだのソーラレイだのといったSF的な味付けの兵器は全くと言って良いほど出てこないのだ。そして、そのコンバットアーマーは10m前後のサイズであり、現用の兵器とも絵的に組み合わせ易いのも魅力であろう。当時のモデラーは、スケールモデルの戦車等をコンバットアーマーと合わせてジオラマを作ったケースも多いのではないだろうか?

しかし、その魅力が作品の足を引っ張っている部分にもなっている。
コンバットアーマーは、「ガンダム」におけるモビルスーツを更に押し進めたリアルロボットである。デザイン上でもそれは明かであり、スポンサーのタカラは当時コンバットアーマー以外にも輸送ヘリや戦闘バギーも立体化しているように、人型ではない多種のメカニックとの組み合わせが絶妙にハマるロボットであった。しかし、そのリアリティの追及も作品での存在感までは構築できなかったのだ。

その原因は、コンバットアーマーの一貫性の無さである。ある時は天高く飛び上がり敵の遥か頭上からリニアガンを放つダグラムは、またある時はトレーラーに積まれ文字通り「お荷物」として歩兵部隊の足を引っ張る…。更にある時は敵コンバットアーマーの攻撃を受けても傷一つつかない堅牢さを誇るダグラムが、またある時は歩兵の携行火器によって無様に倒される…この演出上においての一貫性の無さが、ダグラムの戦闘アクション面の欠点なのだ。ムラッ気があるというか、強いのか役立たずなのか…それが演出の下手さによって際立ってしまっている印象は否めない。早い話、コンバットアーマー達が繰り広げるアクションシーンがちっとも面白くないのだ。

更に、地球連邦政府の「政治劇」や太陽の牙の面々を描く「ゲリラ戦」に重きを置き過ぎてしまった為、コンバットアーマーは時として作品上でどうでもいい存在に成り下がってしまっている部分が少なからずある。恐らく、高橋監督を始めとするスタッフ陣に、「リアルロボット」という概念がキチンと整理されていなかったのであろう。「機動戦士ガンダム」も今では「リアルロボットの始祖」等と呼ばれてはいるが、実際にモビルスーツ達の演じた戦争はまだ「決闘」の趣が強かった。この辺りの部分の消化不良が、「ダグラム」におけるコンバットアーマーの立場に影を落してしまったのだろう。もっとも、実際に人型の巨大兵器が戦場に立つような事があっても「空想科学読本」ではないが案外役立たずなのかもしれない訳で、そういう意味ではやはりリアリティのある描写だったんだ、と屁理屈をつけられるものの、やはりコレは単純に作品におけるコンバットアーマーのポジションが不明確な上、演出が下手だった為であろう。

「ダグラム」の革新的な所はコンバットアーマーの存在、設定だけに留まらない。ロボットアニメに政治劇と革命の為のゲリラ活動を取り入れた、という部分も大きいだろう。「機動戦士ガンダム」においてもザビ家や連邦軍高官の政治劇のようなものは取り入れられてはいたが、飽くまでそれはホワイトベースのクルー達を振り回す理由付けに過ぎない。しかし「ダグラム」ではそれが本流となってドラマを引っ張り続ける。結局は「悪の親玉」でしかないギレンや、リアリティを魅力として打ち出している割には「仮面の美男子」というお約束過ぎるシャアのキャラクター性は、今でこそ都合よく勘違いされてはいるが、決して「ガンダム」以前のロボットアニメの枠を出るものではない。それに対し、「ダグラム」には主人公たるクリンのライバルキャラクターからして存在しない。父親がデロイアを支配する連邦のドナン・カシムである事や、本人も地球人である事を除けば、デロイア独立を目指すゲリラの一員に過ぎず、そんな主人公達が底辺として泥にまみれて戦うのだ。どこか特別待遇を受けていたフシのあるホワイトベースとは違い、「太陽の牙」の活動は正にゲリラであり、泥臭いのだ。

そしてクリンのライバルが不在な分、クリンやロッキーを見守る…或いは立ち塞がる存在としての大人が描かれているのも魅力だろう。ただ、面白いのは見守る立場のサマリン博士はクリン達に直接語りかける事の多い正に導き役であるのに対し、立ち塞がる側…クリンの父ドナンやラコック、フォン・シュタインといったキャラクターはクリン達とまともに対峙する事が殆ど無かった。彼らは戦士でも兵士でもなく、政治家であるからだ。(フォン・シュタインは軍人ではあるが)ただ彼等が演じ続けた政治劇は間違いなく「ダグラム」という作品の中核であり、それがあったればこそ主人公クリンを始めとする太陽の牙の面々の若さ、純粋さが際立って光るのだ。

確かに政治劇を重視し過ぎて主人公が物語から解離気味な部分が「ダグラム」という作品にはあり、物語において主人公の行動が物語の舞台たるデロイアの政局に全然影響しない部分に否定的な意見も少なからずある。それでもラスト…自らの手で自らの牙と別れるクリンやロッキー達を見て、「ああ、この物語は若者の物語だったんだ。」と思わせるだけの魅力はあったのだ。終盤、クリンやロッキー達にとっては不本意な形で叶う事となった独立にしても、サマリン博士が彼らを諭すように残した最後の言葉によって総括され、救いになっている。彼らの戦い、青春は報われなかったのかも知れないが、それでも彼らにはまだ未来がある…そう思わせてくれたこの言葉は、自分が子供を持った時、もう一度聞いてみたい台詞だ。そういう点から見れば、本作のラスト、「ダグラム」という作品で最も悪役らしい悪役であるラコックが権力の座につくも、自らが野望の駒としていたデスタンに背後から撃たれる、というのも何となく「ダグラム」という作品を象徴しているとは思えないだろうか。

そして注目すべき点はもう一つある。本作には徹底して軽量化をしたラウンドフェーサー、俗に「パジャマソルティック」等と呼ばれるコンバットアーマーが登場する。更に後半では布製と思われる防寒アーマーを装備したコンバットアーマーが登場したりしている。こういったメカ演出は幾ら設定をこじつけた所で結局は空想の産物でしかないロボット兵器という存在に、更なるリアリティをもたらすアイデアの一つだろう。現在ではゲーム「ギレンの野望」のムービーに登場する布製の防寒シートを装備したザクや、「パトレイバー」の防弾チョッキ等、結構多く見られる演出であるが、、実は「ダグラム」こそが元祖なのである。

現用兵器を模したような細かい演出は、リアルロボット作品では効果的に生きてくる。その事を裏付けたものなのだ。もっとも、アニメにてリアルロボットを見せる、というのは実はこの「ダグラム」や次作「ボトムズ」で最早頂点を極めてしまい、純粋に「リアル」なんて言葉をウリにしてもコアなファンにしか通用しないレベルになってしまったと言っても過言では無いのだが…。

ちなみに「ダグラム」もこの時期の人気アニメのお約束として劇場版作品「ドキュメント太陽の牙ダグラム」が制作されており、因縁深い「ザブングル」の劇場版「ザブングルグラフィティ」と同時上映になっていた。コチラは記録フィルム的に白黒のシーンを流したり、状況説明のナレーションを入れたりと物語にとタイトルにある通りNHKがやるような戦争モノのドキュメント番組風な演出が成されていて興味深い。また、オマケとして「チョロQダグラム」という5分程度のアニメも一緒に上映されているが、チョロQダグラムはタカラが玩具として本当に出していたりもする。本編ではクソマジメだった連中がバカバカしい事をやっているそのギャップが笑いを誘うが、よくよく考えるとディフォルメロボというネタとしては「SDガンダム」が出るず〜っと前の話…そう、「チョロQダグラム」は」ある意味SD路線の草分けと言えるのかも知れない。

この「ダグラム」という作品にはワザワザアニメックなんぞに言われなくとも、欠点が多い作品ではある。しかし、それを一番強く感じていたのはアニメックの記事に喜んでいた様な連中ではなく「ダグラム」を強く支持していたファン達であろう。不幸な事に今となっては省みる者も少ない「ダグラム」ではあるが、その後のロボットアニメに残した功績は思い返せばとても多い。高橋監督にとっても「ダグラム」こそが、スマッシュヒットとなった次作「装甲騎兵ボトムズ」を生む重要な土台となっているのは間違い無い。「ボトムズ」は高橋監督が「ダグラム」で得たノウハウが無ければ存在しなかった作品であるのだ。



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