一年戦争外伝モノの草分け

MS戦記 機動戦士ガンダム0079外伝

1984年 コミックス1巻(講談社、バンダイ、メディアワークスの3社から出版されている) 原作:高橋昌也 作画:近藤和久

簡単解説
人気テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の一年戦争をジオンの少年兵フレデリック・ブラウンの視点から描いた外伝的ストーリー。


さて、今回は「MS戦記」である。「0080〜ポケットの中の戦争〜」を皮切りに、今でこそOVAやマンガ、ゲームといった媒体でファーストガンダムの世界観…要は一年戦争をテレビアニメ本編とは異なった視点、ポジションから描いた作品と言うのは枚挙に暇が無いが、今回紹介する「MS戦記」はそういった一年戦争外伝モノでも草分け的な存在と言えるマンガだ。何せこの物語がコミックボンボンに連載開始したのは1984年…連載中に「Z」の放映が始まった、というレベルである。同人レベル等ではそういったネタは既にあったのかも知れないが、商業誌で大々的にこういったネタをやったのは当時としては斬新だったのではないだろうか。違う意味で有名な通称「岡崎ガンダム」なんかと同様、ついこの前コンビニ等で見かける簡易コミックにて復刊されているので、若手のガンダムファンの中にも割と知っている人は多いかも知れない。まぁ、「種」とかを見ていた世代に関しては、もう一年戦争ネタを「古い」とする向きもあるだろうから、ハナッからキャンセルされてしまっているかも知れないのだが。

ちなみにタイトルに「機動戦士ガンダム0079外伝」とあるが、近藤氏が後年連載する「機動戦士ガンダム0079」より先に描かれたマンガである。

斬新と言えば、この「MS戦記」は元々児童向けマンガ雑誌であるコミックボンボンに連載されたマンガであるにも関わらず、かなり「ガンダム」に対して本質的な部分を抉っている作品だ。何せ、主人公はジオンの少年兵。一年戦争勃発の直前にジオン軍の訓練学校(MSパイロットの養成所みたいな所だろう)に入学、開戦時にパイロットとしてデビューし、一年戦争を生き抜いていく。つまり、テレビ本編の主人公・アムロよりパイロットとして先輩なのだ。ちなみにアニメのキャラクターは黒い三連星の3人がテレビ本編よりは気さくな人物として登場する程度で、殆どと言っていい程登場していない。まぁ、ガンダムだけは登場するが、これは以下参照、という事で。

敵側(善悪の基準とか言い出すとアレなのでテレビの、という視点で)の一兵士が主人公、というのも凄いが、もっと凄いのは彼が乗ったMSはザク、ドムの2種類のみ…ラストシーンのヒトコマで、最終的にはゲルググにも搭乗しているようではあるが、別段専用機とか試作機といったモノには乗っていないのだ。昨今のガンダムマンガであれば、元々の設定を多少崩してでも新型MSとかを導入してくる所だろうが、本作「MS戦記」には基本的にテレビアニメに登場したメカしか登場しないのだ。しかも彼自身、別にニュータイプ的な要素を持っていたりする訳でもない、ただの一般兵だ。この辺の潔さというか、見せ方というのは最近の…例えば「A.O.Z」といった企画には真似できない事だろう。

そして特筆すべきはその内容であろう。「機動戦士ガンダム」という作品は、モビルスーツと呼ばれる巨大ロボットが軍事体系に取り込まれており、架空世界のアニメに善悪という基準を持ち難いリアリティのある戦争を描いた事が先ずセンセーショナルな作品であったのだが、正直物語の後半…ララアの登場からニュータイプ一色になってしまっており、戦争の過酷さ、悲惨さといったモノはあまり強く描かれなくなっていた。しかしその外伝たる「MS戦記」は最後まで逃げず、ぶれなかった。何せ彼の初陣はコロニー落しの為に、コロニー内に残っている住民を毒ガスで虐殺する、という作戦である。勿論、学生兵なのでその作戦の内容、意味まで聞かされて参加した訳ではないが、その初の戦場で彼はいやがおう無しにこれが戦争で、自分が兵士である事を思い知らされる。

そして彼の戦場が地上に移ってからも仲間や後輩の死を経て行く訳だが、注目点はオデッサ作戦の最中、ブラウンはテレビ本編の主役たるガンダムと交戦している事だろう。ここで描かれたガンダムは、アムロが苦しみつつ戦い抜いたテレビ本編の姿ではない。ブラウン達の隊を率いるバルク大尉、そして部下のモーデルのザクをビームの一撃で簡単に屠った鬼神の様な、圧倒的な強さの”敵”なのだ。先輩のハウンズマン曹長と2体でかかっても一太刀すら浴びせられないうちに呆気なくザクの足を切断されてしまう。この辺も、最近作られる外伝ならば勝利とはいかないものの、善戦しつつやられる、とか作戦勝ちで一太刀位は浴びせる、なんて形になっただろうが、そういった風には決して描かないのが「MS戦記」の良いところではなかろうか。

物語はジャブローへの奇襲作戦…無能な中隊長に振り回され、反目…乱戦の最中ブラウンは良き先輩であったハウンズマン曹長も戦死し、絶望の中なんとか九死に一生を得て、宇宙へ戻るところで物語としての「MS戦記」は終わりを告げ、ア・バオア・クー以降のブラウンの生死は不明、という形で収束する。最後まで、ブラウンは物語の主役的な”特別扱い”は受けていないのだ。

そう、「MS戦記」にはヒーロー性といったモノは皆無…巨大ロボットが格闘戦を演じてしまうようなアニメの外伝、しかも児童誌に連載されているにも関わらず、一歩の後退も許さず”戦争”を描いたのだ。テレビ本編ですら、最後はニュータイプなんて形に逃げたのにも関わらず、だ。だからこそ、未だ「MS戦記」を支持するガンダムファンは少なくない。後の「0080」の様な、非戦闘員の小学生を主人公に据えた作品を出せたのも、この「MS戦記」の様な存在が多少なりとも影響しているのかも知れない。数多いガンダムのコミカライズの中でも、数少ない全面的にオススメ出来るマンガである。

ちなみに原作を手掛けたのは後に「ガンダムセンチネル」も手掛ける事となる高橋昌也氏で、「MS戦記」が連載されたコミックボンボンでガンプラブームの際人気を博したマンガ「プラモ狂四郎」にも登場するモデラー集団ストリームベースの一員としても知られる。また、「スターウォーズ」に影響を受けたと言う近藤和久氏の描くMS群も印象的だ。更にこの「MS戦記」の主人公であるフレデリック・ブラウンという名前は他の近藤氏のガンダムマンガ…「新MS戦記」「ジオンの再興」といったものにも登場しており、電撃コミックスのマンガ「機動戦士ガンダム0079」ではオデッサ作戦の際、ガンダムに撃墜されるブラウンの姿が描かれていたりする。特に「ジオンの再興」ではジオンの前線兵士にも名の通ったベテランパイロットとして登場し、ジ・OUなるバケモノMSに乗ってみせている。コチラはZはおろか、ZZまで量産されている世界の上、ジオンやティターンズのMSがゴッチャになっているので、その独特のMSも相まってクセの強い作風ではあるが、一年戦争を生き抜いたブラウンがどんな紆余曲折を経て戦場に立っているのか…それを想像するだけでご飯3杯はいけたぞ。(笑)

比較的手に入れ易いマンガなので、興味のある方は是非チェックして欲しい。昨今のコミカライズではボカされたり描かれない部分が描かれている貴重な作品なのだ。

ちなみに上でも書いている毒ガスによる民間人虐殺の描写に対し、富野氏が咎めたらしいが、この「MS戦記」連載中にスタートした富野氏監督の「Zガンダム」には30バンチ事件という奴が…パクッたって訳ですな。(笑)


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