特撮 「ウルトラマンコスモス」 第57話 雪の扉 グラルファン登場
監督:原田昌樹 脚本:太田愛 特技監督:原田昌樹


「怪獣を倒さないウルトラマン」として開始された「ウルトラマンコスモス」…。しかし、今までのウルトラマンシリーズでPTA辺りに散々文句を言われ続けて来た「暴力的」とか、そういう意見への反発…どころか作中で「怪獣保護」といいつつ、その一方で倒しても良い怪獣「カオスヘッダー」を設けたりと、ファンの中でもその中途半端さが仇となり評価は低い様だ。この作品が一番話題になったのも、結局主役のムサシ隊員を演じた杉浦太陽氏の暴力沙汰と、それに絡む放送中断というモノだった。今尚高い支持を受け続けるライバル「平成ライダー」と完全に明暗を分けてしまった雰囲気のあるこの「コスモス」だが、エピソード単位では名作があったのだ。

エピソード解説
暑い夏の日、中3の暁は既に陸上の地区予選で敗退し、必要がなくなったのに日課のランニングをやめられずにいました。そんな時、彼は不思議な老紳士と出会う。美しいバイオリンの調べを流す蓄音機に向けて、扉の絵が描かれた謎のカードを掲げる老紳士(トマノ)は「扉の向こうに住むグラルファンに思い出の曲を聞かせている」と言う。2人は互いの事を話すうちに心を通わせるようになった。グラルファンとは人の心の奥にある大切な思い出を目の前に甦らせてくれる伝説の生き物で、その中に入ると扉の向こうの思い出の世界へ行けると言う。そして、寒い世界に住むグラルファンが近付くと、その町も雪になるのだ。暁はただのおとぎ話と思っていたが、3日後に雪が降り始める。調査するEYES。やがて、雪のような光と共に姿を現すグラルファン。トマノは愛する家族と共に過ごす40年前の自分を見ることができるが…。


意外や意外、今回私が選んだのは特撮にあまり詳しくないにも関わらず「ウルトラマン」からの…それも、特撮ファンからも酷評の的となっている「ウルトラマンコスモス」からの1エピソードだ。私はこの「ウルトラマンコスモス」を全話視聴した訳では無いし、タマに見ても「大して面白くない」という印象しか持たなかった。そもそもが「怪獣を倒さない」と言いつつ、カオスヘッダーに憑依された怪獣と格闘戦を演じているし、そもそも各所で特撮マニアの皆さんがおっしゃられているように、このカオスヘッダーという存在は「怪獣を倒さないウルトラマン」たる「コスモス」の矛盾でしかなく、その屁理屈的な誤魔化しは、PTA辺りの最初っから「特撮やアニメは俗悪」と唱える脳味噌がコンクリートで出来ているような方々には別な形での非難対象になってしまいかねないと思う。

しかし、たまたま現場帰りに付けていたカーTVから流れたこのエピソードの面白さに、私は思わず車を近くのコンビニに止めて魅入ってしまった程だ。大して「ウルトラマン」に詳しい訳でもない私だが、このエピソードには心にこみ上げて来るものがあったのだ。

このエピソード、グラルファンを呼び出す老人・トマノを軸として描いているが、その実主役というか。脚本上最も重要だったのは中学生の暁なのではないだろうか?言わばこの「雪の扉」は「暁少年の一夏の思い出」と言うべきエピソードであり、トマノ老人はそのキーマン、ムサシ隊員やコスモスは単なるワキ役である。そして戦闘シーンもゼロという異色エピソードであり、じゃあコスモスは何をしたの?と言われれば、グラルファンが出て来た時に何だか「ピカッキラーン!!」とやっただけである。そういう意味で言えば、「コスモス」…いや、全「ウルトラマン」の中でも異色なエピソードたるこの「雪の扉」こそは、当初の「怪獣を倒さないウルトラマン」というテーマの解答の一つであろう。

ともあれ、このエピソードではふとしたキッカケで知り合う二人の登場人物…中学校生活最後の陸上競技でライバルに敗れ去り、怠惰な生活をしつつも習慣だった早朝のマラソンだけはやめることが出来ない暁少年と、最愛の妻や息子に先立たれ、その寂しさから楽しかった過去へ戻る事を望んでいるトマノ老人…この2人の心の交流が30分という枠の中で最大限に描ききっている。

結局、グラルファンはトマノ老人の手によってカードから呼び出され、真夏の東京に雪を降らせて現実の時間を停止させる。そんな中、トマノ老人と暁少年、そして怪獣辞典で停止せずに済む方法を(ご都合主義で/笑)知っていたムサシ隊員とアヤノ隊員の4人は、老人の過去…最愛の妻や息子と過ごした懐かしい日々の幻想を見る。暁少年はトマノ老人に

「あそこへ行くんですね?」

と聞くが、トマノ老人は言う。

「行きません。あの世界はあの時の私の為のものです。時間は一瞬しかないのです。」

と答える。時は一瞬で過去のものとなってしまう。だから人は一瞬一瞬を一生懸命に生きなくてはならない…過去に逃げ込んだ所で、所詮その楽しかった過去は過去に生きていた自分のものであり、現在の自分にとっては郷愁に過ぎないのだ。だから今を生きなくてはならない…。
コスモスの導きでグラルファンが元の世界へ帰ろうとすると同時に、時間が再び動き出す。そんな中トマノ老人は暁少年に告げる。

「お別れです。扉を開けた者は別の時間を生きなくてはならないのです。私のことを、忘れないで下さい。」

…なんとも静かで、せつない別れのシーンだ。
そしてラストシーン、少年は再び走り出す。今を懸命に生き抜く為に。


オタク的視点によるポイント
1.今回、はっきりいってコスモスは要らないエピソードになってしまっています。事前にグラルファンについて調べていた為止められた時間の中でも止められずに済んだ、というご都合主義によって、グラルファンを導く役割を果たしますが、別にコレは無くったって良い訳で…。
もっとも、だからと言って暁少年の役回りをムサシ隊員にさせたら、このエピソードはベタで中途半端なものに終わってしまっただろうし、コスモスとグラルファンによる光の競演も、物語上の意味はともかく映像的には非常に美しく仕上っているので不問としておくのが良いかと。

2.今回のゲスト・トマノ老人を演じたのは「仮面ライダー」の死神博士でお馴染みの天本英世氏。天本氏はスペイン好きでも知られているが、岸田森氏と並ぶ、特撮ファンに愛された俳優とも言えるだろう。
余談だが、キングレコードから発売された「ファイヤーマン」のサントラ盤の封入特典は、主役でも何でも無い、岸田氏が演じた水島博士のポスターだったんだそうで…。

3.このエピソード、考え様によっては旧作を神聖視するかつてのウルトラファンや、ウルトラマンシリーズを非難し続けているPTA連への痛烈な反論とも取れなくは無い。かつての「ウルトラマン」と比較して新作ウルトラマンを否定する大人に対する、

「『ウルトラマン』は当時少年少女だったアナタ達のヒーローです。でも『コスモス』は今を生きる子供達のヒーローなんです」

という反論であり、PTAの「特撮やアニメは暴力的で俗悪」という意見に対する、

「かつて子供だったアナタにも、『鞍馬天狗』とか『月光仮面』といったヒーローがいて、彼等を真似てヒーローゴッコもしていたでしょう?今の子供達にとってのヒーローを、アナタ達は今現在大人としての勝手な都合で奪い取ろうとするのですか?」

という反論なのかも知れないが、いくら何でも考え過ぎだろうな、うん。


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