テレビドラマ 「リバースエッジ大川端探偵社」より 第3話「ある結婚」
脚本:黒住光、大根仁 演出:大根仁


最近はさして珍しくもない、漫画原作の実写ドラマ化。実はこの「リバースエッジ大川端探偵社」という漫画、「クローズアップ100選」の方で、「コレをバッチリ合った配役でドラマ化したら絶対ウケるぜ!!」と力説したい作品として記事を書いた作品だったりする。それが2011年の11月で、ドラマの放映開始が2014年だから、我ながら先見の目があったな、と自画自賛していたり。その実写ドラマ版から一本挙げるのが、前述した「クローズアップ」でも絶品している「ある結婚」というエピソードだ。コレを外すなら「大川端探偵社」を実写化する意味がない、とさえ思える名エピソードなのだ。

エピソード解説
今回、探偵社を訪れて来たのはコスプレ専門のデリヘル嬢・美樹。彼女は、毎回自分を指名してくれるがサービスを受ける訳でもなく、一緒にテレビを見たり、買い物したりを望む奇妙な客・竹内から突然求婚されたという。エリート商社マンである彼が、自分の様なとうの経った女に何故…その真意を知りたいという。竹内の調査を始めた村木だが、友人もおらず、何時も判を押したような生活を送る竹内からは何も見つからない。そこで村木は竹内に直接接触し、本人の口から美樹に求婚した真意を聞き出そうとするが…。

先ず実写版「大川端探偵社」の印象であるが…キャストが正に"適役"に思えた。監督が「いい感じに枯れてきた」と評したオダギリジョー氏演じる村木のけだるげな雰囲気、石橋連司氏演じる所長のそこはかとなく漂わせた風格、小泉麻耶さん演じるメグミの裏表無いノー天気さ…ビジュアル面の再現も然ることながら、原作のイメージを上手く踏襲している。この部分に非常に強く惹かれた。

漫画原作の実写ドラマや映画にありがちなパターンとして、取り敢えずビジュアルは漫画キャラに似せてみました、みたいなのは結構散見する。勿論、原作のイメージをハナっから無視、というのよりはよっぽどファンの期待には応えているとは思う。ただそれが少年誌系漫画の実写の様に若手人気俳優に派手なカツラを被らせる様なのではチープに見えてしまいかねないし、地味で冴えない系のヒロインに人気アイドルとかをあてがってしまうと、原作ファン置いてけぼりだろう。ましてや、受け手側には最もどーでもいい大手芸能事務所のごり押しとかで演技もへったくれもない様なのが主演…なんてなってしまうと目も当てられない。そういう意味で言えば、今回の配役はベストと言えるだろう。

そして、実写作品の場合、監督や役者、演出家の欲だったり我という奴がミョーに鼻についてしまうケースというのは少なくない気がする。いや、勿論その欲や我がコッチサイドのイメージに則したものならまだ許せるが、そうでなければそんなものは余計でしかない。そういった観点からすれば、本作には送り手側の押しつけがましい欲や我は然程強くはなく、逆に原作の持つ良さ、魅力を引き出す事を重視している印象が強い。そこに先ず好感を覚えた。

そしてこの作品、原作もそうであるのだが登場するエピソード毎に登場するキャラクター…この場合は主に依頼者等のゲストキャラクターになるのだが、完全に、全てを描き切っている訳ではないのが魅力なのだと思う。

この「ある結婚」の場合、娼婦の母に育てられ、苦学して一流商社に入ったものの母を失い天涯孤独、親しい友人や同僚もいない孤独の男…と一見詳細にキャラクター設定が語られている風に見える竹内。ドラマを見てそのまま「ああ、そういう人なのね」と流してしまうのではなく、彼の生い立ちや人格形成、そして何故デリヘル嬢に求婚するに至ったのか…村木との飲み比べに負けた竹内本人の口から発せられた台詞の…更に深い部分、言わばバックボーン的なものを想像していくのがたまらなく面白い。
勿論、彼にプロポーズされた美樹にしても同じ。"都合のよい楽な客"だから竹内のささやかな夢に付き合い続けたのか、それても、彼女にも竹内と同様何がしかの思いがあっての事なのか…とか、はてまた今回見事ゴールインとなった二人、その後は幸せな生活を送れたのか…とか、こっち側が好き勝手に想像や感想、考察を展開してしまえる。ある意味、受動的にドラマを「見る」のではなく主体的にドラマを「覗く」…そんなイメージが本作にはある。

例えば私などはこう空想する。先ず竹内の母親に関しては、例え隠していたとしても人の口には戸が立てられない、という奴でどうしたって彼ら母子に近しい人は母の仕事を知ってしまっている筈。当然、好奇の目や差別的な扱いは受けたであろう竹内少年がそれでも親を、世を恨みグレなかったのは、恐らくそういった周囲の目や扱い以上に、竹内の母が真っ当で愛情深かったらではないか、と。ただどうしても周囲からは避けられ、白い目で見られる様な幼少期を過ごしたが故に、竹内は自身を、ひいては最愛の母もを他者からの余計な詮索等から守る為に他人と壁を作る様になり、結果他者と積極的なコミュニケーションを取るのが苦手な大人になってしまったのではないか。当然、恋人とかがいた事もなく、苦学してやっと孝行できると思った矢先に母に死なれた事も相まって対人関係…特に女性にに関して劣等感を強く抱いているのではないか。それ故に母と同じ職業のの美樹に母親と同じ匂い、面影の様なものを感じたのではないか、と。

一方、美樹の方も恐らくデリヘル…風俗に足を突っ込んだのはやむに已まれぬ理由とかではなく、惰性なのか若さ故のという奴なのか…もしくは流されて、なのか、少なくとも積極的な理由ではない気がする。ただ、生来の性格が真面目な彼女はそんな職業でもある種の職業意識は強く、プライドはあったのかも。ただそんな世界に長い事浸かってしまい、いい歳までズルズルと続けてしまっていやが応無しに「この仕事は何時までもやれる仕事ではない」と自覚させられ、自分のやって来た事にやや否定的な感情を持ち始めた…そんな折に出会ったのが、デリヘル嬢の自分を性処理の道具としてではなく"女"と見てくれている気がする客…竹内に出会った、と。だからこそ、彼の自身に対する扱いに怪訝な思いは抱いたものの、彼の指名に答え続けたのではないか、と。

勿論これは私の勝手な解釈であって、竹内を「ただのマザコン野郎」「デリヘル嬢本人を見ていない」と評する事も出来るし、美樹にしたって「楽な客転じて玉の輿」とか「竹内がエリートだから打算もあった筈」なんて意地悪な方向で評してしまう事も可能。私は竹内の独白に何だか強く感情移入してしまってついつい泣いてしまったが、潔癖な人はハナっから「風俗嬢を嫁、とか生理的にあり得ない」と思ってしまう人もいるだろう。

それはどちらも恐らくは正解なのだ。本作はある探偵社に舞い込んだ変な依頼…という形で、そのドラマ自体を楽しませるのは勿論のこと、プラスアルファとしてドラマの中に息づく人々やその行動に対して受け手側に想像の余地があり、視聴者にそれぞれの解釈を導き出させる、という、いわば「人間観察」的な面白さがある。

いや、実の所ドラマより原作漫画の方が、より想像の余地という奴は多く残されてはいる。これは私の持論なのだが、活字から絵、絵から動画、とやれること、表現できる幅は増える。でも逆に見えてしまう、動いてしまう、喋ってしまう事で、受け手側が想像、空想する余地という奴は逆に損なわれる。例えある小説を漫画にした時点で、原作者の意図とは離れた作画担当や編集者の解釈がねじ込まれ、更に実写やアニメになった場合は監督や演出家、演者それぞれの解釈がねじ込まれていく。つまり、ある意味同じタイトル、ほぼ同じ筋を持ちながら中身は大分違ったものに変貌してしまう事すらある。御多分に漏れず本作にも原作からやや乖離というか、改変されたエピソードはある。ただ、ドラマにねじ込まれたのは送り手側の押しつけがましい解釈ではなく、想像の余地や解釈の幅が広がる様に配慮されている気がする。スジ的には投げっぱなしと言えるかもしれないが、この「大川端探偵社」はココこそが心地よいのだ。

たった30分弱の尺ではあるが、存分に想像、解釈の余地を与えてくれている…それが本作の魅力なのだと思うのだ。特に今回は視聴者の視点が竹内を探る村木に完全に被って来る様誘導されている。それ故、ドラマの焦点は竹内と美樹の二人になる。これはこの「リバースエッジ大川端探偵社」のエピソード全てに言える事だが、探偵社に舞い込む様々な依頼を通じて、人の生き方そのものの面白さが描かれている。

ラストシーン、ある時は事務所で、ある時は街中で、ある時は居酒屋で依頼を振り返る村木や所長、メグミと視聴者が一緒になって依頼を反芻し噛みしめる…本作は、そういう余韻を楽しむ作品なんじゃないかと。

ラストシーンで竹内と美樹が堰を切ったようにお互い涙を流しながら交わした熱い誓いの口づけ…アナタならどう解釈するだろうか?

オタク的視点ポイント

1.このエピソードで竹内を演じたのは岩井秀人氏。俳優でもあるが劇作家、演出家でもある人。実はこの人、家庭環境が原因で対人恐怖症になり引き籠っていた事がある人物。竹内のキャラクターにも通じる部分がある気がする。美樹役の内田慈(ちか)さんは主に演劇畑で活躍している人。

2.村木を演じたオダギリジョー氏の一番好きなエピソードが、何を隠そうこの第3話「ある結婚」だったりするんだそうで。ちなみに、ドラマ版では各エピソードのキーみたいな形で描かれる村木の見る「予知夢」であるが、実は原作にはそういった描写は無く、ドラマオリジナル。

3.主題歌「Neon Sign Stomp」やエンディングテーマ「サニーサイドメロディー」を歌っているのはEGO-WRAPPIN'というバンドで、劇中音楽も手掛けている。どこか昭和を思わせるノスタルジックな楽曲に仕上がっておりジャズ的な、大人な雰囲気も相まって、ドラマの雰囲気にもマッチしていている。

4.本作のオープニングは探偵社の何時ものメンバーの日常をやっている事務所の真ん中で、主題歌を歌うEGO-WRAPPIN'がライブをしている様なものになっており、歌詞の♪息が止まるほどに美しい〜の所で小泉麻耶さん演じるメグミの胸元がアップで映るのだが、そのシーンのムニュッとした感じが大変にエロい。ちなみに歌詞の中に♪捧げる一斗缶のRhythmとあるが、ホントに演奏で一斗缶を叩いている。

5.本作の第9話「命もらいます」の依頼人が声に惚れてしまう遊園地のアナウンスをしている声優役は、この「1話1会」でもネタにした「蒼穹のファフナー」の遠見真矢役で知られる松本まりかさん。このエピソードで松本さんの口から、演技とはいえ、声優オタクやアニメオタクに対してかなり辛辣な台詞が飛び出すのでファンはショック受けるかも。でも、私は声オタではありませんが、このエピソードの依頼者の様に彼女の声に惚れる…というのには個人的に分からなくもなかったり。(笑)

6.本作第2話「セックスファンタジー」では元AV女優で元ストリッパーでもある星野あかりさんが依頼人として登場している。実は彼女、本作と同じ大根仁氏監督の「湯けむりスナイパー」にも出演していたりする。

7.私が「リバースエッジ大川端探偵社」の原作に惚れこみ、実写ドラマ化するなら絶対に欠かせない、欠いて欲しくないと思っていたのが今回の「ある結婚」というエピソードなのだが、私的な次点である「怖い顔グランプリ」もちゃんと第6話としてドラマ化になっている。こちらは製作スタッフ達も本作をドラマ化した理由の一つとして挙げていたりする。

8.メグミ役で作中愛嬌とお色気を振りまく元グラビアアイドルの小泉麻耶さんだが、一時期読売巨人ジャイアンツの阿部選手との不倫騒動があった。他にも前に所属していた事務所を枕営業関連で被害届を出していたり、芸能活動を禁止していた為退学処分になった母校相手に訴訟を起こしたり、と中々ののお騒がせ人物だったりする。


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