時代劇「必殺からくり人」第3話より 「賭けるなら女房をどうぞ」
監督:工藤栄一 脚本:早坂暁


必殺シリーズの中でも、「必殺からくり人」シリーズは幾分か軽んじられている気がしなくもない。やっぱり「仕事人」以降を代表とする中村主水シリーズは知名度があるし、「仕事人」以前の作品でも「仕置人」や「新仕置人」等は人気が高い。非・主水シリーズではシリーズの開祖たる「仕掛人」や「必殺必中仕事屋稼業」等は名作と誉れ高いし、シリーズ最低視聴率を叩き出した異色作「翔べ!必殺うらごろし」もマニアの中では評価が高かったりする。でも、必殺シリーズの話題では何故か「からくり人」はスルーされがちな気がするのだ。そんな「からくり人」の名誉回復の為…というのは大げさではあるが、今回のエピソードを紹介する。

エピソード解説

米問屋の備前屋は米の値段を吊り上げる為、仇吉と敵対する外道の曇り一派や戸田藩の江戸家老の助力で百姓一揆の扇動を画策。その企てに利用されたのが博打狂いで女房を女郎屋にとられた魚屋の伝次だった。伝次は女房の身受けの金に釣られ、頭を刈られ、坊主の風体になり村を訪れる。一揆は二日間。用済みになれば伝次は始末される。
曇り配下の仕込みで村人の前で奇跡を起こした伝次は、生き仏として村人に祀り上げられる。偶然から村の娘・キヨの目も直してしまった伝次は暴走し、本気で村人側に立ち一揆の先頭に立つ始末。暴走する伝次に業を煮やした曇りは彼を亡き者にしようと刺客を送るが、事を見守っていた時次郎と天平に阻止。しかし二人の説得にも伝次は耳を貸さない。
遂に一揆は明日城下に入る。だがこのまま進めば一揆に加わった村人達は必ず藩に殺される。伝次は自分を生き仏と慕う村人を見捨てる事が出来ず、自分には鉄砲の弾は当たらない。必ず村の実情を藩に訴え説得する、と村人達告げ、単身城下へ。それでも彼を慕いついて来ようとするキヨ。そんな彼女に伝次は告げる。
「自分は、生き仏なんかじゃない。くだらない魚屋だ。女房を女郎屋に売った博打打ちだっ!」



先ず、前述した「必殺からくり人」という作品がどうも必殺シリーズのファンにはウケが良くないというか、人気が無い気がする…という事に対して考察していこう。

「必殺」というと、奇抜で華麗な殺し技だったり、あくまで金により動く…正義の味方に対するアンチテーゼ的な部分、言わば時代劇にはありがちな正義の味方ではない、あくまで非情の殺し屋である点が人気の秘訣だった筈。頼み人(になる人)の悲劇や悲哀を存分に描いている為、必殺シリーズの殺し屋達は一見正義の味方に見えなくもないが、その実態はドライなアウトロー…そこにファンは痺れた訳だ。

ただ、「からくり人」はその辺がとことんウェットなのである。メンバーは八丈島から島抜け…今で言う脱獄した仲間であり、裏稼業として共に「からくり人」という道を選んでいる、言わば一蓮托生の疑似家族的な関連性、更には先代元締めのポリシーで「銭を持っていない人間からは銭を受け取れない」を忠実に受け継いでいる…という事で、時として依頼金を受け取らずに仕事をしたり、他のシリーズ作品では考えられない様な「おせっかい」をする事すらある。この部分こそ、シリーズのファンにウケが良くない最大の理由ではなかろうか。必殺ファンは、シリーズの殺し屋が決して正義の味方ではない、ヒーローなどでは断じてない部分に惹かれている部分が少なからずある筈。しかし「からくり人」の場合、言葉は悪いが弱者に入れ込み過ぎている。その結果、それまでのハードな殺し屋達の物語を支持するファンはその勧善懲悪、弱きを助け強きを挫くからくり人達の行動に、何となく違和感を覚えたのではなかろうか。

実は、今回紹介する「賭けるなら女房をどうぞ」というエピソードはそんな「必殺からくり人」が「シリーズのファンにはあまり好かれていないのでは?」というのを体現しているエピソードだったりする。何せこのエピソード、からくり人達は別に伝次からも、彼の博打の借金で女郎屋に売られた女房からも、ましてや一揆に加わったキヨ達村人からも、別段仕事を制式に依頼された訳ではない。というより、はっきり言ってしまえばからくり人達の行動原理が、突き詰めてしまえば何のことはない「只のおせっかい」なのだ。

事の発端は時次郎が知り合いの伝次が博打の片に女房を女郎屋にとられた事を聞き、せめて最初の夜はお前が一緒にいてやれ、と伝次に金を渡した事。花乃屋とは敵対している曇り一派が一揆を利用する企みに加担していた、というのもある意味結果論的なものなのだ。暴走した伝次を亡き者にしようとする曇り一派の刺客から伝次を救う為に時次郎と天平がお約束の殺しは見せてくれるのだが、企てをした備前屋や戸田藩江戸家老はからくり人に殺されたりはしない。最終的には仇吉が亡き伝次の為に備前屋に乗り込んで伝次が受け取る筈だった金と、企てに利用された百姓たちの人件費を取り立てて終わりなのだ。これには、ファンの喰い付き…「これぞ必殺!!」という点に関しては難点があると言わざるを得ないのかもしれない。

ただ…ただドラマとしては、極めて完成度が高いと断言してしまえるエピソードでもあるのだ。

先ずは伝次のダメ人間、負け犬っぷりっぷりを描き、彼がひょんな事から村人に生き仏と慕われ、敬われる存在となった彼は、自身の弱さ故に暴走する。生き仏様と担がれ、自分が何の為に村人を扇動しているのかすら一時忘れ、自分に、状況に酔ってしまう。しかしそんな中芽生えたキヨ達村人への情により、最後は彼等を裏切る事が出来なくなり…最後の最後で自分の正体を吐露し、負け犬の自分を慕ってくれた村人たちを身を挺して守る…そんな、人としての弱さ、そして捨て切れぬ情を存分に見せる伝次の姿…コレが古川ロック氏の熱演、名演もあってかなり響いて来るのだ。

特に、伝次がキヨに自分の正体を告白するシーン…そして、死への恐怖を懸命に振り払いながら城下へ向かい、結果果たせず鉄砲で撃たれてしまう伝次の姿…コレはもう、涙なくしては見られない。そしてそんなドラマを結ぶのが、エンディングテーマの「負け犬の唄」…やるせなさ際立つブルースが、ドラマの後の胸に堪らなく沁みる。

色々と斬新な試みが成されている「必殺からくり人」、キャストだってスケジュールを合わせるのが困難だったレベルで豪華…それなのに何故か、何とな〜くファンの間でも話題になり難い気がしてしまう。でも待ってください、その中身は市井の人々の悲哀を強烈に描いたハード路線。そのドラマの濃密さは他のシリーズ作品にだって劣っちゃいない、と私は思う。タイトルの「からくり」というのが何だかオモチャっぽくて敬遠している…なんてアナタ、先ずは一口食って見てくださいよ、と。


オタク視点的ポイント

1.本エピソードで主役…と言っても過言ではない魚屋の伝次を演じた古川ロック氏は喜劇役者の古川ロッパの次男。若い頃は元祖・プレイボーイ芸能人の呼び声高い火野正平氏と同じ家に住んでいたんだとか。「必殺」シリーズに多数出演しているが、大抵は始末される役や脇役。特に「跳べ!必殺うらごろし」で市川悦子氏演じるおばさんに殺される坊主の役などが印象的。

2.「必殺からくり人」の仕掛けの天平を演じたのは、千葉県知事の森田健作氏。殺し技は、花火を標的に飲み込ませて体内で破裂させる、という豪快なモノ。花火が爆発すると爆発の光で肋骨が透けて見える演出がユニーク。天平の本職は花火職人で、同じくからくり人メンバーで芦屋雁之氏演じる藤兵ヱの息子・へろ松と今で言う夢の島で暮らしているという設定だった。ちなみにへろ松を演じていたのは間寛平氏。

3.鼠小僧や蛮社の獄といった実在の人物や事件をネタにしたエピソードも多いのが「からくり人」の特徴。毎回現代社会にからくり人達が出没する導入部も印象的。「新からくり人」ではからくり人メンバーに蘭学者の高野長英が偽名で参加していたりする上、「新からくり人」より先に放送されている「暗闇仕留人」に登場する糸井貢は高野長英の弟子、という設定があり、面白い形になっている。

4.この「賭けるなら女房をどうぞ」の前、第2話「津軽じょんがらに涙をどうぞ」は優れたラジオ・テレビ番組に贈られるギャラクシー賞の選奨を受賞している。

5.「必殺からくり人」のエンディングテーマ「負け犬の唄(ブルース)」を歌うのはかの川谷拓三氏。実はテレビ版は若干アレンジされているらしく、レコード版よりキーが高くなっているんだとか。タイトルもレコード版では「負犬の唄」となっている。何ともやるせない歌詞が印象的で、非常にブルージーな味のある名曲。実は「新仕置人」のエンディング曲を歌った川田とも子氏がカバーしたバージョンもあるが、この歌をカバーした時の川田氏の年齢は何と12歳!!12歳の子に歌わせる歌詞じゃねぇぞ。(笑)

6.意外な人が殺し屋をやっているのが必殺シリーズの魅力でもあるのだが、それらを殺し技と一緒に一部ご紹介。

市原悦子…「翔べ!必殺うらごろし」 おばさん…匕首で怖すぎる不意打ち
和田アキ子…「翔べ!必殺うらごろし」 若…怪力で殴った相手の首が一回転、等
笑福亭鶴瓶…「必殺仕事人V激闘編」 参…ポッペンを額に突き刺す
藤村富美男(元阪神タイガース)…「新必殺仕置人」 寅の会元締 虎…バット型の棍棒
中谷一郎(「水戸黄門」の弥七)…「助け人走る」 辻平内…針が出る煙管
宮内洋…「助け人走る」 島帰りの龍…垂直落下式ブレーンバスター
古今亭志ん朝…「新必殺からくり人」 噺家塩八…催眠術
石坂浩二…「暗闇仕留人」 糸井貢…三味線のバチ、仕込み矢立
梅宮辰夫…「江戸プロフェッショナル必殺商売人」 新次…櫛の柄

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