アニメ「干支魂 えとたま」第10話より 「永久変態」
脚本:赤尾でこ 絵コンテ:吉田丈司 CGコンテ:新井陽平 演出:山地光人


ここ数年、「漫画100選」のネタ稼ぎの為に今までは見向きもしなかったような漫画にも手を出す様になって、それがキッカケで嫌いだった「萌え」とかをウリにした作品にも耐性がついてきた私が、何だかツキに見放されていた2015年前半でもしかしたら一番の広いものだったんじゃないかとまで思ったのが今回紹介するアニメ「えとたま」だったりする。10年前の私なら、見るどころか率先して馬鹿にしていたであろう作品であるのに、変われば変わるモノである。
ただ、映像ソフトの販売スケジュールが変則的だったりしたのも悪い方向に働いたのか、ソフトの売り上げはあまり芳しく無い様子。繰り返し言っている事だが、映像ソフトの売り上げや視聴率なんてものは、作品の出来そのものの優劣と必ずしも比例する訳ではない。ソフトの売上だけをギャアギャアと喚くより、作品そのものについて語る方が遥かに有意義じゃないか?という事を今回の記事で…分かって貰えると嬉しいな、と。

エピソード解説

今日もにゃ〜たんを追い掛け回すモ〜たん。モ〜たんのにゃ〜たんへの偏愛は、二人の過去に起因するらしい。そんな中、にゃ〜たんを滅する為にチュウたんが本格的に行動を開始する。そのチュウたんの前に立ち塞がるのはモ〜たん。彼女はにゃ〜たんを守る事が出来るのだろうか。


私がこのアニメに触れたキッカケは、先に漫画版を読んでいて…という経緯だった。具体的にどんな感じで見る事になったのか、というのは「クローズアップ100選」を参照して欲しい。ただ1話の段階での感想を書かせてもらえば、CG映画「STAND BY ME ドラえもん」を手掛けた白組によるCGアクション描写は確かにカッコ良く、感動するレベルの動きっぷり、壊しっぷりではあるのだが、物語としての評価は…正直「大して面白くはねぇな…」というものだった。確か見始めたのは3話まで放送されていて、今回私にしては珍しく動画配信で見た訳だが、エピソードを重ねるにつれ…何だか作品のノリが不思議と懐かしく感じる様になっていった。ハッキリ言って中身なんか何にもないドタバタしたアニメなれど、何だか楽しい気分になれる作品、と思えるようになったのだ。

…と、いうのも、懐かしい感じの作りと言うのはスタッフの出自によるのかも知れない。脚本担当の吠士隆氏、シリーズ構成の赤尾でこ氏は二人とも90年代に数多くの作品をメディアミックスとして世に出したライトノベル作家のあかほりさとる氏の弟子の様なポジションの人であり、そういう意味で言えば氏が活躍した90年代の作風に強く影響を受けたであろう両者だからして、作風も何となく90年代風の懐かしい感じに仕上がったのではないかと。まぁ、この関係を言ってしまうと、あかほり氏は作品作りを商売として認識しているタイプのクリエイターであり、「売れた作品が良い作品」というスタンスの人物…そうすると、この「えとたま」という作品は悪い作品になってしまう訳だ。個人的な嗜好で言ってしまえば、私などは90年代にリリースされていた氏の関連する作品は大抵「好きではない」という評価なのだが、この「えとたま」に関しては「割と好き」だったりする訳で、何となく感じる懐かしさだけが評価の理由ではないんじゃないか、と。

ただ、見ていて結局「それだけ」な作品である気もしていたのは事実だったりする。この「えとたま」のソフトの売れ行きが芳しくない事に関して、

「面白いんだが円盤買う程じゃない」
「一回見れば満足で繰り返し見る気にはならない」

という意見がある訳だが、正直私も半分はこの意見に納得してしまっている。基本はコメディ…というよりギャグアニメである上に、そのネタにメタフィクションを多用していたのもこの原因だろう。1発ギャグなんて何度も繰り返し見るモンじゃない。このまま最後までドタバタしたまま完結するんだろうな…と思っていた…その思いを覆してくれたのが、今回紹介する10話からラストまでの流れだったのだ。

先ずポイントはモ〜たんである。にゃ〜たんを偏愛するド変態キャラとして、ウサたんすら認めるキャラの立ちっぷりを見せていた彼女が今回のエピソードではシリアスに物語を引っ張る。にゃ〜たんの失われた記憶、そして何故モ〜たんがにゃ〜たんに偏愛を寄せるのかが描かれ、にゃ〜たんをチュウたんから守る為に決闘を挑む。このバトルシーンが動きまくり、壊しまくりの大迫力なのだが、結局モ〜たんはチュウたんの繰り出した秘奥義「干支魂神楽遷宮」により消滅してしまう。

ここで注目したいのがウリたん。ウリたんも3話にてチュウたんとにゃ〜たんのバトルに無理やり介入した挙句、事故の様な形で消滅しており、追悼エンディングまで流されたものの次のエピソードで当たり前の様に復活。以降も消滅が彼女の持ちネタであるかの様に消滅しては転生…を繰り返していた。「ドラゴンボールで復活」ではないが、ウリたんのネタで消滅…干支神の死が軽く描かれていた所に、今回のモ〜たんの消滅なのだ。当然、視聴者には「モ〜たんどうせすぐ復活するんだろ」的な、「俺はもう騙されないぞ」という思いはあるものの、今回のエピソードでは

1.チュウたんが繰り出した秘奥義「干支魂神楽遷宮」は干支神を滅する力があるらしい点。
2.にゃ〜たんとの過去が明かされたりと死亡フラグ的な演出がある点。
3.消滅したモ〜たんが萌力だけになって遺言の様なものを託している点。

等、ウリたんの時との違いを見せつけられる為、視聴者の思いを揺さぶられる。「ウリたんは復活したんだから大丈夫…でも…」という一抹の不安を視聴者に与えてくるのだ。これは更に続く11話でモ〜たんが復活しない事で強調される。この揺さぶり方は上手い。これによって暴走しているチュウたんの異常さが強調され、不安感を強調する。結果物語を収束させるキーになっていく訳だ。

そしてもう一つのキーが「にゃ〜たんの失われた記憶」であろう。

今までも断片的に「転生前のにゃ〜たんは誰もが一目置く実力者だった」という事は語られてはいるが、視聴者に見えるのは記憶を失って以降の、だらしなく、お馬鹿な姿が中心。しかし今回、モ〜たんとの一件という記憶を失う以前のにゃ〜たんを視聴者は断片的にではあるが、見る事になる。そしてモ〜たんがチュウたんとのバトル中に発した「チュウたんはにゃ〜たんが大好きだった」という台詞。この2つから、にゃ〜たんとチュウたんの過去に「何か」があった事、そしてそれがにゃ〜たんから記憶を奪い、チュウたんを暴走させた…という事になり、俄然「失われた記憶」は重要度が増す訳だ。この2つのキーが、残り2話への期待度を牽引し、盛り上げる事になる訳だ。

ズラズラと色々書いてきたが、モ〜たんの消滅に関しても、にゃ〜たんの失われた記憶に関しても、その実この10話単体の成果という訳ではない。今までのドタバタしたエピソードで描かれたモノがきちんと付箋ではないが、ちゃんと機能している事の証明になっているのだ。そういう意味で言えば、ひたすら騒がしいドタバタ劇も、何も考えずにやっていた訳ではないのだ。例えば、近年ヒットした作品の代表格「ガールズ&パンツァー」が1クール作品にも関わらず2度も総集編を挟んだが、あれはもうシンプルに「間に合わなかった」からで、監督自ら次作にてその件をネタにしている訳だが、この「えとたま」のシャアたん会…露骨に作中でも「総集編」呼ばわりされているが、コレは狙ってやった総集編的エピソードなのではないかと。結果的に視聴者の理解を深めた「ガルパン」の「紹介します」とは真逆と言えるスタイルになる訳で、結果としての「総集編」というより、むしろ「説明会」とでも言うべきエピソードだったのではないかと。そう考えると、大袈裟に褒め称える程ではないにしろ、ギャグ作品である「えとたま」も、全体的な構成がきちんと存在していた作品なんじゃないかと思えてくるじゃないか。

うん、やっぱり捨てたもんじゃないと思うんだ、「えとたま」って作品。
…でもまぁ、1回見れば満足…というのも、突き抜けたギャグコメディであるが故、残念な事にまっこと正しい評価である気もしてしまうのだが。


オタク視点的ポイント

1.この「えとたま」という作品、映像ソフトのリリースが非常に変則的だった事が知られている。何せ、第2話の放送より先にBlu-ray(DVD)1巻の発売日の方が早い…即ち、2話に関してはテレビ放送より映像ソフトのリリース方が早い事になる。最後の2枚こそ発売延期したが、月2枚のペースで早々に全巻リリース完了となっている。この早すぎるソフトリリースは、むしろ売り上げ枚数に関して言えば逆効果…所謂「爆死」の原因の一つになっていたのではないかと。

2.本作ではスタッフやキャスト、イラストレーターや漫画家がアイキャッチイラストを手掛けているが、その中には「ぱにぽに」の氷川へきる氏、「箱入りドロップス」の津留崎優氏や「蒼き鋼のアルペジオ」のArkPerformanceの名前も。声優さんの描いたイラストの中にはプロレベルの上手さなものもあったりする。

3.本作は公式がかなり遊んでいる事でも知られており、本来は著作権侵害として削除対象になる事も多いアニメの主題歌などをループさせて制作した動画…所謂「中毒になる動画」を自ら投稿していたりする。その他、主役のにゃ〜たん役の村川梨衣さんが自らが歌う主題歌に合わせて踊る「踊ってみた」動画を投稿していたりする。他にもニコ生上映会にキャストが参加したりと積極的に動いていた。

4.クセになると評判の主題歌「リトライ☆ランデヴー」だが、個人的にはエンディング曲の「bluemorment」の方が好きだったりする。ちなみに歌い手としてクレジットされるソルラルBOBのBOBはそれぞれ村川梨衣さん、花守みゆりさん、松井惠理子さんの血液型からとっているらしい。

5.私がこのアニメを見るキッカケとなった漫画版の原案に是空とおる氏と共に挙げられている吠士隆氏は、ヤングアニマル嵐で連載している第二次大戦の女性ばかりのSS部隊を描いた「シェイファー・ハウンド」の原作担当。ヤングアニマル嵐のミリタリー枠の第4弾であり、おりしも「ガールズ&パンツァー」のヒット時期と重なった為、同じ「女の子&戦車」という事で注目された事もある作品。このミリタリー枠、「蒼き鋼のアルペジオ」や「艦隊これくしょん」に先んじて艦の擬人化をネタにしていたり、案外先見性があるのかも。

6.各干支神やにゃ〜たんには萌力祭具(ソルラルギア)と呼ばれる固有の武器があるのだが、コレがまともにバトルで使っていたのはチュウたんとウサたん、ドラたん位なもので、半ば死に設定になっている…が、8話の「タカマガハラ記念メイド喫茶干支店長カップ」で各干支神達の乗り物として出番は与えられている。ちなみにこのエピソードのアバンは中嶋悟がフルシーズン参戦した事により始まったフジテレビのF-1中継のパロディになっている。


戻る