100選クローズアップ編 その4 2011/08〜2011/12


2011/12/27 「ジーザス」 作:七月鏡一 画:藤原芳秀(544)

世の中には残念な事に「打ち切り漫画」という奴があります。ま、単純に人気が無かったり面白くなかったりした為の打ち切りならね、自分の趣味、嗜好がマイノリティーである事を痛感させられる以外は納得できなくはない訳ですが、所謂「大人の事情」的なモノで終わらされちゃった作品…コレはもう悲しいですよね、ウン。

で、今回のネタ「ジーザス」も、名言はされていませんが、とある「大人の事情」という奴でそれなりに人気を得ていたにも関わらず打ち切りになってしまった…と言われている作品です。

その理由というのが、オウム真理教の地下鉄サリン事件。

実は事件の直前、「ジーザス」では敵の組織がショッピングセンターに毒ガスを撒いて一般人を虐殺する…というネタをやっていたのですね。コレが事件後問題となった…と言われています。事実かどうかは明言されてないんで、実際の所は分からないんですがね。

…で、余談ですがこの「ジーザス」の原作者、七月氏はその後もテロの予見みたいなのをやっちゃってます。その作品がそう、アニメ化もした皆川亮二氏とのコンビで描かれた人気作品「ARMS」です。「ARMS」作中でN.Yにあるとされるエグリゴリの総本部「カリヨンタワー」が崩壊するネタをやった直後、9.11同時多発テロが起きています。

キバヤシ:人類滅亡はノストラダムスではなく七月鏡一によって予言されていたんだ!
ナワヤとか:なんだってぇぇぇぇぇっ!!

…コホンッ。
そんな訳で、ホントに打ち切りなのか、そしてその原因が地下鉄サリン事件なのかはさておいて、確かに「ジーザス」という作品は終盤の展開がかなり性急かつ唐突に突き進んでいる印象があり、そのおかげで最後が何だかおいてけぼりを食らった様な感覚に陥ってしまう作品、である事はまぁ、確かです。

でも、この「ジーザス」のラストシーン…コレって今尚語り草になる程素晴らしいモノなのですよ。

ハイジャックにより行方を断っていた生徒達が奇跡の生還を果たしたその当日。新星高校旧校舎にて、ジーザスと24との最後の戦いに決着がついた。

…その二年後、水沢小百合は因縁の地・カダスにて"あの男"と再開する。

男:向こう見ずなところはあいかわらずだな、お嬢さん。
どうした?俺の名前を忘れたか?

小百合:地獄に堕ちても忘れるものですか!

…カッコいいよなぁ〜。
実の所、ジーザスの決め台詞

「俺の名だ。地獄に堕ちても忘れるな」

はね、不自然なイメージがあった訳です。何でも七月先生は

「JESUS!」

と叫ぶ大学生を見て、この作品の主人公の名前を閃いたんだそうですが、敵がやられる直前に必ず「ジーザス!(畜生っ!みたいなニュアンス)」って叫ぶ…というのが漫画とはいえリアリティーに欠けたお約束事に感じちゃってたんです。

でもね、このラストでの「地獄に堕ちても忘れるものですか!」でその違和感は吹っ飛んじゃいましたよ、見事なまでに。

一見言葉遊び的な台詞なんですが、この言葉にはジーザスに対する小百合の想いがあり、逆にこの台詞…自分の名前を問うたジーザス側にしても、小百合に対しての想いがある訳です。んで、トドメにこの台詞、読者にとってのジーザスへの想いでもある訳ですよ、ええ。

ちょっと前まで、「ゴルゴ13」の最終回は既に執筆されていてさいとうプロの金庫に保管されている…なんて都市伝説があったのですが、この「ジーザス」のラストシーンも、その位熟成させた…むしろこのラストがある事を前提とした作品、とすら思わせるものなんじゃないかな、と。

さて現在、続編の「砂塵航路」が七月氏原作の「闇のイージス」やたかしげ宙氏原作の「死が2人を分かつまで」や「アルクベイン」とクロスオーバーして続いていますが、この試み、私ゃ凄く期待しているんです。実際面白いですよ?


2011/12/25
「DOGS 〜BULLETS & CARNAGE〜」 三輪士郎(178)、「D×D Joker」 キサ(741)、「GANGSTA」 コースケ(742)
と、「そばもん ニッポン蕎麦行脚」 山本おさむ 監修:藤村和夫(489)


はい、今回の「クローズアップ」はちょっと変わった方向性で、良く見りゃ…いや、ぱっと見でも似てる三作品という事で、比較ネタという事でやってみます。

取り上げるのは上記の三作品。別に私は「パクリは文化」とまで言える程厚顔ではないつもりですが、パクリゼロでは何事も成立させるのは難しい、という観点の持ち主なので、別段パクリ疑惑云々を言うつもりもないし、ましてやパクリをもって断罪する気なんざ無い事を前提にしておきます。そういうの期待しちゃう人は他所へぞうぞ。

…で、この作品の一番の類似性がこんな感じ。

・「街」という割と狭い箱庭的な世界観で完結してしまう作品である点。
・主人公がメインの二人組プラスアルファという構図。
・アンダーグラウンドな仕事をしている連中を軸としたアクション活劇という作風。
・作品そのものが所謂"ビジュアル系"的なイメージである点。
・主人公の相棒的キャラクターの造形。

特に、最後の奴が判を押したようにクリソツなのですね。該当キャラクターの特徴をそれぞれ羅列していくと

「DOGS」のバドー
・右目に眼帯、長髪で優男
・人当たりの良い二枚目半
・ヘビースモーカー
・職業は情報屋でイリーガルな連中に顔が利く
・相棒が地下の実験によって生み出された改造人間で極めて戦闘力が高い
・本人は普通の人間で戦闘に積極的ではないが、その実戦闘力は高い。得物はMAC-11の二丁拳銃
・相棒との仲は腐れ縁的な趣

「D×D Joker」 AG(オールグリーン)
・左手に眼帯、全身皮膚以外緑だが基本は優男風
・基本的に陽気で人当たりは良い
・ヘビースモーカー
・魔薬の売買を生業とし、顔が広い
・相棒…というより妹分のリンが出会った兄弟の兄・ウェイは細胞復元という異能を持ち、戦闘力が極めて高い
・AG自身も不意打ち気味しはいえウェイを取り押さえる等、そこそこ強そうな描写あり
・妹分のリンにとっては(若干ウザがられてはいるが)良い兄貴分

「GANGSTA」ウォリック
・左目に眼帯、長髪、優男
・相棒が相棒なので人と係わるのがメインな為、人当たりは良い
・ヘビースモーカー
・ジゴロ兼便利屋で、裏の人間に顔が利く
・相棒は黄昏種と呼ばれる存在で、やったらめったら強い
・本人もサイレンサー付きの拳銃(ガバメント系)を使い、戦闘力は高い
・娼婦が相棒に対して侮辱的発言をした際に激昂いる等、相棒への信頼は非常に厚い

…っとま、纏めてみた訳ですが…クリソツですね。(笑)
でも、ちゃんと読んでみると三者三様してるんですよ、ええ。「DOGS」は絵…ビジュアル面では飛び抜けてカッコ良いんだけど、その分漫画としてはやや読み難い部分が出てしまってるのが残念…とか、「D×DJoker」は安易に戦闘力の高い兄弟を主役格にしないで、彼等に巻き込まれたリンの方を主人公としていて、そのキャラクターが中々魅力的…とか、「ギャングスタ」はメイン2人の"相棒"という部分が強調されているのが心地よい感じで、アレックスの存在が2人の関係に対して読者の視点と重なる様になっているのが読み易い…とかね。

ま、かく言う私も「幽遊白書」「烈火の炎」「東京アンダーグラウンド」の三作品に対し、

「何だこの『三段変形』は」

なんて嫌味言ってしまっていたクチですが、パクリパクリと言って思考停止してしまう前に、積極的に楽しむ方法ってのもあるんじゃないかな、と思う訳でね。

ま、昔から漫画ってパクリパクられで育ってきたジャンルとも思うのです。以前アニメ映画の「ライオンキング」が公開された際は手塚治虫の「ジャングル大帝」のパクリだ、なんて言われてましたが、実の所そもそも手塚氏の方が当初はディズニーの影響下にあったのは見え見えだったりした訳でね、うん…まぁそれが良いかどうかは別問題ではあるのですが、パクる、パクらない云々は送り手側…作家側のスタイルだよね、と最近思うようになったのですよ。

「そばもん」によると、「通」というモノには三通りあって

まず色々な店ののれんを「通」る人
その中で贔屓の店を見つけて「通」う人となり
ここで自身の下の基準が出来、味の良し悪しが判断できるようになって更に様々なのれんを「通」り、微妙な味の変化や違いを判断できるようになった人…これが真の「通」

なのだそうで。更に、真の「通」は良かった時だけ誉め、それ以外は野暮ったくしているもの…なんだとか。

逆に、自身の味覚を確立する前に本だの何だので、偏った知識を丸呑みして「分かったつもり」になっちゃっている人の事を、「半可通」と言うんだそうで。

漫画の「通」を目指すならさ、やっぱり「半可通」みたいな事を言う前に先ずは楽しむ事だよね、とね、最近は思う訳ですよ、と。



2011/11/02 「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」 五巻 環望(717)

この巻、描かれるのはミナを巡る三支族のハンティングゲームの的となったアキラと、三支族がそれぞれ送り込んだ殺し屋との闘いとその結末な訳です。

アキラの窮地を救うのが、ヴァンパイアにされたが愛する人の血を吸う事を拒絶し、牙を抜いて人としての心を持ち続ける事を選んだ「牙なし」の子供達と、バンドに赴任してきた警察官・浜です。

…で、この浜という男が今回のポイント。彼は刺客に追い詰められ絶体絶命のアキラに対し、こんな台詞を言うのですね。

「もっと強くなれ。強くならなけりゃ…大事な人はみな遠くに行ってしまうんだぞ…」

はい、お気づきの人もいるかも知れませんが、この台詞、私が最も好きな邦画作品「刑事物語2 りんごの詩」にて、先日心臓の手術をしていた事が報じられた武田鉄矢氏演じる片山刑事が劇中のクライマックス…母を逮捕しようとする片山に抵抗するたけし少年を、片山刑事が何度も投げ飛ばしながら言った、あの名シーンでの台詞です。

いいか…男は強くなければ…大好きな人はみんな遠くへ行ってしまうんだぞ!!
強くなれ、ホラ!!
早く強くなれ!!
早く強くなれ!!
これから…ひとりになるんだぞ!!
強くなれ、早く!!
早く強くなれ、オラァ!!
早く!!
早く強くなれ…お前は!!
早く強くならんかオラァ!! 
強くなって母ちゃん守ってやんなきゃ、どうすんだ、オラ!!
強くなんだ!!…早く…強く!!」

この「刑事物語2 りんごの詩」を見た事がある人なら、思わず情景が浮かんできてグッときちゃうかも知れません。邦画史上有数の名シーンだと思うのですよ、ココ。

恐らく、「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」の作者である環先生も、この映画のファンなんだろうなぁ〜とね、思う訳です。ま、全然知らなかったりする場合もね、あるとは思うのですが、この台詞の使われ方を見る限り、「刑事物語」のあのシーンを意識してるのかな、とね。

こういうのでパクリだの何だのと言う人も、まぁいるんでしょうけどね、キレイに使われてるし、むしろ私にとっては同じ趣味の人に出会えた様な、何だか嬉しい発見でした。


2011/10/16
今回のクローズアップは、番外編として「レイコックが選ぶ美女描き漫画家特集」と洒落込みたいと思います。但し、選考基準は当方の独断と偏見の上、建築科出のクセにパースだのなんだのを良く分かってない人間なので、野暮なツッコミはナシの方向で。不親切でお馴染みのウチらしく、参考リンクとかは無いので興味があったら自分で探すべし!!(笑)

…あ、作家名に続く作品タイトルは、その作品に注目、という事で挙げている作品です。

その1 叶精作先生…「実験人形ダミー・オスカー」「オークション・ハウス」他
小池一夫氏と組んで数々の傑作劇画を世に送り出した人。ええ、いきなり大御所中の大御所です。(笑)
思わずエレクチオンしてしまう様なグラマーでセクシーなパツキンのナオンちゃんを描かせたらこの人の右に出る人はいません。間違いなく。氏はかなり早い段階から作画にCGを持ち込んでいた事でも有名ですね。

その2 坂木原レム…「モンスターキネマトグラフ」「フルイドラット」
この人の描く女性は、絶世の美女とか美少女、という類ではなく、街中にも探せばいそうな…美人なんだけど親近感が湧くイメージ。上記二作品ではヒロインに方言を使わせてますが、それも氏の描くキャラクターには似合っているのですね。

その3 アサミ・マート先生…「木造迷宮」
柔らかいタッチ、と言えばこの人。女中萌え漫画として脚光を浴びた上記作品のヤイさんが有名です。氏はトーンをあまり使わず、強い陰影をつけたりもしない素朴さが魅力。安っぽい言葉しか思いつきませんが、正に「癒し系」という奴でしょうか。ヤイさん以外にも、「クロノス・ジョウンターの伝説」のヒロインにも同様の事が言えますな。

その4 甘詰留太先生…「ハッピーネガティブマリッジ」「ナナとカオル」
甘詰先生はエロ漫画出身ですから、ヒロインのエロい表情とかはやはりお手の物…かなりエロくカワイイのですが、氏の真骨頂はヒロインのコロコロと良く変化する表情にあると思うのですね。怒ったり照れたり笑ったり…という、基本的な部分での表情の付け方が上手く、それがキャラクター達の心の機微として、読者にダイレクトに伝わるんですね。

その5 ながてゆか先生…「蝶獣戯譚」
女流漫画家なれど、そのタッチは劇画調なのが魅力のながて先生。何処となく「無限の住人」の沙村先生に画風が似ています。上記作品の陰のあるヒロイン像は、その絵柄と非常にマッチしており鮮烈です。

その6 青山景先生…「ストロボライト」「SWEEET」他
先日も記事にしてますが、個人的には自殺してしまったのが非常に残念でならない漫画家さん。人懐っこそうなクリクリっとした瞳に、丸っこく柔らかそうな頬のライン…というのが氏の描くヒロインの特徴。柔らかなほほ笑みをコチラに向ける彼女達が書店で平積みされていると、オトコならつい手に取ってしまう程の吸引力がある絵柄なのですね。キモいモノ言いかも知れませんが、「彼女にしたい絵柄」とでも申しましょうか。

その7 川下寛次先生…「当て屋の椿」
上記作品の単行本を書店で見たら分かると思うんですが、単行本表紙にはハッとする程キレイなヒロインが描かれてるんですよ。でもこのヒロイン…そのキレイな顔立ちとは裏腹に結構ムチャな性格のはっちゃけたキャラクターだったりして、そのギャップが魅力的でもあるんですな。ヒロインも含め、主要女性キャラは皆所謂「男受けする体」の持ち主なのもストレートに魅力的です。

その8 関崎俊三先生…「ああ探偵事務所」「恋愛怪談サヨコさん」
氏の場合、女性キャラの描き分け、という点では正直ちょっと難があるのですが、その欠点を補うのが表情の崩し方の上手さ、ですかね。男女限らずキャラクターの表情の付け方が上手い人だと思うのですが、特に表情をコミカルな方向に崩すのが上手い印象です。

…ココまで書いて気づいたんですが、私は美人の絵に惹かれるのではなく、勿論ビジュアルを含めた全体の造形に惹かれるケースが多い様で。

あ、ちなみに原哲夫先生とか、桂正和先生とか、北条司先生は敢えて外してるんですよ?メジャーですから。(笑)

ま、こういう好きなヒロイン論、みたいなのもたまには面白いかな、と思いネタにしてみました。


2011/10/15 「SWEEET」「ストロボライト」 青山景 (466、467)

今回取り上げるのは、先日自殺してしまった漫画家・青山景氏の作品です。氏はイブニングにて「よいこの黙示録」なる宗教を扱った作品を連載しておりまして、お気づきの方もおられると思いますが、私自身…この「100選」で

「ストロボライト」
「SWEEET」
「チャイナガール」(原作:花形怜)
「ピコーン!」(原作:舞城王太郎)

と、4作も取り上げている訳で…そう、早い話、かなり好きな作風の漫画家だったのです。しかも青山氏は享年32歳…私は33…非常に年齢的に近い事もあり、今回の自殺報道に結構他人事ではないショックを受けているのです。

と、いうのは、氏のツイッター最後の書き込みが、

「まぁ、やり残したことや、やりたかった夢などはいっぱい残ってはいるけど、「思い残すこと」はあまりないのだ。僕は、僕が生きた32年に、結構満足しているのだ。」

というものだった件。
実は私、似たような事を考えていた事がありました。死にたいとかそういう大それた事ではないし、ニュアンスとしては違うのかも知れませんが…実の所漠然的に頭の何処かでいつもそう思ってしまっている自分がいる…というか…。

氏は「結構満足している」としていますが、私はこの言葉を額面通りには受け取れないのです。青山氏のホントの所…というのは分からないのですが、私自身、「結構満足」というのは建前で、結局の所

「こんなモンだろ」

という諦めが先ずあり、その諦めというか、自己完結的な満足感という奴の源は、紛れもなく今後生きていくとして…という、言わば「先行き」の問題なのかと思うのです。ええ、私自身、今の境遇に大した不満は無いですが、先の事を考えると…恐ろしいのですよ、ええ。

「生きててもしょーがねぇんじゃねぇか?」

とすら思えてしまう程に。だから、将来…先々の為に何かやろうという気力も起きにくく、自己満足してしまっている…青山氏にも、今の私と同じような思いがあったのかもしれない…そして、自殺という結論に至ってしまったのかもしれない…そう思うと、恐ろしくもあり、悔しくもあり…残念なのです。

氏の作風は、クリっとした目のカワイイ女の子が柔らかい笑顔を向けている…という単行本の表紙から抱くイメージからは割とギャップがあるもので、ハードというか、キャラクター達が状況に苦悩し、のた打ち回ります。

でも、彼の描いたキャラクター達は、その苦悩を乗り越えます。あるものは決別という形で、あるものは向かい合うという形で…。
彼等は思い悩み、苦しみ抜いてそれでもなお、最後の最後では自分自身に対して前向きに生きる決意を見せてくれます。

そんなキャラクターを描いてきた青山氏の自殺という終わらせ方に…私は、正直納得出来ていないのです。死者に鞭打つ気も冒涜する気もつもりもありませんが、ただただ残念なのです。

最後になりますが、青山氏のご冥福をお祈りいたします。


2011/10/11 「リバースエッジ 大川端探偵社」作:ひじかた憂峰 画:たなか亜希夫(668)

トップでも書いてますが、「ここが噂のエル・パラシオ」がドラマ化、という事にかなりビックリしているのですが、ドラマが大ヒットした「JIN 仁」を筆頭に、昨今漫画作品のアニメ化ならぬドラマ化、というのは珍しくもなんともない訳です。でも、何でこんな不向きな奴をわざわざドラマにすんのかなぁ…と疑問に感じてしまう作品って少なからずありますよね?

ま、コレはドラマ化ではなくアニメ化でも似たような事は言えますが。(苦笑)

…で、今回は私が「コレをバッチリ合った配役でドラマ化したら絶対ウケるぜ!!」と力説したい作品として、「リバースエッジ 大川端探偵社」を挙げさせて頂きます。

この作品、基本ラインは東京の片隅(描かれている景色から、東京の浅草橋周辺と思われます)にある探偵社に舞込む奇妙な依頼、相談事を巡るヒューマンドラマという奴なのですが、この依頼内容がね、バラエティーに富んでいるのです。例えば

「豪華客船にて開かれるというカラオケ大会の噂の真相を調べて欲しい」
「覗き部屋のあるラブホテルを探して欲しい」
「何処かで開かれているという怖い顔グランプリに参加したい」
「組長が昔食べたワンタンを探して欲しい」
「母が若い頃憧れていた、近所の蕎麦屋で働いていたエルヴィスそっくりの店員を探して欲しい」
「とある接待(所謂「一夜を過ごす」という類の)の替え玉依頼」
「家にあった古びた信楽焼の狸に隠されていた三億円の正体を調べて欲しい」
「チアの練習をいつも見て採点する謎の老ホームレスにまつわるある噂の真相を知りたい」
「バズーカと鎖鎌の対決のレフェリー」
「昔世話になった『人間カメラ』なる不思議な能力を持つ先輩を探して欲しい」
「昔ファンだったアイドル・桃ノ木マリンを探して欲しい」
「放蕩息子をショック死寸前まで追い込んで改心させたい」

…ね、バラエティーに富んでるでしょ?そしてそれぞれのエピソードの結末がまた、リアルというか、切ないというか、深いというか…実に面白いのですね。派手さは無い作品ですが、この空気感みたいなものを実写で上手い事だせたら…絶対ウケると思うのですよ、ええ。

…まぁ、私自身どっちかというとマイノリティーですから、"一部に"かも知れませんが、この「大川端探偵社」は実に実写向けの題材だと思うのです。

で、私が一番好きなエピソードをちょっと紹介しておきましょう。

ある日、探偵社に一人の女性が訪れる。彼女は出張風俗嬢…所謂デリヘル嬢という奴なのだが、客の一人について調べて欲しいという。

その男は、最初に呼ばれた時は性的なサービスをしたものの、次からは月に一度、日曜日に買い物をするだけで3万支払っていて、それが一年間続いている。そしてその男が彼女にプロポーズをした為、探偵社を訪れたのだ。

「知りたい。デリヘルの女なんかに…何故!?」

調査員の村木は、その男…竹内について調査を始める。霞ヶ関の官公庁街に努める孤独なエリート・竹内…彼の持つ"暗さと純度"に何故か共感してしまった村木は、調査員の定石を破り竹内に自らの素性を名乗り出る。

プロポーズ相手にも理由を語らぬ竹内の腹の底を知るには、彼を泥酔させるしかない…そう思った村木は、竹内とひたすらハイペースで酒を飲み続け、そしてそのデスマッチに勝利する。

泥酔した竹内の口から、遂にプロポーズの理由が語られる。

「俺の母ちゃんは娼婦だったんよ」

…このエピソードの、この竹内の独白で私はいつもやられます。私のみならず、女性に対し何がしか、大なり小なりコンプレックスみたいな物を抱えている男なら、このシーン、竹内の心理みたいなものが身をもって分かるんじゃないかな、と。

この作品、各エピソードの結びが非常に上手いのも特徴ですが、その中でもこのエピソードは群を抜いて良い終わり方をしているエピソードです。是非読んでみて欲しいエピソードですよ。


2011/10/10 「高杉さん家のおべんとう」 四巻 柳原望(553)

さて、今回久しぶりのお題は「高杉さん家のおべんとう」4巻です。今回はハルと久留里がラオス海外遠征したりと見どころ沢山となってますよ。特に、ラオス編のラストで見せた久留里の表情は彼女のファン必見だぞ!!(笑)

様々な出来事を共に乗り越えてきたハルと久留里…空回り連発しつつも、いっぱしの"保護者"となっていくハルに対し、久留里の方も徐々にハルのみならず、周囲に心を開いていっている訳ですが、今回の目玉はやはりコレ。

久留里の新しい"友達"ソノカこと園山奏の登場。

今まで久留里の"友達"となっていたなつ希と丸弟…この二人とソノカで決定的に違う点が一つありますね。それは、きっかけはともかく、ソノカに対して久留里は自分から一歩にじり寄って友達になった、という点です。なつ希の場合はハルと彼の同期にしてなつ希の母・香山が手回ししていた部分があった訳で、丸弟に至っては彼の方から積極的にアプローチして久留里の方はやや引き気味なきらいもあったのに対し、ソノカに対しては久留里、彼女にしては、という枕詞は付きますが、かなり積極的に動いています。

この部分、「あ〜久留里ちゃん成長してるなぁ〜」で済ませても良い事かも知れませんが、敢えてちょっと突っ込んだ考察をば展開しようかと。

片やお得好きで奥手…というより人見知りでコミュニケーション能力が低めな女の子・久留里に対し、ソノカは家族そろって体育会系で自身も水泳部部長の部長。裏表のない明るい性格で、当然後輩にも慕われていている…一見接点がなさそうなのですが、この二人、一つの大いなる共通点を持っています。

それは、片思い中の"恋する乙女(笑)"である点。

実はソノカ、丸弟に好意を寄せているものの中々接点が無く、生徒会の書記として立候補したのも丸弟に少しでも近づきたい、近くにいたい…という乙女心から。

つまりは、彼女の丸弟に対しての切ない想いという奴に、久留里は共感したのでしょうねぇ。ナゼなら、彼女も"恋する乙女"ですから。勿論、久留里の場合その対象はハルな訳です。

…で、久留里のハルに対する想い、という奴はこれまでも少なからず描かれてはいるのですが、今回は結構この辺の描写も多くなっている、というのがもう一つのポイントかも。

特に、ソノカとの市民プールでの水泳タイムアタックの後、ハルが小坂さんと仲良く弁当を作るシーンを想像し、

「作ってもらうより いっしょに作る人になりたい な」「はやく 大人になりたいなぁ」

とつぶやくシーンなど、今まではあんまり無かった「突っ込んだ描写」だよね、と。

しっかし、久留里側の描写が多くなっているのは良いのですが、一方のハルと小坂さんに関しての描写が…やや描き切れていない印象がね、実はあります。(私の読み取りが足りんのかも知れませんが)

小坂さんがハルに対し好意を持つに至る…という描写はハルがメモ代わりにやっているブログを発見し、それに書かれている事で一喜一憂する、というのをはじめ割とそこかしこに描かれているのですが、ハルが小坂さんに好意を持つに至る描写…というのは思いの外少ない気がするのですね。小坂さんを巡る恋敵として見られている丸兄に対しての言動にしてもそうです。

そんな訳で、ハルは小坂さんに対し「なんとなく好き」程度に見えてしまっているのに、急に積極的アプローチを試み…ようとしたシーンも、何だか意外な気が。串原での朴念仁っぷりが光っていただけに、尚更…。(笑)

次巻ではこの辺のフォローもあると良いなぁ。

なにはともあれ、この「高杉さん家のおべんとう」…中学生美少女といきなり同居することに…的な所謂「萌え」的なウリを除外してしまっても物語として非常に丁寧に作られた作品です。某書店で発売が一日早いとはいえ、あの「ベルセルク」の最新刊に週刊売り上げで勝った、というのも納得な作品なのですよ。徐々に人気も上がってきたようですが、更にプッシュさせていただきますよ、と。

しっかしねぇ…女子の「デザートものさし」は…すげぇなぁ〜と。男の知らない世界…って奴ですよ、こりゃあ。


2011/08/27 「日々ロック」榎屋克優 二巻(602)

漫画やってる奴は2種類にわけられる。
漫画をファッションのように着こなすクソ野郎と
漫画で闘う奴だ
俺は闘う奴が好きだ

冴えないイジメラレっ子ながら、日夜ギター片手にライブをしている熱い高校生・日々沼拓郎を主人公とした青春ロック漫画「日々ロック」の第二部です。今回は東京デビュー篇、とでも言うべき展開に。

伝説の体育館破壊ライブの後、半年停学をかっ食らって留年こそしたものの、徐々に自分の音楽に理解を示してくれる人も現れ始めた…そんな彼が相棒の依田と共に上京する、という話。

実の所、物語の展開自体はかなりありふれたモノです。上京して早速の挫折、相棒とのすれ違い…そして密かに憧れる彼女を巡っての対決、そして勝利。ね、ありがちでしょ?

そもそもがこの漫画…榎屋先生には申し訳ないんですが、絵柄はややクセがある…というよりどちらかと言うと今風ではない古臭い類のもので、別段主人公のビジュアルがカッコ良い訳でもない。挙句の果てに、スジだってありふれてるっちゃあありふれている。そりゃアンケートで18位とかになってしまうのも分からなくは無いのです。

それなのに、この「日々ロック」は読みだしたら止まらない、止まれない。その理由は、作品の持つ圧倒的な「熱量」。ただ残念な事に、この「熱量」という奴を文字、文章にするのはとても難しいのですね。

ラスト、人気バンド・ザ・ランゴリアーズとの対決で数日アパートの押し入れに籠って書き続けた新曲「スーパースター」を歌いきった日々沼が、憧れの町子からの電話をそのまま切り、吹っ切れたような笑みを浮かべ、相棒の依田と一生ロックを続ける事を確かめる下り…ココでグッときた人は多い筈。一部での「体育館破壊ライブ」よりも良い終わり方だったと思います。

と、いうのも榎屋氏自身、この二部を描くにあたって作中の日々沼に通じるものがある生活をしていたそうで、そういう意味ではその環境が物語に生々しいリアリティーとして反映されていたのかもしれません。

日々沼の不器用でカッコ悪い生き様がね、何とも心打たれるのです。正にこの漫画、漫画をファッションとして着こなすのではなく、漫画で闘っている作品です。

闘う漫画「日々ロック」…熱くなりたい奴は読むべし。


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